ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

未来のグロティウス(法学部 森田章夫ゼミ)

  • 2008年06月02日
ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

2008.06.02
国際法に見る過去・現在・未来

森田教授ゼミで学んでいる国際法は、わかりやすく言えば国家間の関係を律するルールです。条約のほか慣習法も含まれますが、(強い権限を持つ)裁判所や執行機関がないなど国内法と違ったさまざまな特徴があります。

毎週のゼミ授業では、判例や事件を取り上げ4?5人のグループでレジュメをまとめ、報告します。この日の授業で取り上げたのは、1950年代にフランス企業が計画した水力発電事業にからみ、水利や水質汚染などについて同国とスペイン間で仲裁裁判所を設置して争われた「ラヌー湖事件」。環境保護のための事前通告・協議といった、損害を事前に防止するための手続的義務が争点となり、国際的に注目される重要な判例です。報告は質疑応答をはさみつつ進んでいきますが、「皆、いい意味で遠慮しないで質問をぶつけあいます」と副ゼミ長の鈴木聡美さん(3年)が話すように、各自、机の上に国際条約集や国際法判例集を広げながら、白熱した意見が教室で飛び交います。

国際法を学び始めるのは3年次からですが、事件の中で現れる国際法上の基本概念と重要な争点について疑問をぶつけ合いながら、ゼミ生たちは瞬く間に国際法に対する理解を深めていきます。「国際法を学ぶにあたり、歴史的視点は欠かせない要素です」と森田教授が話すように、毎週のテーマとなるケースには、国際社会の重大な紛争をその都度、解決した、歴史上の智恵が残されているのです。国境をはさんで互いの国益を主張し、せめぎ合う現実の中で育ってきた国際法を、このようにして、過去の歴史から未来のために学ぶのです。

そのおかげで、「ゼミで学んでから、難民問題やミャンマー問題など国際的なニュースも、(国際法を意識しながら)より深く考えるようになりました」と話すのは昨年度副ゼミ長の高橋さとみさん(4年)。法学の中でも、極めて広い分野をカバーしている国際法は、ゼミ生たちの知的好奇心を日々、刺激しています。

  • 森田教授のコメントが学生の討議を高めます
  • 白熱した意見が飛び交うディスカッション

国の命運を握る

2007年の夏合宿で記念撮影

2007年の夏合宿で記念撮影

「国際法の使い方には国の命運がかかります。(資源の限られた)日本は、国際法をうまく使いこなさなければ、国際社会で生きていけません」と森田教授は強調します。教員資格(公民)を取るために、母校の法政中高で行う教育実習を控えている昨年度ゼミ長の青木幸太郎さん(4年)は「高校生には法といえば、憲法など国内法が浮かぶと思いますが、たとえば日本と米国の二国間でも、本当に多くの条約(国際法)が結ばれているのです」と話します。

日本に身近なものとして、「国際コントロール」「国家管轄権の域外適用」などと合わせ森田教授の専門のひとつである「国際海洋法」は、四方を海に囲まれた日本にとって重要な利害があることもあり、なかでも注目されている分野で、ゼミでもよく取り上げられます。国連海洋法条約によって、国際航行、海洋資源開発、海洋環境の保護などについて規定されているほか、1996年に常設の国際海洋法裁判所が発足し、今まで以上に、国際紛争を平和的に解決しようと目指しています。

ゼミでは一人の学生が前期3回、後期3回程度、グループ報告を担当。2泊3日で思いっ切り討論する夏合宿なども行います。「努力に勝る天才なし」が信条の森田教授は、ゼミ生の自主性を尊重、報告発表の取り仕切りも報告班のコメンテーター役の学生に任せます。

ですから、時折横道にそれたり袋小路に陥る討論を正しい方向に導くコメント、さらなる学びへ誘う専門性の高い「ささやき」が森田教授から出ると、出席率抜群の真面目な学生たちは決して聞き逃しません。ゼミ長の岩本かなみさん(3年)は「どんな質問をしても、博識な先生はすぐに答えてくれます。一日も早く先生をうならせるような質問をしてみたい」とゼミ活動に夢中です。この学生たちの中から、未来の坂本龍馬、榎本武揚、はたまたグロティウスが生まれるでしょうか?