ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

知能とロボット(理工学部 電気電子工学科 伊藤一之研究室)

  • 2008年11月10日
ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

2008.11.10
虫の知的な“振る舞い”をロボットに応用

<理工学部は2008年4月に開設。4年生の所属は前身の工学部システム制御工学科>


生物のような知能と学習機能を持ったロボット作りに、独創的な視点によるアプローチで取り組んでいるのが伊藤専任講師の『知能ロボット研究室』です。例えば、種々の試みで挑んでいるレスキューロボットの開発では、「カイコガの雄が、雌のフェロモンに引き寄せられ、落ち合うときの動き」に着目。“フェロモン”を人が吐き出す“二酸化炭素”に置き換え、雄ガの動きに似たプログラミングをロボットに施すことで、災害時に瓦礫(がれき)の下に埋もれている生存者をすばやく探し出すための研究なども進めています。「決して知能が高いといえない虫にも、非常に知的な“振る舞い”があります。人工的なロボット開発にそんな知能を応用することで、知能とは何かについても探っています」と伊藤講師は穏やかな口調で、熱く語ります。

ロボットは多関節型、タンク型、人型などさまざまな機体で応用実験・研究を展開していますが、なかでもヘビ型ロボットは、細長い構造上狭い場所にも入り込め、段差なども比較的苦にせずに動けるので、レスキューロボットに適しています。関節部分にゴムを用いることでロボットの体が地面の凹凸に合わせて適応的に変形し、瓦礫を容易に乗り越えることができるのです。このように非常に簡単な機構で、知的な振る舞いを実現できることが、生物の体にヒントを得て作ったロボットの面白いところです。

学生たちは機体担当の“ハード班”と、機体を動かすプログラム作りを担当する“ソフト班”に分かれ日々、研究開発に当たっています。ヘビ型ロボットのハード開発を担当している小林敏治さん(4年)は「受光回路など搭載回路は多く複雑です。困ったときには先生に相談しながら解決します」と話します。一方、ソフト担当の小安達哉さん(4年)は「ロボットに学習機能を持たせ、自律的に動作させるプログラムを作っています。バグ探しなど骨が折れますが、モノつくりは本当に楽しい」と目を輝かせます。二人とも大学院に進学し、研究を深めることを決めています。

  • 研究室で。談笑していても、いつのまにか研究の話題に
  • 日々、研究開発に挑む伊藤研究室のメンバー。前列中央が伊藤専任講師

妥協なき研究が成果を生み出す

ハンドルでロボットを動かす実験装置

ハンドルでロボットを動かす実験装置

ロボットを動かす際に求められるのが操作性。たとえ走破性に優れていても、複雑なインターフェース(操作装置)で熟練者しか動かせないのであれば、災害現場でその実力を発揮できないこともあるでしょう。伊藤研究室では、自動車のハンドル型インターフェースを用いることで問題提起と実用化研究を行っています。TVゲーム用のハンドルを改造したもので、障害物を乗り越え動くヘビ型ロボットを誰でも操作しやすくしました。今後はロボットに、熱センサーなどを搭載し、埋もれている被災者を探し出すことなどを予定しています。

実は日々、取り組む実験の大半は失敗です。「大切なのはなぜ失敗したのか。どこを改良すればいいのか、その意味を自分で考えてみること。実験結果から解決策は導き出されるはず。学生に安易に妥協はさせません」と伊藤講師は言い切ります。工学の世界では未知の環境に挑むことがほとんどです。技術開発ももちろんですが、例えば、災害現場の瓦礫(がれき)の定義ひとつとっても定まってはいないため、開発条件の設定や研究成果を一般化して論文にまとめるときにも苦労があります。タフな精神力が研究を支えるのです。

11月に米国フロリダで開催される米国電気電子学会(IEEE)の学術会議には伊藤先生とともに、数人の院生と昨年度まで研究に携わっていたOBが赴き、世界中の専門家を前に英語で研究発表を行います。その一人、中道和也さん(修士1年)は操作性を考慮したヘビ型ロボットについて発表します。「学部生の時に先輩とともに開発した研究の発表です。関節の弾性などのロボットの体の特性を調整し、巧みな動きを実現しました」。普段は笑顔が絶えないという明るい研究室。上級生の活躍は、学生たちのさらなる励みにつながることでしょう。