ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

グリーンケミストリーへの挑戦(生命科学部 環境応用化学科 佐藤耕一研究室)

  • 2009年01月19日
ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

<生命科学部は2008年4月に開設。4年生の所属は、前身の工学部物質化学科>

2009.01.19
化学は鮮やかで“色っぽい”

08年9月に竣工し最新設備が整った小金井キャンパス東館にある佐藤准教授の『有機合成研究室』では医薬品に用いるアズレン誘導体(アズレンに種々の基を置換した化合物)の合成方法の研究や、反応過程のグリーンケミストリー化(環境に優しい合成反応や合成装置など)の研究開発に日々、取り組んでいます。

アズレンは非ベンゼン系の芳香族化合物(五員環と七員環からなり、ナフタレンの異性体)です。植物精油(エッセンスオイル)を蒸留精製する過程で“青い物質”として生成します。アズレン本体には炎症や潰瘍などをゆるやかに抑える性質があります。さらに誘導体によってその性質(薬理効果)や色が異なります。「生成物はさまざまな色をしており、現在は、主にトローチやうがい薬、胃腸薬に使われています。私たちの研究室では抗不整脈や抗がんの薬理作用をもつ誘導体合成にも挑んでいます」と佐藤准教授は話します。この医薬用アズレン誘導体の合成を担当している一人が難波泰太さん(4年)。特殊な触媒を使って、分子設計から医薬効果を持つアズレン誘導体の構造を推定し、収量をアップさせる方法を考えながら、「医薬品として認められる、多くの新しい誘導体を作りあげていきたい」と意欲満々です。

学生思いで優しいけれど、マナーには厳しい佐藤先生の下、明るく結束が強いのが佐藤研究室の伝統です。春や夏の合宿にはOB・OGも参加、花見やバーベキュー大会などのイベントも盛りだくさんです。現在、院生3人、4年生7人が学んでいますが、コミュニケーション力も高く、『佐藤研究室の学生はしっかりしている』と言われています。春や秋の学会では大学院生が発表を行います。研究室のお姉さん役である円子未貴さん(修士2年)は付属校の法政女子高出身で、大手化学メーカーへの就職が決まっています。「高校時代に先生の講演を聞いてから、この研究室で学びたいと思っていました。充実した研究が出来たのももちろんですが、人との貴重なつながりが得られた学生生活でした」と話します。

  • 08年の春合宿で。合宿にはOB・OGも参加します
  • カラム分離を見守る学生と佐藤准教授

環境に優しい化学の実現のために

アズレン誘導体とそのエタノール溶液の色

アズレン誘導体とそのエタノール溶液の色

環境への優しさが、さまざまな分野で提唱されていますが、化学の世界も例外ではありません。佐藤研究室では“(結果的に廉価な合成を可能にする)反応の効率化”や“有害な廃棄物(有機溶媒など)の抑制”など、生産と環境への配慮を両立できる基礎研究に力を入れています。その一例が、誘導体を合成するマイクロリアクターの開発のための水中でのアズレン誘導体の合成です。

「水中では主にSDSという界面活性剤を分散・保護剤として用いて反応を行っています。室温では固体であるアズレン類の反応は水中では従来不可能と考えられてきたが、アズレン類を微細粉末にしてSDSにより水中に安定に分散させることに成功し、室温での種々の誘導体合成を追求しています」と石井直樹さん(4年)。実験のなかには無水状態での反応が常識的なものを水中で行う試みや、二つの固体を水中で反応させる世界でも例のない試みもあります。また、「リサイクル可能な水だけを用いて合成することも現実的になって来ました」と佐藤准教授は話します。

一方、マイクロリアクターは、1平方mm以下のとても小さな大きさの空間で化学合成を工業的規模で行える装置です。とかく大掛かりになってしまう従来の合成装置を効率的かつコンパクトに行う研究の成果は、グリーンケミストリー化に直結するものです。星野絢美さん(4年)は有機化学と環境問題に興味があり、佐藤研究室に入ったのだといいます。「物質の組み合わせや反応にきりがないのが、この分野の面白さ。アズレンの反応は目でも楽しめるので、実験に夢中になれます」と目を輝かせます。

OB・OGの中には、世界中の研究者から頻繁に引用される、半導体の接着剤に関する優秀な論文を書いた研究者もいるそうです。自らの研究室から、グリーンケミストリーの大切さを認識し、次代の有機化学を担っていく若き研究者が育っていくことを佐藤准教授は願っています。