ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

犯罪捜査と心理学(文学部 心理学科 越智啓太研究室)

  • 2008年07月28日
ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

2008.07.28
心を数値化し分析する

越智教授の研究テーマは『犯罪捜査のための心理学』です。近年ニュースなどでよく耳にする、犯罪現場の状況から犯人像などを推定する“プロファイリング”や、うそ発見のポリグラフもその分野のひとつ。警視庁の科学捜査研究所に勤めていたこともある越智教授は「心理学の応用研究の中でも、最もエキサイティングに発展している領域。興味がある皆さんにはぜひとも志していただきたい」と話します。最近では、子供を対象とした犯罪を、どのように捜査して、どのように防止していけばよいかについての研究にも力を入れています。

学部授業の演習などでは、学生たちは「ストーカー」「少年犯罪」「連続犯の特性分析」など興味を抱いた犯罪や事象について事前に調べて発表。その後、ディベートを行います。「博識な先生は、学生の討議にさらに問題を投げかけ、混ぜ返して討議を深めてくれます」と松本敬多さん(4年)。飄々(ひょうひょう)としていて、フレンドリーというのが学生から見た越智先生の姿ですが、好奇心旺盛な学生たちが、“心”を探究することに貪欲さを抱いた時、そんな先生は次なるステップを示唆してくれるのです。

「心理学の面白さは人の“心”を数値化して分析するところ」と間地信博さん(4年)は話します。研究の常として、データ収集や仮説推論など地道な積み重ねが求められます。その結果、たとえば犯罪心理の分野では、犯人の危険性や動機の推定、居住地や次の犯行地域の予測など防犯対策も可能になるのです。

学生たちは思い思いのテーマを設定し、3年次から徐々に卒業論文に取り組みます。より複雑化している現代社会、若者の視点を生かした研究が次なる社会貢献の糸口となるかもしれません。

  • 相談に訪れた3年生と研究室で。書棚の多くは犯罪心理学の洋書です。
  • 「動作から嘘が見破れるか」の研究発表を聞き、討議する4年生たち

科学的に犯罪を、犯人を分析する

大学院生になると研究テーマは専門性を増し、より深くなります。越智研究室では月に一度、他大学の学生なども交えて研究の中間発表とディスカッションを行っていますが、互いの研究の進捗は励みになるといいます。

“犯人の声に関する証言の正確性判断”をテーマに研究を進めているのは笠原洋子さん(博士後期課程3年)。“声”は目撃証言のなかでも、その信頼性についてよく分かっていない分野、研究は捜査や公判の証拠性向上への貢献が期待されます。「学部生のころから、継続して取り組んでいますが、修士そして博士課程に進み経験を積むことで関われる研究の幅が広がってくるのがうれしいですね」と意欲満々です。

一方、萩野谷俊平さん(修士課程2年)は、“文体を利用した被疑者特性の推定”をテーマに、漢字の使用頻度や、品詞の中でも意識的に作為しにくい“助詞”に着目し、脅迫状などの文面から犯人を特定するための研究を進めています。「大量殺人や性犯罪など悪質な犯罪の件数を少しでも減らしたいという思いで研究しています」。実は萩野谷さんは、今年4月からは某県警の科学捜査研究所の心理係として勤務しながら学んでいます。

FBI方式や、英国のリバプール大学で発展した最小空間分析という統計手法、世界のトップレベルにあるという日本の警察機関の先進研究を取り入れ、犯罪者の心の闇を想像するのではなく、科学的に犯人の行動を分析するのが越智研究室の目指す犯罪心理学です。たとえば、洋の東西を問わず大量殺人犯は、直前に絶望を体験したり、犯行計画を周囲にほのめかしたり日記やインターネットなどで公開する特徴があるといいます。「犯罪類型に共通する動機や行動パターンを冷静に把握するのが重要なのです」と越智教授は静かに語ります。

越智研究室の院生の個別研究テーマ一覧
犯人の声に関する証言の正確性判断
犯罪発生の地理的なプロファイリング
暴力的テレビゲームが行動に及ぼす影響の検討
インターネットにおける犯罪の抑止とサイバーリテラシー教育
CGを利用した顔の記憶の研究
文体を利用した被疑者特性の推定
書店の店舗レイアウトによる万引きの防止手法の開発