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2015年度学位授与式 告辞

2016年03月24日

2015年度学位授与式 告辞

皆様、卒業おめでとうございます。保護者の皆様にも、心よりお祝い申し上げます。

この卒業式には、1月15日の軽井沢スキーバス事故で亡くなった学生や重症の学生たちの友人や先輩も、列席しておられることでしょう。改めて、亡くなった学生たちの御冥福をお祈りします。そして、3年生も含め、まだ怪我や精神的な傷の癒えていない学生たちの全快を、心から願っています。

ここには進学するかたもおられますが、多くの卒業生が社会に出て働くことと思います。とりわけ働く皆さんは、この軽井沢の事故からぜひ学んで下さい。

ひとつは、私たちの社会は何のために法律や規制を作っているのか、ということです。働き方には一定の規則がありますが、それは働く人々が健康を保ち、その結果、事故や事件の起こらない安定した活気ある社会を創造するためです。行き過ぎた規制緩和や、企業が利益のために規則を破ることは、人が命を失う原因を作るのです。

皆さんは働く現場に出て行きます。働く主体としても、あるいは責任者の側になった時も、自分の損得だけでなく、自らの行動や考えがどのような社会を生み出すことになるのか、人々にどのような影響を与えることになるのか、考える習慣をぜひ身につけて下さい。

また、皆さんは日々、何かを選んで生きています。若い皆さんには、価格が安いことは何にも増して魅力があることでしょう。しかし値段が安いものには、その背後に理由があることを、大学で学んだ学生も多いはずです。ものやシステムを、価格ではなく質で見る眼を養って下さい。

労働に対するフェアでない支払い、労働基準を守らずに長時間働かせること、偽装、そして質を落とした大量生産などによって安くする方法があります。私たちはそういうものに囲まれています。私たちひとりひとりが良いものを選ぶ力を身につけることによって、質の悪いものは売れなくなり、社会は少しずつ良くなります。安全で美しい衣類、食事、住まい、移動手段を私たちは選ぶことができます。良い社会についての価値観を共有している政治家を、私たちは選挙で選ぶことができます。多くのことを気付かせてくれる優れた本を、私たちは選ぶことができます。私たちは「選ぶ」ことによって、それだけで社会を良い方向に向けることができるのです。

私が専門にしている江戸時代には「目利き」という言葉があります。多くのものや人の中で、何が優れているか判断できる人のことです。そういう人はまわりから信頼され、大きな仕事をまかされました。皆さんはきっと、音楽や映画についての「目利き」だと思いますが、日常のあらゆるものの目利きにも、なって下さい。自らの判断で何かを選ぶには、情報収集能力も分析力も必要です。選ぶのが難しい問題のただなかで何かを選択するには、決断力と勇気が必要です。ですから選ぶ能力を養うことは、仕事の能力を格段に向上させるのです。

結婚のかたちも、そのうち「選択的夫婦別姓制度」が通り、皆さんは夫婦同姓か夫婦別姓を選ぶことになるでしょう。江戸時代の武士の結婚は夫婦別姓でした。それしか選択できませんでした。今は夫婦同姓だけです。どちらかを選べるようになるのは大きな進歩ですが、手間はかかりますね。しかしそれが民主主義です。ひとりひとりが学び続け、考え続け、責任をもって主体的に決断するのが、民主主義社会です。大変ですが、それこそが自立した個人が誇りをもって生きることのできる社会です。

自由な意志で主体的に選ぶ生き方は、まさに法政大学生らしい生き方です。たとえば、よくテレビでおみかけするスポーツコメンテーターの為末大さんは、いまだに破られていない男子400mハードルの日本記録保持者で、会社の経営者でもあります。為末さんは法政大学在学中に日本学生新記録を樹立し、自ら世界に進出してオリンピックに出ました。為末さんは専門家に必要なことを聞きながら、最終的な選択はすべて自分でおこなってきました。「自分で決めたかった。法政ならそれができた」と、おっしゃっています。

財政破綻した夕張市を引き受け、自ら夕張市長になった鈴木直道さんは、かつて東京都の職員でした。東京都から派遣されたことをきっかけに、自らもっとも困難な選択をしました。働きながら法政大学で勉強していたとき、仕事をやめず、留年もせず、しかもボクシング部の主将を勤め上げた経験が大きかった、と語っておられます。為末さんと同じように「自由」を生き抜いたのです。

自ら学び、決断し、選んでいく生き方こそ「自由を生き抜く」ことです。ぜひそのことを心にとどめて下さい。

さてこの1年、世界でもたくさんの事件が起こりました。難民がヨーロッパに押し寄せ、同時に各地でテロが起こりました。世界はこれからどうなっていくでしょうか?日本は少子高齢化が進みますが、世界の人口はふくれあがります。気候変動が、世界の情勢をさらに変えるかも知れません。そしてヨーロッパのみならず日本列島でも、さまざまな民族が共存する可能性があります。そしてまた皆さんは、世界のあらゆる所で働くことになるでしょう。すでに皆さんの生きる場所は地球規模に拡がっているからです。そして皆さんの先輩たちは、企業はもちろん、多様な職業で日本中・世界中で活躍しています。

ニューヨークで活躍する漫画家の高嶋美沙子さんは、留学制度がとても充実しているという理由で法政大学を選び、留学を体験し、それが今のキャリアの出発点になりました。法政大学では、たとえ思い通りの成績でなくともコツコツ頑張れば先生が認めてくれた、という経験を語っておられました。その後、どうしてもニューヨークで仕事をしたいと考えた高嶋さんは、自ら電話でインターンシップを探し、単身ニューヨークに渡ってキャリアを積みました。

世界的カーレーサーで、世界最速の女性ドライバーと言われる井原慶子さんも卒業生です。世界70か国で参戦してきました。在学中にアルバイトで行ったサーキットで、ネジ1本のわずかなミスでも人が死ぬ、という極限状況でのスタッフの仕事ぶりを目のあたりにし、自分も限界に挑戦したいと思ったそうです。井原さんは、「チャンスや運は、今を真剣に生きている人のところへ運ばれてくるもの」「人間一人では何もできないけれど、真の情熱を持ってアクションを起こし続けていれば、人から人へとつながり、夢の実現の可能性が増していく」と、とても力になる言葉を、その著書に書いておられます。このように、法政大学の卒業生が日本のあらゆる場所で、そして世界中で活躍する時代になっているのです。皆さんの前には、その道が拡がっています。

皆さんは今の時点で、ひとつの仕事を選んでいると思いますが、これから新しい職業が次々に出現すると言われています。そのためには、学び続ける必要があります。多くの人が学び続ける社会がやってきます。ぜひまた法政大学に戻ってきて下さい。英語で学ぶカリキュラムが増えていきます。大学院もさらに充実していきます。日本の大学から、世界の大学に育っています。働きながらでも、インターネットを利用して学ぶことのできる仕組みが整っていきます。

皆さんは今日卒業していきますが、校友会の一員として、これから卒業生のネットワークを大いに活用することができます。校友の絆を使って未来を開いていって下さい。皆さんがその絆を断ち切らなければ、校友会も大学も、皆さんを応援することができます。

今日はお別れの日ではありません。旅立ちの日です。これからも法政大学のコミュニティの一員として、一緒に、この変化の激しい厳しい社会を、希望をもって乗り越えていきましょう。

卒業、おめでとうございました。

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