DIVERSITY COLUMN

公平のための手段

DIVERSITY COLUMN

 アメリカの大学院在籍中の1980年代、ポシティブ・アクションなしでは、黒人と白人の間の格差を埋めるのに120年もかかると教授から教わりました。アジアにおける男女間の格差についても、何か特別な措置を取らないと、格差を完全に解消するには165.1年かかると算出されています(世界経済フォーラム 2021)。女性労働者に係る措置に関する特例(第8条)によると「性別を理由とする差別の禁止、性別以外の事由を要件とする措置は、事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない。」

 ポジティブ・アクションは「女性を優遇する」、「男性への逆差別である」という指摘がよくなされます。しかし、逆に、暗黙のうちに男性へのポジティブ・アクションが長年にわたって行われてきたために、現在のジェンダー・ギャップがあるとも考えられます。また、「男女に関わらず能力のみで判断すべきだ」、「条件を満たさない女子学生を入学させ、能力がない女性を雇うことになるのではないか」という意見もあります。ポジティブ・アクションによる採用や入学は、「クォータ」を達成することだけを目指して基準を妥協するという意味ではありません。理系女子学生への奨学金や女性枠の確保、管理職になるための指導・研修の提供など、今まで男性が当たり前にアクセスできていることを女性にも与える取り組みもあります。 また、先行研究によると、 ポジティブ・アクションで採用された人のパフォーマンスが低いという証拠はありません。

 ポジティブ・アクションは、全ての人の可能性を引き出すことを目指して、各個人が異なる状況にあることを認識し、平等な結果を得るために必要な資源や機会を的確に配分することです。  それは「公平」(エクイティ)と言います。ポシティブ・アクションは公平のための手段です。公平な社会や組織では、多様な構成員が力を発揮して創造性や生産性を上げることになるので、全構成員のプラスになります。

 

ダイアナ コー

法政大学ダイバーシティ推進・男女共同参画推進担当常務理事・副学長

グローバル教養学部教授