男女共同参画ニューズレター

男女共同参画ニューズレター vol.3-1

男女共同参画ニューズレター

「女性枠」=積極的差別是正措置 ~公民権法で定めたアメリカと憲法原理としたフランス~

建石 真公子(法学部 教授)

 

 ある大学が、2024年度以降の学士課程入試から、総合型および学校推薦型選抜において「女性枠」を導入すると公表した。女性枠の募集定員は最終的には学士課程1年の14%にあたる143人とされ、一般選抜入試の女性合格者と合わせると、全入学者数の20%を超える見込みという(現在は13%)。

 こうした「女性枠」、すなわち積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション=AA)は、歴史的に差別を受けてきた者(この場合は女性)に優遇措置を行うものである。多数派にとっては、形式的には不平等な取り扱いとなるが、歴史的・社会的な差別の結果を是正することを目的として行われる。

 AAをいち早く採り入れたアメリカは、1964年の「公民権法」で「人種、肌の色、宗教、性別、出身国など」に基づく差別を禁止し、差別が行われたと認められた時には,裁判所はそれを是正するための「積極的差別是正措置(AA)」を命ずることができると規定して、AAを法制化した。その背景にはケネディ元大統領やジョンソン元大統領による「社会的な平等」という考え方が存在している。1970年代以降、教育機会の重要性に基づき、大学の入学選抜において少数派に対するAAが実施され始めた。しかしそのことは同時に、平等違反であるとして多数派からの合憲性に関する訴訟が提起されることとなった。これまでの訴訟では、単純な数値目標は違憲とされたが、AA自体の合憲性は維持されている。

 いっぽうフランスでは、AAを採りいれるための憲法改正を行っている。1999年、選挙制度に関するAAを採用するため(憲法3条)、さらに2008年にAAの対象範囲を職業等に拡大するため、憲法1条「共和国の基本原理」に「法律は、選挙権や被選挙権、選出の公職に対する、また職業的および社会的責任に対する男女の平等なアクセスを促進する」という規定を新たに挿入した。AAを憲法原理としたのである。人権の国と言われつつ、地中海文化を色濃く残すフランスでは、実は女性議員の数は長い間EUで下から2番目と低く、企業の管理職割合も低かった。EUの政策を背景としつつ、結果としての平等を達成するためにはAAが憲法原理となる必要があると議会は考えたのである。

 日本でも、歴史的に性別は公的な権利(選挙権など)における差別の理由となってきた。その結果、社会的・経済的に不利な状況に置かれてきた女性も多い。大学という教育機関の社会貢献性を考えると、教育を受ける機会には社会の多様性が反映される必要がある。総合的な視点で、機械的な加点ではないAAのあり方を模索することが求められている。