ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

植物の声を聴け(生命科学部 生命機能学科植物医科学専修 西尾健研究室)

  • 2009年07月06日
ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

2009.07.06
植物医科学という新しい領域を開く

2008年に本学に開設された植物医科学専修では、東京大学と連携し、植物の健康を守り、環境保全や食糧問題にも貢献しようとする斬新で先端的な学問領域の教育・研究を進めています。まだ1年生と2年生しかいませんが、憧れの“植物医師”になるべく、学生たちは充実した研究環境の下、日々、勉強に励んでいます。

植物という生き物を相手にするため、実験や実習が多いのが特徴。このうち、「植物医科学応用実験」では専任教員である西尾教授をはじめ、植物医科学に関するエキスパートの教員が年間を通して、植物病の種類や予防・治療技術に関した実験を指導しています。まだ、本格的に植物と向き合って日が浅い学生たちですが、持ち前の知的好奇心を原動力に、授業時間後にも教室に残って自主的に夢中になって課題に取り組んでいます。

西尾教授の専門はウイルスによる植物病の診断や防除。昆虫や土壌を媒介としたウイルス病伝染にも着目し研究しています。「植物には人間が持っているような免疫機能はありません。ですから、一度ウイルスに感染するとずっと病気のままです」と西尾教授。例えばウイルスに侵された種を畑にまいたり、侵された果樹の枝を他の枝に接ぎ木すれば、ウイルスは際限なく広がってしまいます。昆虫が媒介するウイルスでジャガイモや豆などの作物が大被害を受けることもあるのです。

祖母の家庭菜園が植物に興味を持つきっかけだったという吉原聡宏さん(2年)は植物医科学専修の第1期生。「みんな仲良く、熱心な学生ばかりです。専門を深く学び、大学院にも進んで、将来は官庁で農業や環境に関する政策立案に携わりたい」と目を輝かせます。学生たちの研究室への配属は、来年以降となる予定ですが、毎日の教員と学生の密なコミュニケーションが、新しい学問領域を開いています。

  • 葉の汁を吸うアブラムシがウイルスを媒介することも
  • 各種実験に熱心に取り組む学生たち

物言わぬ植物、観察からすべてが始まる

昨年竣工の東館の温室で

昨年竣工の東館の温室で

科学技術の発展とともに、植物のウイルス病の診断技術においても血清学的な診断技術や遺伝子診断技術学などを用いたさまざまなハイテク診断法が確立されています。しかしながら、西尾教授は「『極めれば、病気の兆候は目で見れば分かる』と学生には説いています。実際、私には微妙な変化が分かります」と意外なことを口にします。「動物と違って、植物は声も出しませんが、毎日ずっと観察し続ければ、葉の色や状態などささいな変化にも気付くはず。高度な機器による解析データももちろん大切ですが、植物に向き合い対話する心構えを確立してほしいのです」とチカラを込めます。

小金井キャンパス東館にある温室は、学生たちのトレーニング場。班別に当番を決め水遣りも欠かしません。「西尾先生には観察の大切さを教えられています。最初はスケッチに始まった実習や実験も、2年生になってより複雑で高度なものになってきました」と森高詩帆さん(2年)は話します。森高さんは植物の病気のこと、困っている人のこと、学びたいことが山積みで、フィールドワークにも高い関心を抱いているといいます。

植物医科学専攻では昨年は“植物医師”への第一歩である技術士補(植物保護士)の試験に5人が合格。技術士になるためには卒業後に実務経験を積まなければなりませんが、「簡単ではない試験だけに、よく頑張った」と西尾教授は学生を褒めます。今年も意欲的な2年生と1年生がチャレンジする予定です。

また、今年の夏には2年生たちが、正課のインターンシップとして企業や官庁をはじめ、公的な検査機関、公園管理の現場、農家、造園会社など幅広いフィールドに出向きます。社会の最前線における有意義な職業体験が学生たちの目的意識を一層喚起してくれることでしょう。