対談・講演記録

【講演記録】男女共同参画推進について(ダイアナ コー理事)

対談・講演記録

「メンター制度参加者による意見交換会」講演記録

 開催日:2023年9月7日(木)

 講 師:ダイアナ コー ダイバーシティ推進・男女共同参画推進担当常務理事

男女共同参画推進の在り方

男女共同参画推進の目標は、男女が等しく社会参加することとされ、公平と平等の視点から、男女間の不平等は人権問題であると考えられています。大学経営者の立場から言えば、大学における教育、研究、意思決定における男女の不均衡を解決しない限り、大学組織を持続することも不可能だと考えます。

では、その一つの課題として組織の運営者や管理職に男性が圧倒的に多いことは、何か問題があるのでしょうか。

人々の考えや視点は環境によって形成されます。現在の社会においては、「男性」と「女性」(および他のジェンダー)は異なる場所に位置付けられ、それぞれの経験が形成されています。女性を意思決定の場から排除することは、組織の運営に女性のニーズや経験が反映されないことを意味します。

今、組織にとって必要なのは、女性やほかのマイノリティなど、排除された人々の経験と潜在能力を発揮する機会をどう作るかです。今まで組織の中心にいなかったマイノリティが組織に入って能力を発揮できれば、新たな視点も期待できます。また実際に多くの研究から、多様性に富んだ大学や教室は学力を向上させるとともに視野が広がり、創造性の向上・組織パフォーマンスの改善につながるとも報告されています。

持続的に女性が組織の中で活躍できるようにするためには性別に関わらず誰でも働きやすい環境を作ることが重要ですが、ポジティブアクションを取り入れることも避けられません。ポジティブアクションは、雇用・教育・文化の分野において、歴史的に排除されてきた女性や他のマイノリティの比率を高めるためにとられる積極的な措置を意味します。

ここで考えるべきなのは、長年差別と抑圧に直面してきたマイノリティにとって、差別しないだけで平等を達することができるか、ということです。蓄積されてきた抑圧や差別は現在のパフォーマンスに影響を及ぼすからです。この状況の改善を目指す積極的な手当てとして、ポジティブアクションを実施する意味があるのです。世界経済フォーラムの予測によると、積極的な措置しないと、アジアにおける男女格差を完全に解消するには165年を要するとされています。

一方、大学組織におけるポジティブアクションによる採用や入学は、妥協を意味するのではないかという指摘もあります。しかしポジティブアクションはクオータを達成することだけを意味するのではありません。女性が管理職になるための指導・研修の提供、女性枠の確保、メンター制度なども積極的な措置であると捉えられます。

また先行研究においても、ポジティブアクションで採用された人のパフォーマンスが低いという証拠はありません。

男女共同参画推進について、覚えておいていただきたいことが二つあります。一つは、女性も男性も、それぞれ同質的な集団ではないこと。国籍・民族、性的指向、年齢、子どもの有無、キャリア・パス、経済状況などなどの違いがあります。もう一つはジェンダーの差を無くすために、あえてジェンダーを意識しなければならないこと。男女間の不平等を解消するためには、男女別集計が可能なかたちでデータを収集し、そのデータに基づいて現状分析を行い、必要な施策を検討・実施し、数値含めて現実を変えていくことが必要です。ジェンダーを無視すれば女性への偏見がないように見えるかもしれませんが、ジェンダー格差が激しい社会では、それが実は差別になっていると考えられます。

本学での取り組み

本学が男女共同参画推進に関心を持ち始めたのは1990年代と、比較的早い時期からでした。大学の経営層において、複数の調査や議論を経て、2020年に男女共同参画タスクフォースが立ち上がり、HOSEI2030特設部会として2021年に現在の男女共同参画推進チームが発足しました。

男女共同参画推進にはそれ独自の課題でもあり、同時に多様化の一環であるとも考えられます。そのため本学においては、ジェンダーや女性に焦点をあて、ダイバーシティの推進の一部として取り組みを進めてきました。そして、その目的を「より多様な学生・教職員の受け入れ、それぞれの個性的な成長と活躍の機会を保証できるように環境整備を進めること」と置いています。男女共同参画推進は日本社会全体の課題でもあるため、本学がダイバーシティ推進の中の重要な一要素として推進を続けることで社会的な評価・価値も高まると考えられます。つまり本学構成員のためのみならず、大学のためにもなると言えるのです。

