ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

広告コミュニケーション論と広告制作過程の理論と実践 (社会学部メディア学科 須藤春夫教授ゼミ)

  • 2011年10月25日
ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

大手企業と博報堂OBの直接指導による広告制作で、社会文化を学ぶ

10月上旬の授業の様子

10月上旬の授業の様子

須藤ゼミでは「広告コミュニケーション」をテーマに、広告を通じた社会・文化を研究しています。最大の特徴は、各業界の大手優良企業や団体からの協力を得て行う広告制作の実習です。企業からの商品説明を受けた後、主に(1)現状分析(2)仮説立案・調査・コンセプトメイク(3)テレビCM制作の3段階に分けて制作進行。2段階目においては毎回、博報堂に勤めるOBから直接の指導をも受けています。2011年度の協力企業はアサヒビール(株)。10月上旬の授業では、前期最後の授業で企業担当者から受けた『クリアアサヒ』の商品説明と夏休み中に取り組んだ現状分析を踏まえ、博報堂勤務のOBを招いての仮説立案を行いました。

前列左から伊藤健志さん・伊藤一枝さん、前列右の須藤教授と、ゼミ生たち

前列左から伊藤健志さん・伊藤一枝さん、前列右の須藤教授と、ゼミ生たち

3つに分かれたグループのうち、2グループはクリアアサヒを「食事をおいしく楽しくする“食中酒”」として仮説提案しました。ゼミ長でもある遠藤光敏さん(3年)が「成人した子供を含む4人家族のコミュニケーションツールにしたい」と話し、丸谷瑞稀さんはその理由を「競合製品と比べて後味がすっきりしていて料理の邪魔をしないと感じた」と発言すると、博報堂に勤めるOBの伊藤一枝さんは「ただの食事ではなく“家庭料理に合う”という視点は面白い。けれど、友達でも夫婦でもなく家族にこそ求められる価値をもっと探る必要がある」と指摘。四條僚一さんが「はじめは苦みが少ないのが最大の特徴だから現代の若者が取り込めるのではないかと想定し、そこから家族全員に飲んでもらいたいと思ってターゲットを広げてしまった」と経緯を話すと、伊藤一枝さんと共に学生指導を行っている博報堂の伊藤健志さんは「若者主導でビールをコミュニケーションツールにするのも、新しい価値を生みそうだね。ただ、まずは“誰に飲んでほしいか”ではなく“どこにチャンスがあるのか”から掘り下げる必要がある」とアドバイスしました。ゼミ生は今回の授業を元に、アンケート調査した上でのコンセプト決定、絵コンテやキャッチコピーの作成、30秒のテレビCM映像制作、企業へのプレゼンテーションと進めていきます。

 ポスターに興味があって須藤ゼミに入ったという加藤智子さん(3年)は「広告は様々な要素が考慮されて成り立っているものなのだと知った」とコメント。萩原芳樹さん(3年)は「博報堂の方々は表面的なテクニックではなく広告の考え方を教えてくださいますし、協力いただいている企業はプレゼンテーションを点数とコメントで評価してくださるので、とても勉強になります。他のゼミ生からは“贅沢だ”と羨ましがられています」と笑って話し、ゼミ生たちは「だからこそ、チャンスを与えてくれた全ての方に感謝して期待に応えたい」とプレゼンに向けた意気込みを話します。

広告コミュニケーション研究を通じて、自らのスタンドポイントを築く

昨年のOB・OG会の様子。須藤ゼミではより多角的な視点を養うため、OB・OGも含めた33代に渡る立食パーティや、ゼミ生以外も自由に参加できる博報堂社員による広告講義も実施している

昨年のOB・OG会の様子。須藤ゼミではより多角的な視点を養うため、OB・OGも含めた33代に渡る立食パーティや、ゼミ生以外も自由に参加できる博報堂社員による広告講義も実施している

ANA、花王、新日本石油、任天堂……これまで毎年、日本を代表する優良企業の協力を得て広告制作に取り組んでき須藤ゼミ。しかし広告制作はあくまで学習手法の一つととらえ、1年を通して広告コミュニケーションを総合的に研究しています。広告は、経済状況・市場動向をマーケティング分析し、イノコグラフィー(図像学)などを用いて消費者行動を効果的に促す、企業・団体の宣伝活動。須藤教授は「広告の理解は、広告表現を分析しコンセプトを探り出すメディアリテラシーと、マーケティングを駆使してコンセプトを作り出すコミュニケーションデザイン、そしてそれら2つの核になるコンセプトワークの3つの視点で捉えられる」と話し、前期の授業では、後期の広告制作の前提ともなる基礎力を身につけるため、広告コミュニケーションの古典文献である山本明・加藤秀俊の論文を用いたコンペ式討論会を行っています。

討論会は毎年テーマを変え、グループ同士のコンペ式で実施。「今年のテーマは“70年代広告と現代広告の違い”でした」と鮫島愛美さん(3年)は話します。ひばり野茜さん(3年)「ゼミは2年生から始まるので、討論会は3年生にとって2回目になります」と説明し、「同じ文献を繰り返し研究することで、先輩が去年ポイントと指摘していた箇所がなぜ重要だったのか気づきました」と続ける加藤さん。そうは言っても「グループ内でさえ意見は分かれる」と萩原さんは話します。しかし、「ゼミで学んだのは何よりも、社会には多様な価値観があるということです。意見の対立は勝ち負けではなく、人によって物事の捉え方が違いだと学びました」と語る卒業論文に取り組む4年生の南里仁美さん。「今では他者との違いを楽しめるようになった」と話す元ゼミ長の石田恭子さん(4年)も、自らの価値観を明確化できたことで「広告代理店よりも商品開発等で市場活動を主導的に行い、メーカーよりも消費者に近い立場にある、希望の小売業界に就職が決まりました」と話します。

「広告研究とは複雑な社会を読み解く一つの方法です。学生には広告制作を通じて社会を生き抜くスタンドポイントを見つけてほしい」と語る須藤教授の思いは、確実にゼミ生へ伝わっているようです。