ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

統治理性を分析する(経済学部 後藤浩子ゼミ)

  • 2009年11月16日
ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

2009.11.16
ゆっくり考え自分と向き合う

後藤先生の専門は、社会思想史。ゼミ学習の大きな柱である哲学書の読解では、今年度、ミシェル・フーコーの『安全・領土・人口』をテキストに輪読を行っています。「他の分野の専門書読解と違い、哲学書の読解の場合、書いてあることに各自の具体的経験と結び付いた言葉を重ね合わせ、その意味を咀嚼(そしゃく)した上で体得するのが大切」と後藤先生は話します。

同書はフーコーがコレージュ・ド・フランスで行った講義を採録したもので、合理的経済人(ホモ・エコノミクス)という人間観がどのように生み出されたか、そしてどのような政治的・社会的装置によって私たちは合理的経済人として日々再生産されているのかを分析しています。より具体的には、さまざまな様態で私たちを取り込み誘導する社会の統治と規律のメカニズムの例が歴史的変遷とともに提示されます。ゼミ生は、ほかの授業で学ぶ経済学的なアプローチとは異なった思考法、つまり自分を取り巻く世界と自分自身の関係そのものを問い直す“知”に出会うことで、新しい世界の見方を発見しています。

古代ギリシアの格言“汝自身を知れ”を強く意識し、輪読に取り組んでいるというゼミ長の藤井諒さん(3年)は「哲学書を繙(ひもと)くことは、難しいけれど興味深い作業です。時に叱っていただくこともありますが、お茶目で面白い先生がみんな大好きです」と話します。

後藤先生はゼミ生たちに、物事を素早く要約するより、あえて“遅く考える”ことを勧めているのだといいます。そうすれば、自分が本当に知りたいもの、知るべきものに気付くことができるからです。ゼミ生たちによると、深く考えるがゆえに、ゼミ中に思い出し笑いをしたり、坐禅という厳粛な場で真っ先に噴き出したりするのも後藤先生なのだそうです。そんな個性がゼミ生たちを魅きつけます。

学内の他学部のゼミとの合同イベントやディスカッションにも積極的です。また毎年、関西大学経済学部のゼミと合同合宿を行い、ディベートやプレゼンテーションなど中身の濃い交流を行っています。

  • 関西大学の中澤ゼミとの合同合宿の様子
  • 個性豊かな後藤ゼミ

表現が思考を深める

ショートムービー作品の試写で盛り上がりました 

ショートムービー作品の試写で盛り上がりました 

後藤ゼミでは、ゼミ活動の一環として映像制作にも取り組んでいます。グループを組み自作自演でショートムービーを作り、毎年NHK主催の「NHKミニミニ映像大賞」というコンクール(今年のテーマは「見た人が、少し優しい気持ちになれる。そんな30秒の映像作品」)に出品しています。哲学と映像とは一見結び付かないようですが、構想や撮影、編集といったプロセスを経て「意味」と画像や音声イメージを結び付け、作品を作り上げる一連の過程は、「ものごとを認識する」とはどういうことかを振り返るきっかけとなる作業です。学生たちは、アイデアや示唆、趣向に富んだ作品を作り上げます。制作だけでなく映像論のテキストも輪読し、理解を深めています。

和田佑さん(3年)のグループでは、電車でお年寄りに席を譲るという行為にテーマを見出しました。お年寄りが体を鍛えるために立っているという逆説で構成。優しさと“おせっかい”を表現しました。一方、福みずほさん(3年)のグループの作品は、鼻血やトイレの紙切れで困っている人に紙を与える「トイレットペーパーマン」が、にわか雨で濡れ困っていると、優しく傘を差しかけられるハートウォーミングなストーリーです。

「個性をぶつけあえるところが特徴的なゼミですね。撮影や編集はグループで盛り上がりました。似ているゼミはないと思います」と独自性に胸を張るのは福さん。一方、「常に批判的精神を持って、当り前じゃない考え方を心がけています。仲間なので思い切り意見も言いあえます。特に福さんとは議論が白熱しますね」と和田さんも話します。

進級論文は、哲学のみならず、映画、ファッションなど個々が好きなテーマで取り組みます。書き直しを指示される学生も少なくないそうですが、その経験は大きな糧になります。「学生には、既存の観点を打ち破る思考の自由度とそれを表現する力を持ってほしい」と後藤先生は期待をかけています。