男女共同参画推進するために、数値目標も設置されています。公開されている目標は2030年度までに管理職、教員・研究者の女性比率を30%にするですが、理想的には40% - 60%がバランスのとれた比率であると考えられます。 30%という大学の目標は、クリティカル・マス(臨界量)理論に合致しています。クリティカルマスの達成によって初めて、女性が新たな視点を介して能力やスキルを発揮し、結果として組織のパフォーマンスに影響を与えることができるのです。

では本学の現状はどうでしょう。現在の女性教員は23.9%、法人役職は15.4%、女性職員管理職は20%未満です。上層部に行くほどその数は減り、また男女の賃金の差異もうかがえます。

そこで男女共同参画の4カ年計画において取り組みを強化しています。中でも、誰もが能力を発揮できる職場環境の提供のために、新しい働き方のモデル構築、ワークライフバランス支援、キャリア形成支援が進行中です。具体的には、課題の情報集約・発信のための男女共同参画ニューズレターの発行、ホームページのコンテンツの充実化、そしてDIVERSITY WEEKsでの企画実施があげられます。

一方で、課題として、女性研究者の採用・定着・育成のための環境づくり、柔軟で多様な働き方が可能な環境の構築、働き方改革の推進、両立支援と形成支援の一体的推進があげられます。これらを解決するために、ネットワーク形成に向けた教職員懇談会や、新入職員対象の両立支援を実施しています。また、キャリア形成に関する研修も計画しており、育休者が安心して子育てに専念できる産育休代替要員体制について、人事部と調整しているところです。他にも学部長会議の場では、女性教員の研究者比率のデータを共有し、今年度中に女性研究者の育成・採用・定着を促進するために、ライブイベントに対して配慮の提案を行う予定です。以上の取り組みがより充実することで、男女共同参画への理解・認識・受容が改善し、ワークライフバランスが実現できる体制になることを願います。そして、この環境づくりによって、クリティカルマスやジェンダーバランスの達成、また性別にかかわらず活躍できる職場になると考えています。

最後のメッセージ

女性の中には、管理職になる機会を望まない人もいるでしょう。その人が本当にあらゆる選択肢を同等に検討できる状況にあるのであれば、それ自体は問題ないと考えています。例えば、500円しか持っていない場合、5000円のコース料理よりも、500円のファストフードやラーメンの方が「好み」だと言うのは説得性がありません。5000円あればどちらも選べますが、500円しかなかったら、5000円のコース料理を「選ぶ」ことはできません。男女共同参画推進が目指していることは、すべての人に本当の意味での選択肢が与えられる環境を作り、それぞれが生きたいように生きてもらうことです。

また、「産育休は周りの人に迷惑をかけ、大学にも余計な人件費などの負担をかけるのではないか」という悩みの声も聞かれます。こうした考えの背景には、「働く人」、がどのような人か、の前提があります。今までは、働く人とは、職場に100%コミットできる、「健常者」である、他の心配がないもしくは「プライベイト」のことは「別の人」にやってもらっているような「働く人間」が想定されてきました。歴史的にみると、このような「完璧な働く人」は、多くの人のサポートや犠牲のもとに成立していました。そして、社会の変化によって、このような条件を満たす働く人は段々と少なくなっています。しかし、現在の体制はこの非現実的な「働く人」をモデルにして作られているので、いまの働く人のニーズに応じていません。したがって、個人レベルで「迷惑かかる」と感じることや組織として「お金がかかる」を考えるのは、最初の設定が間違っていて、現在の体制からすると時代遅れである、と考えられます。

したがって産育休を堂々と取得したり、また働き方についても自身の考えを主張したりすれば良いと考えます。本学においても、すぐに万全の対応はできなくても、体制のアップデートに取り組んでいます。

私自身、学部長や大学法人の役員になって、もちろん楽なことばかりではありません。しかし、そこでしか見ない風景を見ることができます。逃げたいときもありますが、やり甲斐も感じています。同じように、管理職になると責任も重くなりますが、できることは確実に増えていきます。ぜひ一歩を踏み出し、挑戦することを大切にしてほしいと思います。

ダイアナ コー

法政大学ダイバーシティ推進・男女共同参画推進担当常務理事、副学長

グローバル教養学部教授