ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

建築意匠は時代を超える(デザイン工学部 (工学部)建築学科 富永讓研究室)

  • 2008年08月11日
ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

2008.08.11
名建築を追体験して学ぶ

富永教授研究室のゼミ授業は、建築に関する専門書を読む「読書会」と「作品研究」を両軸にしています。作品研究とは、時代を越えて評価される先人の作品を倣(なら)い建築物の図面を新たに起こし、模型を作って分析する作業です。7月中旬の授業で発表された2作品のうち、ミース・ファン・デル・ローエが1930年に設計したチェコの住宅を取り上げたのは前田恵利子さん(4年)。「大好きな巨匠。一見地味だけれど、考えつくされているところに惹かれます」。図面作成に思いを込め、1/100模型は、寝ずに集中し30時間で仕上げました。

「いい意匠(デザイン)は人を感動させます。そこにマニュアルはありません」と富永教授。計算された実用性と様式美を有した名建築を追体験することは、さまざまな可能性の“種”を持つ学生の成長を誘います。そして読書や、富永教授の歴史、デザイン、技術工法を含めた解説や示唆が学生の発想を豊かにします。青木奈美さん(4年)は「研究室に入ってから、建築の本質について少しずつ理解できてきた気がします」と目を輝かせます。

この日、富永教授は印象的な言葉で学生を励ましました。「世の中で認められ、本当にきちんとした建築物を作れるのは50歳くらいから。まだまだ先は長い。(スパートすべき)鐘が鳴ったとき思い切り走れるだけの力を蓄えるのが大切」。長く教壇に立ちながら、現役の建築家として数々の設計を手がけ、今年も日本建築学会作品選奨、第8回JIA環境建築賞を受賞した先生ならではのエールです。

学生の利点は何事も“ゼロから考えられること”。設計するという内なる欲求とプロセスに新鮮な喜びを感じながら、学生たちは日々、真剣に課題に取り組んでいます。

※デザイン工学部は07年開設。文中の学生の所属は工学部です。

  • 建築家ル・コルビュジェが若き日に訪ねた土地を巡る富永教授の研究旅行。イタリアのヴィラ・アドリアーナで。
  • 授業の様子。富永教授の奥深い解説を聞く学生たち

憧憬と交流が育む設計力

7月のゼミ旅行にて。今年は総勢30人が京都近郊で古寺見学。写真は比叡山延暦寺根本中堂

7月のゼミ旅行にて。今年は総勢30人が京都近郊で古寺見学。写真は比叡山延暦寺根本中堂

富永研究室では「建築作品における生成論の構築」「現代建築の空間形式の基本パターンの探求」「中庭型建築」「日本建築の意匠に関する研究」を大きなテーマに幅広く研究を展開しています。学部授業での富永教授のスマートで洗練された理論や語り口に憧れて研究室に入ってきたという学生たちは皆、真面目で勉強家が多いと評判。結束もよく、院生を含めた7月末のゼミ旅行(京都近郊)では建築見学や懇親で大いに盛り上がりました。

「建築という行為は社会とも関わる多面的なもの」と話すのは堀江陽子さん(4年)。フランク・ロイド・ライトの特徴的な建築が好きで「今年一年、一生懸命勉強すると自分に誓っています」と微笑みます。4年生は後期に、卒業研究(論文)と卒業設計の制作という大きな目標が控えています。特に設計では各自の思いがこもった、どんな作品が出来上がるか、今から楽しみです。

研究室では、授業などで行った作品研究を発展させたものとして「現代建築解体新書」(彰国社)という本を2007年に出版しました。国内外の特徴的な21施設の現代建築作品を取り上げ、考察したものです。ビジュアル性豊かな図面や模型は院生や学生が制作、現代建築の構成を改めて解剖した斬新な解釈も付記されており、テキストとしても各方面から高い評価を受けています。

また、小金井キャンパス再開発第2期工事の中庭アイデアコンペで、野村裕志さん、宮下幸多さん(ともに修士2年)の共同案が特選に選ばれました。「友達とおしゃべりできる過ごしやすい場をイメージしました」と野村さん。宮下さんも「今ある小金井キャンパスの良さの継承も意識しました」と話します。このほか、神奈川県真鶴町とは、『真鶴プロジェクト』として研究室を挙げ、町づくり構想やイベント交流などを継続して行っています。