ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

機械学習と進化的計算(情報科学部コンピュータ科学科 佐藤裕二教授研究室)

  • 2011年11月08日
ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)
佐藤教授(前列中央)と、研究室の学部生・大学院生たち

佐藤教授(前列中央)と、研究室の学部生・大学院生たち

人工知能の一分野“進化的計算”研究で、社会に求められる開発者を目指す

近年社会が複雑化する中で、処理技術の高度化・高速化のみならず、人間行動を見極めて機械自身が進化・発展することが求められるようになった情報処理分野。佐藤研究室は、人工知能としても注目を集め、生物進化からヒントを得た“進化的計算”をテーマに、主に遺伝的アルゴリズムと言われる手法を使った研究を行っています。「簡単にいうと」と説明をはじめる稲見大輔さん(修士2年)は、「進化的計算によるロボットなら火星に置いてきても自律的に生きていける。従来の手法を使ったロボットは人間が命令した通りに動くだけでしたが、これは自ら考えて環境に適応していくのです。面白いでしょ?」と進化的計算の魅力について語ります。

佐藤研究室は、学部生15人(3年7人、4年8人)と院生6人の計21名が合同で授業を実施。3年生は順番で講師を務めるスタイルでテキスト『集合知プログラミング』(出版社:オライリージャパン)の輪読を、学部4年生と院生は4年前期で決めた研究内容の経過報告を行っています。10月11日(火)の授業では、今回の報告者の一組であった森本さおりさん(4年)と藤井美霞さん(4年)が、共同研究「献立作成ツール構築における多目的最適化」について発表しました。現在Web上で公開されている献立作成ツールは人が作ったメニューを材料等で検索するシステムですが、森本さんと藤井さんが目指しているのは健康状態やアレルギーなどの項目にチェックを入れると自動的に栄養価を計算して献立が生成されるシステム。例えば、“喫煙”の項目にチェックを入れるとビタミンを多く摂取できるメニューが自動的に作成されます。

10月11日(火)の授業の様子

10月11日(火)の授業の様子

研究内容に関し「“ダイエット”や“疲労”などの条件も考えましたが、現実的なツールを構築したいと考え、数値化できるもののみを条件としました」と話す森本さん。稲見さんは「どんなに明確な制約を設けても、予想外の結果が返ってきたりする。だから面白いと思います」といい、さらに白神真一さん(修士2年)は「佐藤研究室は自ら考えることが大切にされているので、指示されるよりも自律的に研究したい人には、モチベーション高く取り組める環境だと思います」とコメントします。

大手メーカーで長く研究員として活躍し、採用経験もある佐藤教授は「最近の学生は技術志向に偏っているようですが、企業が求めるのは自律的に考えられる人。研究を熱心に取り組んでいさえすれば、手段としての技術は必然的に磨かれます。学生には試行錯誤できる時期だからこそ、研究を通して多くのことを学んでほしいと思っています」と話します。

研究心が満ちるそれぞれのテーマ

一人ひとり広い作業スペースがある研究室。しかし、社会で求められる人材を目指すためにも、佐藤研究室では2人以上で十分に議論を行いながら研究に取り組むことが推奨されている

一人ひとり広い作業スペースがある研究室。しかし、社会で求められる人材を目指すためにも、佐藤研究室では2人以上で十分に議論を行いながら研究に取り組むことが推奨されている

学生自身の自主性・主体性を大切にしている佐藤教授。そのため、学生の研究内容は多種多様です。

稲見さんが研究しているのは「サッカービデオゲーム戦略の自律的獲得」。人間が考えたゲーム戦略で動くチームと、進化的計算を利用した機械学習を使って試合中に進化するチームが対戦するゲームです。従来の例では対戦チームが強い場合にしか進化しなったことに対し、稲見さんが開発しているのは相手が弱い場合でも対応する仕組み。現在は、機械が進化する指標を実験・調整中です。「僕が取り組みたいのはゲーム開発ではなく機械学習の研究」と話し、業界最大手の複合機メーカーに就職予定の稲見さんは、「今や仕事上欠かせない複合機を核に、ユビキタスで業務を効率化できる仕組みを作っていきたい」と今後の意気込みを語ります。

稲見さんと同じく、ネットワーク化されていく社会において人々が最適なWeb環境を得るため、ユーザー主体の開発を行っていきたいと考え、Webエンジニアとしての就職が決まっている白神さん。「Bayesian Optimization Algorithm (BOA)で数独を解く」と題し、数独を用いて、BOAを実応用問題に適用する場合の問題点の洗出しと探索精度向上の研究を行っています。通常使用される2進数のコードを用いた探索をリージョン(3の3乗で表す数字のかたまり)候補を用いた探索に置き換えることで、探索空間を絞り込み、進化的計算におけるアルゴリズムの一つであるBOA内での処理を早くさせる構造。佐藤教授に「かなり効果があると思う」と言わしめる研究は今、効率のよい実装方法をどうするのか、最終調整に入っています。

「研究室の他の人たちとは、志向性が違うかもしれません」と話すのは、「島モデルの実装」について研究している長谷川直広(4年)さん。GPUと呼ばれる画像処理装置において、島モデル(集団を複数に分割して島ごとに情報処理を行う遺伝的アルゴリズムの一つ)によって並列度を高くし、処理スピードの高速化に取り組んでいます。「遺伝的アルゴリズムに興味があってこの研究室に入りましたが、僕はあくまで技術者でありたいと思っています」という長谷川さんは、とにかく技術が好きで、好きだからこそ深められる世界を追求したいのだと語ります。「この研究テーマを追求できたのは、ご自身の専門とは異なるにも関わらず見守ってきてくださった佐藤先生のおかげです」と話し、卒業後も大学院で技術者ならではの開発を貫いていく予定です。

自律的に研究を進めるからこそ得られる充実感・達成感が、彼らの研究心をより掻き立てているようです。