日本に興味を持ったのはまだ幼い頃。貿易会社に勤める父は海外出張が多く、ある日、日本から戻った際に一冊の本をお 土 産に買ってきてくれました。折り紙の本でしたが、色鮮やかな折り紙の写真とともに、絵のようにも見える不思議な造形の「漢字」に魅了されました。何が書かれているか知りたいと調べるうち、日本語への興味が芽生えました。またイタリアでも日本のアニメが放映されていて、兄と一緒に夢中で観たものです。YouTubeなどの動画サイトでも日本の映像を探し漁るような子どもでした。
なかでも10歳の頃に初めて観た、京都の街並みの映像は忘れられません。古民家や町屋といった木造建築の佇まいに「別世界だ」と感 動しました。イタリアには木造建築が少ないので、余計に新鮮なインパクトを感じたのかもしれません。母国の大学では日本の言 語文化社会を専攻し、日本美術史の授業を受けたことをきっかけに仏教美術に関心を寄せるようになりました。
日本留学を決意したのは、仏教美術の知識を深めたいと思ったからです。仏教美術を研究する上で、大学で学んだ日本語をさらに上達させたいという思いもありました。いくつかの大学のシラバスを見て、私が研究したい江戸時 代の浮世絵や、仏教美術とその思想を最も深く学べそうな法政大学大学院を選びました。
国際日本学インスティテュート 日本文学専攻 修士課程 在学中 スカルゾット・フェデリーコさん
浮世絵に着目したのは、日本美術を研究するなかで、庶民の風俗を描くことが多い浮世絵の中に、時々、仏様の姿が描かれていることに気付いたからです。葛飾北斎も歌川広重も国芳も、仏が登場する浮世絵を描いています。しかし先行研究を調べてみると、類似の研究すら全くありません。それなら私が新しい分野の第一人者として貢献したいと「浮世絵における仏画」を研究テーマに決めました。研究の方向性を決めるのは大変でしたが、さまざまな文献を読み込むうちに、おのずと明らかになりました。
仏の中では特に毘沙門天と弁財天を研究対象としています。両者は本来、仏教において天部に属する守護神ですが、江戸時代に七福神」の仲間に取り入れられたことにより、仏というより神として崇められるようになりました。そのため、本来の仏教図像とは異なる点が数多くあります。その差異を解き明かすことが本研究の目的です。
浮世絵の毘沙門天と弁財天は江戸に暮らす庶民の姿で描かれることが多く、弁財天は美人画に、毘沙門天は甲冑を脱いで浴衣姿で寛ぐ様子なども描写されています。簡単にいうと世俗化されたのですが、そこに庶民の目線や体制への反発がうかがえる点が興味深いです。キリスト教で神が戯画化されることはまずありえず、キリストの生涯を描いた絵は、荘厳で重々しい宗教画ばかりです。神と悪魔も明確に区別して描かれるのに対して、仏教では悪魔の姿に近い多面多臂の仏が存在するので、この宗教的対比に魅了されました。西洋と東洋の神仏の捉え方の違いから、文化や思想的な違いが照射されることも面白いです。先行研究がないなか、さまざまな発見を修士論文にまとめ、本研究がこのような分野のスタートポイントとして活用されることを期待しています。
修士課程を修了した後は博士後期課程に進学し、仏教美術の中でも特に仏像研究に力を注ぐつもりです。日本に来てから1年に一度は京都と奈良を訪れるようにしていて、東大寺の盧舎那仏や法隆寺の観世音菩薩を仰いでは恍惚としています。全国の寺社仏閣にも進んで足を伸ばしています。
卒業後は仏教作品を所蔵する日本の博物館で働き、学芸員やナビゲーターとして働くことが理想です。そうした仕事が叶わなければ、日本の美を世界に発信する企業で、大学院での学びと語学力を生かして活躍したいと思っています。いずれにせよ、まだまだ日本の魅力を味わっていたいです。修士課程では小林ふみ子先生のもとで学び、研究の節目節目で適確なアドバイスをいただいています。授業では必ずフィードバックを受けますので、それに基づいて論文の軌道修正を図っています。私に足りない知識を補足してくださるので助かっています。
授業はどれも面白いですが、一つ挙げると「国際日本学合同演習」が楽しみです。定期的にほかの院生のさまざまな研究発表を聞く機会があり、私のアンテナに引っかかるテーマもたくさんあって刺激を受けています。サークル活動を通して学部の友人もでき、最初はイタリアとはかなり異なるコミュニケーションの取り方に悩んだものの、今では親しい関係を築けるようになりました。少しずつ日本の暮らしに馴染みながら、好きなことを追究する幸せを噛みしめています。
(初出:『大学院入学案内2026』)
イタリアの大学では、必ずしも自分で研究テーマを決め、研究計画を立てられるわけではありません。指導教員と一緒に話し合って決めることがほとんどです。ですから法政大学大学院に来て最も驚いたのは、権威ある教授のもとでも、自由に研究テーマが選べることでした。人文科学の領域内であれば私のような異色の研究でも歓迎していただき、むしろ先行研究が少ないことを応援してくださいます。また、人文科学研究科は留学生が多く、国際色豊かです。中国の留学生をはじめアジアの方が多いので、私にとっては異文化交流の貴重な経験ができています。グローバルな環境に身を置きながら自分の研究に打ち込みたい方に、法政大学大学院を強くお勧めします。
法政大学 大学院事務部大学院課
TEL:03-5228-0551
E-mail:i.hgs[at]ml.hosei.ac.jp
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