男女共同参画ニューズレター

男女共同参画ニューズレター vol.4

男女共同参画ニューズレター

ダイバーシティ&インクルージョンが組織の価値を高める

武石恵美子 キャリアデザイン学部教授

映画「イミテーション・ゲーム」は、第二次世界大戦中にドイツ軍が使用した世界最強といわれる暗号機「エニグマ」の解読のために、イギリスで多様なバックグラウンドのメンバーが集められ、メンバーの多様性が難問解決に貢献するという話である。

現在、人材多様性(ダイバーシティ)推進を重要な経営戦略に掲げる組織が増えている。社会は大きな変動期にあり、複雑な経営課題に対してこれまで踏襲してきた経営手法では対処できないという経営サイドの強い危機感が存在する。組織として重視してこなかったタイプの人材にも目を向け、異質な人材の発想や知見を結集してこの難局を乗り切ることが不可欠と考えられるようになっている。

それではダイバーシティ推進の効果とは何か。多様性に富む人材が個々の能力を発揮できるようになると、イノベーションが起こりやすくなり、多様な市場への対応力を高めるという直接的な効果に加えて、ガバナンスの健全化、それに伴う社会的評価の向上、多様な人材が働くための職場環境改善を通じて優秀な人材が確保できる、といった好循環が期待されている。

ただし、これは理論上の効果である。人材多様性が組織のパフォーマンスを高めるのか、という問いに対する研究結果を総括すると、高める場合もあればそうでない場合もあるということになり、効果が上がるという結論には必ずしも収斂していない。それは、人材多様性にはネガティブな側面があるからである。個人間の相違が存在することにより内部と外部の集団が形成され、異なる属性等をもつサブグループ(性別や人種など)間で葛藤やコミュニケーションの問題が生じ、グループ間で対立のようなものが生じてしまうと考えられる。

このため、ダイバーシティ経営に関する研究では、どのような組織の構造であれば人材多様性の効果が発現するのか、という点を明らかにすることに関心が置かれるようになってきた。 ここで注目されたのが「多様な個人を尊重し包摂・受容する=インクルージョン」である。人材多様性を組織の価値につなげようとするとき、多様なサブグループが組織の中に存在するだけでは不十分で、職場が多様性を理解し受け入れることにより、多様なアイデンティティのメンバーが組織に多様な視点やアプローチをもたらすことが重要になる。例えば、マイノリティのメンバーがいた時に、マジョリティのメンバーに同化することへの圧力を感じることなく、反対に組織の中の特定の分野のみでの活躍が期待されるのでもなく、組織のメインストリームにおいて異なる意見や視点を提供できる状況にあることが不可欠である。

組織の中で自分の意見や気持ちを安心して発言できる「心理的安全性」という概念も注目されているが、建設的に様々な視点や意見、経験、スキルを束ねることで、難局を乗り切ることが期待されている。