お知らせ

グローバルな視点で物事をとらえる力を香港・アメリカ、そして日本3カ国で研究する中で見えてきたもの GIS(グローバル教養学部)グローバル教養学科 ダイアナ・コー教授

  • 2014年01月20日
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アジアを中心としたジェンダーが研究テーマ

大学入学時は、父のビジネスを手伝うために経営学を学ぶつもりでいましたが、実際に授業で学び、自分には向いていないことに気づきました。次の学期に心理学、哲学、社会 学の授業を取り、ようやく自分の居場所が見つかったように感じました。その中で社会学を選んだのは、現実を見極めたうえで批判的な視点から科学的に分析していくところに惹かれたから。私の研究・教育関心は、ジェンダー、セクシュアリティ、人種、階級です。植民地時代の香港で過ごし、差別や不平等を日常的に感じていたことと、中高で通ったアメリカミッション系の女子校でジェンダー規範に縛られることが少なかったので、逆に一般社会とのギャップを認識するようになったことが関係しているかもしれません。

現在の研究テーマは大きく2つあります。1つは日本のジェンダー研究の構築過程と西洋の学問との関係。日本の女性学でも、最近はアジアをベースとしたジェンダー研究も進んでいますが、私の分析では、理論面などではまだ欧米中心になっています。日本の社会学におけるジェンダー研究の位置づけについても、分析しています。 もう1つは「母と娘」の関係です。

昨年、イギリス社会学会でイギリスと香港の母と娘の関係についての分析研究を聞き、同感しながらも「もっと広い研究はできないか」と感じたのがきっかけです。これまで女性の同性カップルの研究を行ってきましたが、そこで得た知見も踏まえながら、もしも娘が生涯独身、女性のパートナーを選んだ場合、あるいは男性と結婚した場合、母との関係はどう変わるのかについても研究したいと思っています。日本だけでなく香港や中国の研究仲間と共同研究を計画中です。

  • 東日本大震災の被災猫の里親になりました。名前はジャッロー̶伊語で“黄色”—喜びと希望の色とされている。疲れを癒してくれる存在

  • スタンフォード大学の図書館。蔵書の充実度と落ち着ける空間が気にいり、学生時代からよく入り浸っていました

物事を批判的に見ることの重要さ、面白さを伝えたい

香港、アメリカ、日本で生活してきたことが、自分の経験が研究と教育の原動力になっていると感じます。アメリカで女性学の講義のTAをしていた時、一部の欧米の学者の中で「フェミニズムの思想は欧米で生まれ、他の国が模倣した」という意識が強いような印象を受けました。しかし、フェミニズムとその国の文化や社会は切り離せないものです。欧米中心の理論では見えてこない部分を感じ、アジアの土壌で生まれたフェミニズムを研究したいと思いました。研究の場を日本に移しましたが、マイノリティである私には、「主流」の立場とは異なる気づきがあるように思います。小さな違和感や体験を通して得た“比較”の視点が、研究者としての私の強みかもしれません。

私は学部構想時からグローバル教養学部のカリキュラム編成に関わってきました。学部誕生から6年、教育内容も充実しつつあり、学生の学ぶ意欲を育む環境に近づきつつあります。学生は総じて素直で、学問に対する強い好奇心を感じます。少人数なので、学生たちと密に意見交換できるのも魅力です。

学生にいつも言っているのは、“Question everything”ということです。物事に対して批判的な視点や分析力を持ち、はっきりとした自分のスタンスを持つこと。授業の中で、その重要さ、面白さを伝えていきたいと思っています。

ゼミの学生たちと。 学期末には食事会を行っています

ゼミの学生たちと。 学期末には食事会を行っています

焼き物の展示会や店巡りが リラックスする時間

初めて日本に来たのは、大学時代、友人との旅行でした。その時は、日本で研究者になるとは思ってもいませんでした。90を過ぎた母やきょうだいのいる香港、私の「故郷」のひとつであるカリフォルニアと行き来しながら、日本をベースに、これからも教育と研究に励んで行こうと思っています。

気分転換には、カフェに行って仕事をしたり本を読んだりします。それから陶磁器や漆器などのうつわが好きで、美術館展示会に足を運んだり、店巡りをしたりしています。また伝統工芸品だけでなく、デザイン性のある新しいものも好き。美しいものを見てリラックスする、それが私の一番の幸せな時間です。

日本の焼き物の美しさは格別。美術品だけでなく、日常使いのものにも温かさを感じます。 ちなみに愛用のマグカップには金繕いが

日本の焼き物の美しさは格別。美術品だけでなく、日常使いのものにも温かさを感じます。 ちなみに愛用のマグカップには金繕いが

GIS(グローバル教養学部)教授 ダイアナ・コー

香港生まれ。香港大学修士課程、スタンフォード大学大学院博士課程修了。
本学国際交流センターのフェローシップを得て来日、1996 年より本学非常勤講師。その後第一教養部専任講師、法学部教授を経て、2008 年、立ち上げから関わったグローバル教養学部教授に就任。主な研究に ‘Lesbians’ in East Asia ( 編 著 ), “Foreign Gaze? Critical Look at Claims at Same-Sex Sexuality in Japan in the English Language Literature”, “Production of Knowledge: A Case Study of Government-Funded Women’s/Gender Studies Program”などがある。