ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

漢詩漢文――日本文学の源(文学部日本文学科 黒田真美子ゼミ)

  • 2011年06月27日
ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

日本文学文化の源を知り、今に活かす

黒田ゼミでは主に六朝時代から唐代を中心とした漢詩の研究を行っています。「高校生の時から法政の日文で漢詩を学びたかった」という髙木南さん(4年生)のような人はもちろん、文芸創作に取り組みたい人や黒田教授の指導を受けたい人など、さまざまな学生が学んでいます。黒田教授は「漢詩漢文は日本文学に大きな影響を与えました。いわば日本文学のルーツです。それゆえ日本文学科に漢詩漢文の授業があるのです。そして漢詩には、多様な人間像や人生が詠まれています。友愛・挫折や孤独・寂寞など現代にも通じる普遍性に共感し、<人間とは><人生とは>を深く考えるよすがとなってほしい」と語ります。

授業は、年度の初回授業でくじ引きにより作られた各グループが、各回持ち回りで事前に与えられた作品課題を研究発表し、その内容についてゼミ生全員で討論するスタイル。語句の意味や構造・技巧だけでなく、時代背景や作者の履歴を含めた解釈なども考察しています。6月中旬の授業で扱ったのは、唐代初期(7世紀頃)の詩人・沈佺期による、辺境の守備に出ている夫を慕う妻の嘆きを描いた「古意」(七言律詩)。発表者の一人であった髙木さんは、「律詩は中聯が対句構造になっていますが、方角的、空間的、時間的、そして色彩的に対句が展開していくことに加え、詩語として用いられている<独>の語(入声)が、より一層妻の哀しみを引き立てている」と、古代中国語ならではの音韻にも着目。漢字56文字の中に無限に広がる世界を、活発に討論しました。

1年生の時にオムニバス形式の授業を受けた時から黒田ゼミに入ることを決めていたという古川綾菜さん(3年生)は、「漢詩の世界はとても奥深く、知れば知るほど楽しくなります」とコメント。さらに、「卒業した方も含め、優秀な先輩方に早く追いつけるよう、勉強に励みたい」と意気込みを語ります。黒田ゼミはこれまで、東大大学院に進んだ研究者や、漢詩で日本語力を磨き就職に成功した人など、多彩な卒業生を輩出。「文学こそ生きる力を与えてくれるという意味で実学だと思っています」という黒田教授の熱い想いを中心に、黒田ゼミには学問の領域に留まらない学びの輪が広がっています。

  • 黒田教授自ら貴重な資料を持参し、学生の研究を助けることも。黒田教授自ら貴重な資料を持参し、学生の研究を助けることも。
  • 授業の最後に記入する『コメントシート』。発表が苦手な学生の声も拾う。授業の最後に記入する『コメントシート』。発表が苦手な学生の声も拾う。

複眼思考で本質と向き合う

黒田教授(前列左から2番目)とゼミ生たち

黒田教授(前列左から2番目)とゼミ生たち

「大学受験のための漢詩では全体の意味を素早く理解することを求められるのに対し、大学で学ぶ漢詩は作品に隠された作者の意図を理解しどのように解釈するかが求められます」と、解説してくれたのは植竹悠さん(4年生)。続けて、授業にて黒田教授から高い評価を得た髙木さんは「音韻による効果は示せましたが、最後に先生が付け加えてくださった使役法による効果は気づきませんでした。黒田先生の鋭い考察からまた新たな学びを得ました」と授業を回顧。「漢詩は多角的な視点が必要とされる学問」と、名村峻さん(4年生)は漢詩の特徴を話します。

「古代中国文字は一文字でも多義性を有しています。典型的な例は、正反対の意味をもつ<反訓>です。例えば<影>という文字は現代日本語だと一般的に“光に隠れた暗い部分”を表しますが、古代中国文字だと“光と影”どちらの意味も含みます。そのほか<乱>は、「治める」の意があり、<懽>は「憂える」の意味もあるのです。また<迷惑>という熟語は、本来の“心が迷い惑うこと”という意味もあるのです」と語る黒田教授。光がなければ影は生まれない。「漢詩は複眼思考を身につけ、物事の本質と向き合う学問なのです」と結論づけます。
「20歳前後は、生きること自体に迷うことも少なくないのではないでしょうか。私自身もそうでした。そんな時に死生観・人生観を数多く詠じている漢詩が彼らにとっての一筋の光になれば、とても嬉しいですね」(黒田教授)

漢詩に多角的側面があるように、学生も個性を尊重したいと考える黒田教授は、一人ひとりの可能性を引き出す指導や漢詩を楽しく学べる方法にも力を入れています。ゼミ生からは「どんなことも一番の味方になって応援してくれる」(植竹さん)、「漢字を数字で表すゲームなどで、楽しく教えてくれる」(4年生・秋本愛衣さん)といった声が挙がります。市川翔一さん(4年生)は「先生はお母さんみたいです。いつも温かく見守っていてくれるので、目的へは多様なアプローチの中から自分が最善と思う道を進めばいいんだ、と思えるようになりました」とコメント。黒田教授のゼミ生への想いは着実に伝わっているようです。