OB・OGインタビュー(2019年度)

サントリーホールディングス株式会社 サンリーブ株式会社所属 母原利之さん

  • 2019年09月10日
OB・OGインタビュー(2019年度)

プロフィール

サントリーホールディングス株式会社 サンリーブ株式会社所属 母原利之さん

サントリーホールディングス株式会社 サンリーブ株式会社所属 母原利之さん

母原 利之(Toshiyuki Mohara)さん

1983年東京都生まれ。法政大学第一高等学校(現・法政大学高等学校)を経て、2002年社会学部社会学科に入学。陸上競技部長距離ブロックに所属。2006年に卒業後、サントリー株式会社(当時)に入社。2019年4月より、サントリーホールディングス株式会社のサンリーブ株式会社に所属。

「走る」を軸に、 自分・会社・社会をつなげていきたい

学生時代は、箱根駅伝出場を目指して練習に明け暮れた母原(もはら)利之さん。現在は仕事の傍ら、視覚障がいのあるブラインドランナーの伴走者「ガイドランナー」を務め、谷口真大(まさひろ)選手と2020東京パラリンピック出場を目指しています。

「事件は現場」を心掛け データを分析し、戦略を練る

復路優勝を成し遂げた2006年の箱根駅伝。左端が母原さん、右端が9区走者の山口さん。

復路優勝を成し遂げた2006年の箱根駅伝。左端が母原さん、右端が9区走者の山口さん。

サントリーに入社して14年目を迎え、4月に東京23区のスーパーマーケットチェーンの営業推進担当となりました。サントリーの戦略商品である「ザ・プレミアム・モルツ」などの販売情報データを分析し、商品の配置方法やPOPのアイデアなど、売上目標達成販売戦略を立てて、それを営業担当者に推進・提案しています。

入社3年目にこうした企画職に初めて就いたときは、知識も経験も足りず、一人で空回りしていました。ベテランの営業担当者に「母原! 現場を知ってるのか」と指摘され、担当エリアのお得意先様(現場)をくまなく回ったことで、自分の殻を破れたと思います。当時の上司の口癖が「事件は現場だぞ」でしたが、今も悩んだら現場へ足を運ぶことを心掛けています。

5歳から目指した箱根駅伝 仲間と共に成し遂げた復路優勝

谷口選手は、2018年アジアパラ競技大会の1500mと5000m(銅メダル)に出場。撮影:日本パラ陸上競技連盟

谷口選手は、2018年アジアパラ競技大会の1500mと5000m(銅メダル)に出場。撮影:日本パラ陸上競技連盟

5歳で初めて観戦した箱根駅伝に大変感動し、その出場が私の目標となりました。法政大学を選んだのは、スクールカラーのオレンジ色に染めた髪で区間賞を取った徳本一善さんにあこがれたからです。

スポーツ推薦で入学したレベルの高い選手に追いつこうと、オフの日もこっそり走り、疲労骨折で数カ月走れなかったこともありました。諦めずに続けられたのは、「箱根で走りたい」という強い気持ちがあったからです。

4年生の最後の箱根駅伝では、私が給水を担当した同期の山口航(わたる)さんが9区で区間5位に輝き、法政大学も見事に復路優勝。選手としては出場を果たせず、努力しても報われないことがあるという現実を突きつけられた一方で、結果を出せなくても努力の過程で得られるものがたくさんあって、それが自分の自信と糧になるのだと感じました。 

健康のためにランニングを再開 そしてガイドランナーに

陸上競技は大学までと考えていたので、食品メーカーを中心に就職活動を行い、サントリーに入社しました。

最初の数年は、仕事を覚えるのが精いっぱいで、運動からはすっかり遠ざかりました。仕事柄夜飲みにいくことも多く、学生時代より30キロも太り、健康診断で「糖尿病になるのは時間の問題」と注意を受けてしまったのです。

一念発起して応募した2014年の東京マラソンに運良く当選し、約8年ぶりにランニングを始めました。最初は10分ほどしか走れませんでしたが、4カ月後のレースは3時間を切るタイムで完走できました。走る楽しさを思い出し、市民ランナーの勲章といわれる「※世界6大マラソン」の制覇を目標にして、練習に力を入れ始めたころ、実業団チームのコーチとなった山口航さんが「ガイドランナーをやってみないか」と声を掛けてくれたんです。大好きな「走ること」を通じて人の役に立てたら、それに勝る喜びはないと思い、二つ返事で引き受けました。

主役のサポートではなく共に進むパートナーでありたい

ガイドランナーは、相手以上の走力に加え、ブラインドランナーの「目」になることが求められます。左手には相手と自分をつなぐロープ、右手には時計を持ち、相手の顔色や走り方、前後のランナーの位置、段差やカーブといったコースの変化にも気を配る必要があり、まったく気が抜けません。

マラソンでは、事前にコースの下見をする時間はないので、動画共有サイト「YouTube」などで動画を何度も見てレースに臨みます。コミュニケーションの取り方にも工夫が必要で、「段差があるよ。気を付けて」では、親切なようで情報不足。「20センチの段差を下るよ」と簡潔かつ的確に伝えなければなりません。

ガイドランナー、駅伝の給水係、営業推進は、「主役のサポート」と思われがちです。しかし、私にとってはどれもパートナーとして一緒に戦うこと、共に取り組むことであり、それがモチベーション、やりがいとなっています。

今は、2020年東京パラリンピックでメダル獲得を目指す谷口真大選手のガイドランナーを務めています。やるからには妥協をしたくないので、私が中心となり「チーム谷口」を結成し、練習や食事の管理も担当しています。
皆さんも、「やらないで後悔するよりは、やって後悔する」という精神で、興味のあること、やりたいことに果敢にチャレンジしてほしいと思います。

サントリーは障がい者スポーツの支援に積極的に取り組んでいて、私の活動にも理解や評価を得られ、とても恵まれた環境にあります。国際大会の出場などで休暇を取る前後は、仕事のやり繰りで大変ですが、ガイドランナーの活動経験が仕事に役立つこともあり、今後は自分の経験をCSR部門や社会で生かせれば何よりです。

「走る」を軸に自分・会社・社会をつなげることで、これからも自分の世界や可能性を広げていきたいです。

※シカゴマラソン、東京マラソン、ベルリンマラソン、ボストンマラソン、ニューヨークシティマラソン、ロンドンマラソン。母原さんはその全てを制覇。

(初出:広報誌『法政』2019年6・7月号)