ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

歴史デザイン工学(デザイン工学部 <工学部>建築学科 高村雅彦研究室)

  • 2008年01月28日
ゼミ・研究室紹介(2019年度以前)

フィールドワークで切り開く、新たな学問領域

高村研究室では、日本を含むアジアの都市と建築を、文化や歴史の視点をからめて複眼的に考察しています。それぞれの地域に存在する空間やデザインの独自性を見つけ、次に日本との比較をおこなって、歴史的にどのような 関わりがあったのかを探求していきます。まるで、数百年前に絡み合ってもつれた糸を今ほぐすかのように、複数のプロジェクトを立ち上げながら、答え探しの旅に出るわけです。

その活動の中心は活発なフィールドワーク。高村研究室のゼミ生たちは、プロジェクトや各自が見つけたテーマに応じて、夏休みなどの長期休暇を利用し国内外を調査します。「調査地ごとに院生がチーフになって学部生を指導します。現地では、実測と同時に綿密なインタビューを行って、頭のなかで物語を組み立てていきます」と高村准教授。研究対象である街や建築物のデザインと技術を語るには、文化やコミュニティ、脈々と続いてきた歴史を理解することが不可欠。『歴史デザイン工学』という新たな学問領域を生み出しつつ対象を見つめます。

探求は『疑問』を呼び、さらなる探求につながります。修士1年の寺島明(あき)さんは、学部時代から軍港として発展した横須賀の都市形成を研究しています。高校生の時は「暗記主体の歴史が嫌いだった」という寺島さんですが「論文を書くことで自分が歴史を作りだせる」と研究にのめりこんでいます。近代日本と中国寧波の造船技術の発展にフランス人技師が関わっていたことを突き止め、さらに興味を膨らませ、近くパリへ留学する予定です。

このように、積極的に留学したり、留学生を受け入れることが多いのも高村研究室の特徴です。「既存の枠組みにとらわれない若者特有の無謀さや発想が、あるきっかけで独創的な発見につながることもあります。ただし、まずは基礎が大切。文献や資料、図面を読み、実測し、模型を作る作業を通じて十分な力を蓄えて欲しい」と高村准教授。国内外を飛び回り、数々の調査結果から新たな仮説を導きだし次の研究へ結び付ける師の背中が、学生の目標になっているのは間違いありません。

  • 東京の近代和風建築の調査研究も実施。写真は吉祥寺のやきとりの名店「いせや」。残念ながら、総本店は2006年に取り壊されましたが、「ぜひ記録しなければ」と、公園店とともに実測調査をおこないました
  • 本学・旧第一校舎の設計者である山下啓次郎設計の旧長崎刑務所基礎アーチ部分の実測。使用されたレンガの珍しさにも着目しています

“歴史”を実測する―物言わぬ都市と建築に耳をすます―

タイ・バンコクの高床住宅調査の様子

タイ・バンコクの高床住宅調査の様子

学問においては論文を書き上げ、はじめて結果となります。また、歴史を語る場合には豊かな叙述性も必要です。「特別に書き方を指導することはない」という高村准教授ですが、研究室の論文力には定評があります。毎年開催される関東の大学数十校が集まった建築史分野の論文コンテストで、4年連続1位に輝いているほか、会員3万5千人を数える日本建築学会の年間優秀卒業論文賞を受賞したOBもいるほどです。4年生は個々の思いをこめ卒業論文を執筆します。

「高村先生は研究についてはとても厳しいですが、努力には優しく応えてくれます」と話すのは雨宮拓さん(4年)。ベトナムのメコン川流域の商業都市バックリューの形成過程をテーマに卒業論文をまとめました。フランス統治下に建てられた建築物と中国の影響を受けた建築物が混沌とする都市の風景や空間、デザインを考察したものです。研究が楽しくなり、いくつかの企業からの誘いを断って大学院へ進学することにしました。

藤本景子さん(4年)は、学科OBの建築家の調査サポートで訪れた長崎県島原市の都市復興に興味を持ち、卒業論文のテーマにしました。同市の雲仙普賢岳は、記憶に新しい1990年代初めの噴火災害以前に、江戸時代の1792年にも大噴火をおこして未曾有の被害を出しています。街や建物の歴史をひも解きながら、住民が積極的に復興の街づくりを進める姿に打たれ、それが縁となって「11月に日本で初めて開催された火山都市国際会議(島原市)の席上、英語で卒論の発表を行わせていただきました」と話す。社会において、人とのコミュニケーションが大切なのは文系理系を問いません。フィールドワークの研究や調査につきものの現地の人との貴重な出会いが、成長や大きなチャンスにつながるのです。