ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

経営戦略の基盤を学ぶ計量経済学(理工学部経営システム工学科 中村洋一研究室)

  • 2011年09月05日
ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)
中村教授(写真後列左から2番目)と、理工学部の中でも一際華やかな研究室の学生たち

中村教授(写真後列左から2番目)と、理工学部の中でも一際華やかな研究室の学生たち

データを使って社会をエンジニアリングする

現在の経済理論が社会システムに即しているか否かを見直すと共に、経済政策を検証し、経済統計の理論と技術で将来予測を打ち立てる計量経済学。中村教授研究室では“社会に役立つ経済学”をテーマに計量経済学を研究しています。研究が始まるのは3年の後期。4年前期までの1年間は計量経済学のテキストを使った輪読を、4年後期は卒論制作を行います。

前期の授業では、『統計学から始める計量経済学』(北坂真一著)をテキストに輪読を行いました。授業は、テキストで挙げられている数式やグラフをその日の担当者が解説し、それについて皆でディスカッションするスタイル。

輪読の授業風景。「ノリは文系。ディスカッションも毎回活発です」(大野さん)

輪読の授業風景。「ノリは文系。ディスカッションも毎回活発です」(大野さん)

ゼミ長を務める大野智之さん(4年生)は「数式やグラフはそれら自体が複雑ですが、そこに歴史的背景や社会問題といった自分なりの見解を入れていかなければならないところが難しいポイントです」と説明します。さらに、「研究室では輪読に加えて事例研究も行っています」と言う西川駿太さん(4年生)。4年前期は“インターネットの普及と広告の衰退”や“都道府県別のGDPと労働人口”などについて考察しました。「輪読で基本を、事例研究で応用を学べるため、計量経済学への理解をより深められます」とコメントするのは下村康平さん(4年生)。池田晴輝さん(4年生)は研究を通じて、「マスメディアで取り上げられる問題においても社会全体を俯瞰した冷静な見方ができるようになりました」とこの1年を振り返ります。「自主性を重視して下さる中村先生のご指導のおかげだと感じています」と渡辺成也さん(4年生)は補足し、研究室の学生は中村教授を「父親のような存在ですね」と声を揃えます。

中村教授は「経営工学は独自性の高い学問であると同時に、物事の成り立ちやメカニズムをエンジニアリングするという点で電気系・化学系などモノづくり系学科と同様に社会の営みを支える学問」とし、「このオリジナリティを誇りに持って、研究と、卒業後の社会に活かしてほしいと思っています」と学生へエールを送ります。

IT・官公庁・金融・メーカー・製薬……未来につながる研究テーマ

PC前で調査データについて話し合う研究室の学生たち

PC前で調査データについて話し合う研究室の学生たち

“社会に役立つ経済学”と掲げたテーマを証明するかのように、中村教授研究室は各業界企業で活躍する人材を多く輩出してきました。業界は、ITをはじめ、官公庁・金融・メーカー・製薬など多岐に渡ります。

特に中村教授が「院生並みの研究成果を残した」と絶賛するのは、「年金制度の改革による貧困層への影響」に取り組んだ2007年度卒業生です。通常、大学での経済学研究はモデルを解析的に解いて社会問題を検証することが中心。しかし、同卒業生は既存の複数の数式を組み換えて独自の関数を作成し、Excelによる直接的な最適化により増税が必ずしも貧困層に影響を及ぼすとは限らないことを検証しました。さらに、国庫負担率と消費税率の比率を4パターンでシミュレーション。今後の日本の年金制度改革について政策提言を行いました。
現在、同卒業生は他大学大学院を卒業し、金融系研究所に所属して社会問題解決に貢献。中村教授はその報告を受けた時のことを「嬉しかったですね。経済学は社会でこそ活きる学問だと思っていますし、私自身も大学卒業後、大学人としての道を歩むまで、公共機関において同じ想いを胸に尽力してきましたから」と振り返ります。

同卒業生以外にも、学生自らの将来と、より良い社会につながる研究をしてきた卒業生は多数。地元静岡を活性化させたいと、研究の事前調査においては自ら静岡県庁や静岡空港へも足を運ぶなどして、大幅な赤字が続く「静岡空港の存続可能性について」を研究し、地元銀行に就職した2009年度卒業生。日本のエネルギー問題の重要性から、「太陽光発電システム導入量の将来予測」をテーマにドイツを例に日本の太陽光発電システム導入を増加させるための方法を検証し、メーカー系IT企業に就職した2008年度卒業生。IT・官公庁・金融・メーカー・製薬と、中村教授研究室の学生は研究内容も卒業後の進路も経営工学を軸に多岐に渡ります。中村教授は、「今後も社会の一翼を担う人材を育てていきたい」と語ります。