ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

都市生活と自然環境の共生に関わる技術の研究(デザイン工学部都市環境デザイン工学科 草深守人教授研究室)

  • 2012年01月10日
ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)
草深教授(前列右から2番目)、技術嘱託の橋本さん(前列右から3番目)と、草深研究室の学生たち

草深教授(前列右から2番目)、技術嘱託の橋本さん(前列右から3番目)と、草深研究室の学生たち

地盤の熱環境と自然再生能力を活用したエネルギー効率の向上と環境保全を研究し、地球環境問題に挑む
「都市プランニング系」「環境システム系」「施設デザイン系」の3つの系統から成る都市環境デザイン工学科。環境システム系に属する草深研究室は、地盤の優れた自然環境を生活や生産活動に活用する技術の研究開発を行っています。「地盤は建設物の基礎としてのみならず、微生物や動植物が育つ環境として水や大気などとともに地球全体の循環サイクルを形成する重要な要素の一つで、近年はエネルギー源としても注目されています。地球環境という難しい課題ですが、学生には研究意義を感じ、責任感を持って取り組んでほしいと思っています」と草深教授は話します。

現在、草深研究室に所属している学部生は4年生6人。主要研究テーマ“ヒートアイランド対策、地下熱環境の利用技術、地下水資源の保全と活用技術”に数年前から取り組み始め、6人の学生達もこれらのテーマに向けて研究を継続しています。具体的には、湿潤土の熱伝導特性、熱・水分輸送特性、三相系多孔質体(固相・液相・気相)内の熱・水分輸送解析技術、地下熱利用の現状調査の4テーマ。研究の進め方は、ゼミ形式で行う各テーマの進行状況や問題点の報告とその改善策の考察を月1回程度と敢えて少なくし、個別指導を中心にした学生主体の体制をとっています。11月8日(火)も各担当・グループが前月分の研究成果の月例報告をし、草深教授から実験方法やデータ収集・分析や活用方針についてのアドバイスと、今後の研究スケジュールの確認を行いました。

11月8日(火)の中間報告の様子

11月8日(火)の中間報告の様子

今回の報告を振り返り、学生がそろって口にするのは「データ分析はほぼ予想通りの結果を出すことができましたが、研究において何より難しいのは実験のための装置開発」ということ。新たな研究結果を出すためにはそのための実験装置が不可欠で、草深研究室は装置も独自で開発しているのです。「研究は大変ですが、それだけ社会に求められている分野なのだと感じています」と話すのは茂木博美さん。足達岳瑠さんは「何とか研究を進められているのは、技術嘱託の橋本保さん(元地質調査コンサルタント)が丁寧に教えてくださるからですが」と笑って話し、他の学生5人も大きくうなずきます。東日本大震災の影響でエネルギー問題が取りざたされる昨今。茂木さんは「私たちのような研究がさらに発展し、いつか自然エネルギーである地熱発電が原子力の代替エネルギーになればいい」と話します。

4つの研究テーマ

水分移動の実験風景。「橋本さんは、私たちにとって大先輩のような存在。実験ではいつもご指導いただき感謝しています」(学生一同 ※写真左から2番目が橋本さん)

水分移動の実験風景。「橋本さんは、私たちにとって大先輩のような存在。実験ではいつもご指導いただき感謝しています」(学生一同 ※写真左から2番目が橋本さん)

湿潤土の熱伝導特性、熱・水分輸送特性、三相系多孔質体内の熱・水分輸送解析技術、地下熱利用の現状調査の各テーマに取り組んでいる草深研究室。

湿潤な土の熱伝導特性を担当しているのは、中尾信之さんと茂木さんです。土の種類、密度および含水量の違いによる熱伝導率の変化に固相・液相・気相の分率がどのように寄与しているかを測定するための試験機の開発・試作、実験を行っています。地盤の良質な熱環境をより効果的に空調システムに組み込む際には必ず必要となる重要な特性です。「代替エネルギーが語られる際あまり注目されていませんが、地盤は安全で質の高いエネルギーを年間を通じて最も安定して得られる数少ない熱環境でもあるんですよ」と説明する茂木さん。大学2年生の時から将来は建設業に就いて環境保全に貢献することを希望し、道路舗装会社の内定を獲得している中尾信之さんは「研究活動を社会に出てからも生かしたい」と話します。

西村哲朗さんと橋本荘史さんが取り組んでいるのは熱・水分輸送特性です。土に含まれる水は、太陽放射、大気の湿度や温度、風速の大小に応じて蒸発速度が変化し、土壌や地表面近くの気温を調節。道路表面を長期間冷却する保水性舗装に関する要素技術として、土中の水分と熱の同時輸送現象の解明を分担しています。「つまり、気化熱利用の研究です」と話す橋本さん。西村さんは「舗装体内に十分な雨水を貯留し、晴天時にこの水分を必要量無駄なく路面に供給できれば、結果として異常な気温上昇は抑えられ、歩行者や周辺施設の利用者の不快感を和らげることができます」と解説。公務員としての就職が決まっている橋本さんは「いつか道路事業を担当し、東京都のヒートアイランド現象抑制に努めたい」と意気込みを語ります。

「テーマとしては中尾君、茂木さん、西村君、橋本君の研究と関連しますが、僕が研究しているのは土中の熱・水分輸送に関する連成解析技術とその実験的検証です」と研究内容について話し始める足達さんは「彼らの貴重な実験データや研究成果を利用することで、土中の熱・水分輸送現象を予測するためのシミュレーション手法の調査・改良と、検証実験データの集積を行っています」と解説。また、足達さんと同様に一人で研究を進める小林光喜さんは、北欧や米国を中心に急速に普及し始めている地下熱利用の現状について諸外国の論文を分析し、日本における地下熱利用の将来性についての提言をまとめたいと語ります。

方法は違えど、地盤の水・熱環境の利用技術に取り組む6人。「地球環境に少しでも優しい都市の再生に貢献したい」という思いを胸に卒業研究発表に向かって毎日、地下実験室で奮闘しています。