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天然素材のゼオライトを核に 持続可能な環境改善を目指す 生命科学部環境応用化学科 渡邊 雄二郎 教授

  • 2019年11月19日
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法政大学での学生時代から、ゼオライトに関する研究を続けてきた渡邊雄二郎准教授。
ゼオライトの特性を生かし、環境問題のサステイナブル(持続可能)な解決に役立つ材料開発にまい進しています。

ゼオライトの特性を生かし 福島の土壌をよみがえらせたい

天然の環境浄化材料であるゼオライトの特性に着目し、有害物質の回収に役立てようと研究を続けています。

ゼオライトは、火山活動によって長い年月をかけて作られた天然鉱物です。直径2ナノメートル※以下という微細な穴(マイクロ孔)が規則正しく並んだ多孔質構造が特徴で、物質を吸着しやすいことから水質の浄化、土壌の改良、脱臭などさまざまな特性を発揮します。

火山大国である日本はゼオライトを手に入れやすい環境にありますが、天然のゼオライトには不純物が混じっているため、人工的に合成したゼオライトも作り出され、用途に応じて使い分けられています。身近なところでは、観賞用金魚水槽のろ過剤、ペットのトイレ砂、園芸や農業用の肥料、洗浄助剤などに利用されています。

ゼオライトの吸着性能を生かした環境改善の一つとして、福島第一原子力発電所の事故で汚染被害にあった土壌から、放射性セシウムを取り除く研究に取り組んでいます。土壌の成分を変質させずに放射性セシウムのみを取り除くことを理想として、さまざまな方法が模索されていますが、技術はまだ確立されていません。土壌の構造を破壊すればセシウムを回収しやすくなりますが、処理範囲を考えるとコストは膨大になり、壊した後の土壌は再利用のできない廃棄物になってしまいます。回収した後のセシウムを安定化させる必要もあります。

この課題解決のヒントは、自然の中にありました。ゼオライトの一種である「ポルサイト」は、セシウムを含んでいます。土壌からセシウムをゼオライトに吸着させて回収し、そのまま閉じこめて安定化させることが可能だという証しです。そこで、人工的にポルサイトを作り出し、セシウムを安定化させる研究を進めています。

再利用できる材料で資源の循環サイクルをつくる

ゼオライトに出合ったのは、法政大学で学んでいた頃でした。環境材料として自分の研究の核にしようと思ったのは、再利用が可能で、手に入りやすい天然素材だったからです。環境に優しく、使いやすい材料で資源の循環サイクルをつくることが、持続可能な環境改善につながると考えています。

従来、ゼオライトは土壌改良を目的とした肥料成分として使われていました。土壌に混ぜることで、天然のゼオライトが持つミネラル成分が土壌に蓄えられるからです。

その用途を発展させ、ゼオライトをそのまま土壌代わりの生育地(培地)として活用する研究にも取り組んでいます。植物の成育に必要な成分を含むゼオライト複合体を製造し、水を供給していれば、ゼオライトのみでも葉物野菜を育てられることは実証できました。企業との共同研究ではゼオライトを埋め込んだシートを製造し、土壌の上にかぶせられるようにしています。これは軽く、持ち運びやすいのが利点です。ゼオライトの特性により水分、酸素、肥料を安定的に供給することができるため、成育状況の良い野菜を育てられます。

農業は、自然災害や環境汚染などで被害を受けやすく、生産性が不安定です。培地の機能性を向上させることで、誰でも効率よく、高品質な農作物を安定的に育てられる未来も夢ではないと思っています。

ゼオライトの環境浄化機能には、まだ多くの可能性が秘められています。さらに研究を深め、用途に適した機能性を高めていくことで、さまざまな環境問題を解決に導く「実践知」になるのではと期待しています。

小学生への科学教育を通じて研究成果を社会に還元

私が取り組んでいる研究は、科学研究費補助金(科研費)をいただいているので、研究成果は積極的に社会に還元していきたいと考えています。

そこで日本学術振興会が公募している「ひらめき☆ときめきサイエンス〜ようこそ大学の研究室へ〜 K A K ENHI」に継続的に参加しています。

夏休み期間に、小学生向けの科学実験講座「水環境ラボ1日体験」を開講。ゼオライトを用いた水浄化装置を作製したり、電子顕微鏡で観察したりしながら、科学の面白さを体験してもらうプログラムを実施しています。

このとき、研究室の学生には先生役としてのサポートを促しています。小学生にも分かるような説明をするには、情報を整理しておく必要がありますし、人に教えることで、知識が自分の中に定着していくことになります。

学生たちはおとなしいところがありますが、法政大学の良さである自由な環境を活用して、のびのびと学んでいってほしいですね。

地熱水を利用した多孔質シリカの製造に関して、特許を出願中

近年の新たな取り組みとして、地下奥深くにあるマグマ層の熱エネルギーを利用した地熱発電にも注目しています。自然エネルギー電力である地熱発電の仕組みは、マグマによって温められた地熱水をくみ上げ、温水の蒸気によってタービンを回し、エネルギーを得るというものです。現時点での電力シェアはまだ0.3%程度ですが、クリーンな再生可能エネルギーとして今後の動向に期待が寄せられています。

ただ、地熱発電にはいくつかの問題が指摘されています。その一つがシリカスケールの処理によるコスト増です。シリカスケールとは、水の中に含まれているケイ酸(シリカ)が、空気と触れたり蒸発したりを繰り返すうちに蓄積してしまう析出物、いわゆる「水あか」です。地熱水のくみ上げなどに使用する配管にシリカスケールが付着してしまうと熱効率が悪くなり、発電出力も低下してしまいます。

そこで、析出したシリカを適宜回収し、配管をきれいにしてから使う作業が必要になります。このときに回収される析出物にはヒ素などの有害なモノが含まれるので、産業廃棄物として廃棄しなくてはなりません。これらの処理に膨大なコストが掛かってしまうのです。

こうしたシリカスケール問題の解決に、地熱水中のシリカを配管に析出する前に、有用な多孔質シリカの製造に利用できるのではないかと研究を進めています。吸着材などに利用できる有用な多孔質シリカにはゼオライト、メソポーラスケイ酸塩、シリカゲルがあり、地熱発電に使用する地熱水中のシリカを除去し、有用資源を製造できれば問題解決に向けて大きく前進します。この技術は、地熱発電所で実験を繰り返しながら実用に向けての研究を進め、現在特許を出願中です。

環境施策として再生可能エネルギーを生み出しても、膨大なコストが掛かってしまえば、安定的に続けることが難しくなります。自然エネルギーの活用が促進されるには、コストは重要課題となるでしょう。

地熱水を用いて発電を行い、シリカスケールの問題を解決すると共に有用資源を製造し、コストを削減することで、持続可能な解決策へとつながっていくと考えています。

※ナノメートル:1メートルの10億分の1を表す単位。

九州の山川地熱発電所での多孔質シリカ析出実験

九州の山川地熱発電所での多孔質シリカ析出実験

生命科学部環境応用化学科 渡邊 雄二郎 准教授

1977年東京都生まれ。法政大学工学部物質化学科卒業。同大学院工学研究科物質化学専攻博士後期課程修了。2009年金沢工業大学生活環境研究所研究員、高度材料科学研究開発センター研究員、同大学バイオ・化学部准教授を経て、2017年より本学生命科学部准教授に着任。現在に至る。博士(工学)。ゼオライトを核に、さまざまなグリーンサステイナブルケミストリー(持続可能な環境化学技術)に取り組んでいる。