HOSEIブックレビュー

【第1回】経済学部 藤沢周 教授

教員の本棚から-人生を豊かにする本との出会い-

HOSEIブックレビュー

1冊の本との出会いが自分と未来を変える。

HOSEIブックレビューでは、本学の先生方より、「自分自身の形成に影響を与えた本」「未来を支える若者に読んで欲しい本」「学術領域関連で読んで欲しい本」をご紹介いただきます。
最後に、先生にとって読書とは?の質問にご回答いただいております。

第1回目は、経済学部の藤沢周教授よりご紹介いただきました。

なお、タイトル(書名)をクリックすると、本学図書館蔵書検索システムの書誌詳細画面に遷移します。

自分自身の形成に影響を与えた3冊

西田幾多郎『善の研究』(岩波文庫)

   まだ10代の頃に、故郷の雪景色を見ていて「美とは何か」という沼にハマってしまった。そこから救い出してくれたのが、「無」を初めて言語化したこの本。

梶井基次郎『檸檬』(新潮文庫)  

   こんな獣のような感受性があるのか! どの作品も短く、日常を描いているだけなのに、まったく新しい風景がひらける。「日本文学史上の一奇蹟」といわれた短編集。

スティーブ・エリクソン『黒い時計の旅』(福武文庫)  

   ヒトラーのためにポルノ小説を書く男。二つの時空を生きる主人公の物語は、混迷した現代をアグレッシブにあぶり出す。

   「俺は書く」という、小説の中の一文に感動し、私も小説を書き始めた。
 

未来を支える若者に読んで欲しい3冊

開高健『オーパ!』(集英社文庫)

   作家・開高健が、アマゾンで怪魚釣りに挑んだノンフィクション。森羅万象と戯れるのだ。

   密林が、闇が、ピラルクーが、世界の秘密を開示していく。「書くとは野原を断崖のように歩くこと」とモノした作家の、超興奮的五輪書。

世阿弥『風姿花伝』(岩波文庫)

   「秘すれば花」「初心忘れるべからず」「稽古は強かれ、情識はなかれ」……。能の大成者世阿弥のパフォーマンス理論の書は、人生指南の書でもある。

   ジャパネット・タカタの社長も愛読している、らしい。成功の秘訣がここに。

オイゲン・ヘリゲル述『日本の弓術』(岩波文庫)

   「日本ノ文化トハ何デスカ?」と海外で問われたら、この一冊。弓道を軸に、禅をベースとした日本文化の深層の粋が惜しみなく披露される。

   「的に当ててはならぬ」とは何か。これで、あなたも達人の域に。

 

学術領域関連で読んで欲しい3冊

北村透谷『北村透谷選集』(岩波文庫)

   日本近代文学の祖である詩人は、人間の心の、さらに内奥へと思索を深めた。「内部生命論」は圧巻。

   芸術の源泉を求めた精神的冒険は、かなりリスキーなのだが、透谷のおかげで貴重な登攀ルートができた。その先は私たちだ。

谷崎潤一郎『陰翳礼讃』(中公文庫)  

   近代の明度によって隠れたもの。そこにこそ世界の秘密があるのだ。と大文豪はマニアックな筆致で影や闇を徘徊する。

   かなり変態指数の高い随筆の数々ではあるが、文学がじつは闇の光学なのだと気づく。畏るべし。

井筒俊彦『意識と本質』(岩波文庫)  

   心の底。潜在意識。さらに底。阿頼耶識。

   この言語ならざる位相に降りて、新しい知覚の扉を開けようとしたのが本書。

   つまりは、人間の未知の可能性を探る秘術のような思索から、世界の真相が発見される。驚異の書物。
 

先生にとって読書とは

  善悪正邪諸行無常。人間の底知れぬ深淵を覗き、圧倒されたいのである。