HOME > 法政大学について > 総長室より > 総長メッセージ > 2014年度学位授与式 告辞


2014年度学位授与式 告辞

2015年03月24日

2014年度学位授与式 告辞

皆様、卒業おめでとうございます。保護者の皆様にも、心よりお祝い申し上げます。

ただいま入学式が執り行われましたように、皆さんの多くが入学なさった2011年4月、法政大学は入学式をおこなうことができませんでした。そのことが私たち教員にとってもたいへん心残りであり、ぜひ短くとも入学式をとりおこないたいと思っておりました。

2011年3月11日とその後、皆さんの中にはご自身や大切な方々が被災なさった方もおられることでしょう。直接の被災がなくとも、大きな衝撃を受け、さまざまなことを皆さんは考えられたことでしょう。
しかしその日を乗り越え、皆さんが入学し、今日卒業を迎えました。たいへん嬉しいことです。
皆さんはどうか、この入学と卒業を、ほかの世代の誰も持ち得なかった記憶として持ち続けて下さい。2011年3月11日の記憶は、これから皆さんが生きていく原点になるものなのです。

それはなぜなのか、お話しします。
地震は自然災害です。しかしこの震災の第一の特別な意味は、原子力発電所事故という文明災害でもあった、ということです。皆さんはまだ生まれていない時代ですが、1954年、国会議員が原子力予算を国に提案しました。そして福島第一原発の誘致が1960年から始まり、運転開始は1971年でした。
私は1970年に法政大学に入学しました。その私が大学でたいへん充実した時間を過ごしていたとき、福島第一原発は稼動を始めたのです。
地震は日本列島では古代から無数に続いています。日本人はいつもそれを乗り越えて来ました。しかしこのたびの災害は、いまだに克服したとは言えません。それは、これが文明によって引き起こされた災害だからなのです。

私が生まれ育ったその時代に進められてきたことは、日本の経済成長を促しました。その結果、今では日本人の半分以上が、皆さんのように大学を卒業することができています。その上、多くの人が留学体験をしています。このことは、現在海外で起きている学校の破壊や、教育を受けられない多くの若者のことを考えると、素晴らしく恵まれたことなのです。

しかしその一方で、日本は大変な体験もしてきました。私が法政大学に入った年、ある先生が授業で石牟礼道子の『苦海浄土』の一部を朗読なさいました。その時の衝撃は今でも忘れません。水俣病の発生とその経過を書いたこの本は、今では多くの人が読んでいますので、内容はよくご存じだと思います。
この本に書かれた一連の事件が起こっているときに、各地で原子力発電所の建設が同時になされました。さらなる経済成長をするためです。そして今に至り、私たちはこの災害から再出発しなければなりません。2011年は、これからの日本を考える上で、とても重要な年なのです。

皆さんの多くは4月から社会に出ます。社会に影響を与える存在になります。どのような仕事につこうと、仕事をするということはそれ自体が、社会を創ることなのです。どうか、自分の仕事が世界をどのような方向に向けているのか、充分に学び、意識して下さい。それが、いまこそ世界が必要としている「世界市民」という存在なのです。

すでにホームページでお伝えしていますが、先月拘束されて亡くなったジャーナリストの後藤健二さんは、法政二高と本学社会学部を卒業した、皆さんの先輩です。紛争地帯の弱者によりそったその仕事は、まさに世界市民と呼ぶにふさわしい仕事でした。後藤さんが伝えたかったことは、「勝つ」ことではありません。争いの中で生きる場所を失っていく人々の存在に気がつくこと、その人々にまなざしを向けること、その立場に立ってものごとを考えていくことでした。

後藤さんだけでなく、多くの卒業生たちが世界で活躍しています。法政大学はこれからも、力強い市民を育てていきます。市民とは、自分の生き方を社会や他の人々と結びつけて考えることのできる人です。自らの中にある差別感や偏見を乗り越え、社会の格差や問題を少しでも解決しようと、自分と社会の関係の中で行動できる人です。自立しながらも孤立することなく、多様な人々と話し合い、協力して未来を創っていくのが市民です。多くの卒業生たちが、市民として世界で活躍しています。

また今年は、戦後70年という特別な年です。
皆さんが在学中、法政大学では「学徒出陣」をテーマにしたシンポジウムと展覧会を開催しました。戦争中は学校が閉鎖され、大学生は兵士としてかり出されました。総長である私が、「お国のため」と称してあなたがたを戦場に送ることを想像してみて下さい。それは現実に起こったのです。
本学でも前総長が「平和の誓い」をいたしました。「若者に過酷な道を歩ませた責任の重みを忘れることなく、この悲劇をもたらしたものをしっかりと見つめる」と誓いました。私はこの「平和の誓い」を、総長として受け継ぎ、さらに次の総長に手渡して行こうと思います。

何よりもひとりひとりが、自分だけでなく社会全体の理想の未来を思い描き、それに向かって日々の仕事を全うすることが大切です。その未来は皆さん自身の未来です。

日本は急激な流動化の時代を迎えています。皆さんがこれから入っていく職場は、従来の日本の職場とは様変わりしている可能性があります。海外に赴任するかも知れません。日本語を話せない同僚や取引相手と、日々コミュニケーションするかも知れません。しかし法政大学を卒業できた皆さんは、必ず乗り越えて行かれます。基礎的な学力と、状況を切り抜ける柔軟性があります。自信をもって下さい。

迷ったときは、大学時代の友人やゼミの先生や、校友たちと交流して下さい。法政大学は日本各地に校友会をもち、皆さんを支えようとしています。世界各国の校友会も今後次々に組織化され、海外に出る皆さんの力になります。

厳しい時代だからこそ、協力し合うことが必要です。法政大学は中にも外にも、皆さんが頼りにできる場を創っていきます。皆さんもぜひ、それを創る力になって下さい。そして一緒に未来の社会を創りましょう。

改めてお祝い申し上げます。ご卒業、おめでとうございました。

関連リンク