ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

「植物医師」を育てる(生命科学部生命機能学科植物医科学専修 堀江博道教授研究室)

  • 2011年10月03日
ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)
病状が表れている植物に対し「きれいな模様!」と、植物医科学専修ならではのコメントを発する場面も

病状が表れている植物に対し「きれいな模様!」と、植物医科学専修ならではのコメントを発する場面も

フィールドワークで、地球環境問題と向き合う「植物医師」を目指す

「地球温暖化、食糧危機、資源エネルギー枯渇……植物医科学は、これら環境問題の処方箋として期待される学問なのですよ」と、柔らかな口調ながらも熱く語るのは、植物医科学専修の専修長を務める堀江博道教授。樹木医補の資格も取れる同専修の中でも、堀江研究室では植物医師を目指し、実際の植物医師や樹木医と同様に植物の病気を直接診断し予防・治療までを行っていることが特徴です。診断する植物は、研究拠点とする都内の公園や農場を研究室の学生たちと訪れてフィールドワークで採取したものと、堀江教授自身が企業・団体から依頼されたもの。「植物に正面から向き合うことを学生に大切にしてもらいたいと考え、フィールドワークを積極的に行っています」と堀江教授は話します。研究室名は、医学でも注目の「総合診療研究室」です。

堀江教授(前列左から2番目)と研究室の学生たち

堀江教授(前列左から2番目)と研究室の学生たち

後期第1回目となる9月9日(金)の授業もフィールドワークからスタート。今期から新たに研究拠点として加えた小金井公園を訪れました。「一目で断定するのは難しいですね」と、“小金井公園ならではの植物病の特徴は?”との質問に答えてくれたのは轡加那さん(4年)。地形・地質・気象・管理状態などによって病状や進行具合が異なることもあるため、的確な診断をするには長期的な観測が必要なのだと言います。

約4時間をかけて大きなビニール袋3つがいっぱいになるほど病状が表れている植物を収集し帰校した学生たちは、続けて植物医科学の本番である診断研究を行います。「プレパラートを扱うのがまず大変。目的物を見つけるだけでも技術が要ります」と笹井裕里さん(3年)が話すだけあって、機具を使いこなす4年生でも調べられる植物病の数は一日1つ。しかし堀江研究室の中には、1年で100以上を調べる学生もいます。「顕微鏡で観察して初めて目的外の病原体が見つかることもあるんですよ」という森髙詩帆さん(4年)。また、仲田理恵さん(4年)は「特に外部から依頼されたものは特殊な症状を表しているものも少なくありません。地球環境の変化を肌で感じます」とコメント。学生たちは堀江研究室での研究を通し、植物医科学の奥深さを体感しているようです。

「複雑化する地球環境問題に植物医師として貢献するには、“問題を発見し、仮説を立て、解決に導く”というマクロ的視点が欠かせませんし、マクロ的視点はその後の人生においても役に立ちます。学生には感受性豊かな大学生という時期に、多くのことを吸収してもらいたいと思っています」(堀江教授)

今、社会からの期待が高まる植物医科学

先輩が後輩を優しく指導しながら研究を進めていくのも、堀江研究室の特徴の一つ

先輩が後輩を優しく指導しながら研究を進めていくのも、堀江研究室の特徴の一つ

2011年度、初めて第1期生が卒業する植物医科学専修。就職難と言われる中でも堀江研究室の学生たちは、研究室での活動を存分に発揮できる道へ進むことを決めています。

研究活動と直結した進路を歩むのは仲田理恵さん(4年)。大手建設会社のグループ企業である緑地管理会社の内定を獲得し、樹木医補兼植物医師として活躍する予定です。「実務経験を積めたことが内定先の企業に評価されたのだと感じています」と話す仲田さんは、自らの研究に加え、堀江研究室が緑地管理団体から依頼された植物病診断も担当。インターンシップでは、難しい、正式な診断書の作成も経験できたと言います。「樹木医補養成機関に認定されている法大の植物医科学専修に入学できたことも、今思えば幸運でした。特に堀江研究室はオススメですよ」と、後輩へエールを送ります。

轡加那さんが予定している卒業後の進路は海外大学院。「いずれは『国際連合食糧農業機関(FAO)』で発展途上国の農業技術向上に貢献したい」と言います。きっかけは、大学3年の時に行ったアメリカの大学へのインターンシップ。 “農業の天敵”と言われ、轡さんが研究したい線虫専門の植物医師の仕事があることを知り、小学生の時にユニセフの授業を受けてから抱いていた社会貢献への思いと融合したそうです。「自分の力を今後、少しでも社会で生かしたいと思っています」とコメント。轡さんはこの秋、世界へ向けた大きな一歩を踏み出します。

100以上に上る植物病の研究成果に対し「堀江先生の熱意につられたのかもしれません」と笑いながら話すのは、日本赤十字社に内定した湯上正隆さん(4年)。「堀江先生は先輩がいない私たち第1期生のために自ら就職状況や企業状況を調べて教えてくださったり、植物医科学専修からの進路見込みがある企業の知人や息子さんまでを招いて厳しい企業倫理を伺ったり,模擬面接・グループ討議なども開いてくださいました」と、就職活動当時を振り返ります。応募企業に提出する研究資料の添削もしてもらったそう。「研究を通して堀江先生から学んだのは何よりも、人のためにできることをすること。社会に出てからも忘れずにいたい」という湯上さんは忙しい研究活動の中、国家資格である技術師補の資格取得にも力を注いでいます。

「植物医科学は、緑化事業会社や行政等のみならず、製薬・食品・流通企業や、CSRを重視している各業界企業への可能性も広がっている」と堀江教授は話します。