HOSEIブックレビュー

【第4回】経済学部 牧野文夫 教授

教員の本棚から-人生を豊かにする本との出会い-

HOSEIブックレビュー

1冊の本との出会いが自分と未来を変える。

HOSEIブックレビューでは、本学の先生方より、「自分自身の形成に影響を与えた本」「未来を支える若者に読んで欲しい本」「学術領域関連で読んで欲しい本」をご紹介いただきます。
最後に、先生にとって読書とは?の質問にご回答いただいております。

第4回目は,経済学部の牧野文夫教授よりご紹介いただきました。
なお,書名のリンクをクリックすると、本学図書館蔵書検索システムの書誌詳細画面に遷移します。

自分自身の形成に影響を与えた本

永井荷風『断腸亭日乗』

 大正6年から昭和34年までの著者の日記で、権威におもねること無く、「気まま」に生きた人間の日々の思考と行動が、格調高い文体で綴られています。荷風の生き方に憧れるものの、それを可能にしたのが、彼の資産(父の遺産)と所得(印税)かと思うといささか複雑な気持ちになります。それでも1冊(点)だけ本を持って無人島で暮らせといわれたら、迷わず本書を選びます。

C.ドイル 『緋色の研究(シャーロック・ホームズ)』

 確か中学生の時に、中田耕治訳本で読みました。第1部第2章「推理学」で、ホームズ自身がワトソンに解説する推理法は、論理的に思考することの大切さと、獲得すべき知識の集中と選択の重要性を教えてくれました。また別の作品の中で、ホームズは見る(see)と観察する(observe)の違いも語っています。今思うと、私の研究スタイルの原点は一連のホームズ作品にあったのかもしれません。

夏目漱石『こころ』

 高校生の時に初めて読みました。人を信じることや友情などについて、深く考えさせられた作品でした。

未来を支える若者に読んで欲しい本

稗田阿礼・太安麻呂『古事記』

 日本とはあるいは日本人とは何かを知る上で是非とも読んでほしい、日本人には根無し草のグローバル市民にならないために、外国人には日本の原点を知ってもらうために。

江藤淳『一九四六年憲法-その拘束』

 後期高齢者を迎えようとする日本国憲法の誕生過程を中心にした著者の論考。様々な問題が噴出しているにもかかわらず、一部の間では信仰の対象として崇め奉られアンタッチャブルとなっている日本国憲法を見直すきっかけとしてほしい。

本多勝一​​​​​​​『日本語の作文技術​​​​​​​』

 実用的でかつ正確な日本語を書く時のお手本。日本語の書き方に関する書物は沢山あれども、本書の右にでるものはなし、と信じて疑いません。

 

自身の学術領域関連で読んで欲しい本

K.マルクス『資本論(第1巻)』

 学生時代に一夏かけて読み通しました。大著ですが推理小説を読むかのように、その先にどのような展開があるか、ワクワクさせてくれた本でした。当時どこまで内容を理解できたかはわかりませんが、読んだという事実に対する充実感はありました。

和田傳『門と倉』

 院生時代に近代農業史を専攻する同期生から勧められて読みました。地主の視点からみた明治から戦後までの厚木付近の農村を舞台にした大河ドラマで、類書には見られないユニークな視点に「目から鱗」の思いでした。R.ドーア『日本の農地改革』と併せて読むことを勧めます。

坂本賢三『科学思想史​​​​​​​』

 大学2年か3年の頃受講した著者の夏期集中講義が、その後に本書となって刊行されました。4年間を通じた唯一の皆勤講義で、その時に書き留めたノートは今でも大切に保存しています。文科・理科の区分を超越した深遠壮大な内容に圧倒され、「陰鬱な学問」経済学を学ぶことにいささか後悔もいたしました。

先生にとって読書とは

 読書とは、「知的好奇心を満たしてくれるもっとも優れた営み」と思っています。しかし齢60代後半に達し老眼が進み、加えて目病がそれに追い打ちをかけ、活字を追うのが難行苦行となっている今日この頃ですが、幸いにも動画サイトに無料アップされている朗読作品を聞くことで読書不足を補っています。ナレーターとしては、とくに渡辺知明氏と西村俊彦氏が東西の横綱で、お二人による漱石『こころ』を聞き比べて下さい、朗読の奥深さを感じさせてくれます。