OB・OGインタビュー(2019年度)

株式会社電通クリエーティブX(クロス) ディレクター 洞内 広樹さん

  • 2019年05月21日
OB・OGインタビュー(2019年度)

プロフィール

株式会社電通クリエーティブX(クロス) ディレクター 洞内 広樹さん

株式会社電通クリエーティブX(クロス) ディレクター 洞内 広樹さん

洞内 広樹 (Hiroki Horanai)さん

1985年神奈川県生まれ。法政大学第二中・高等学校を経て、国際文化学部に入学。2008年の卒業後、株式会社電通テック企画演出部(現・株式会社電通クリエーティブX)にディレクターとして入社。2018年6月、ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2018で『東京彗星』がCinematic Tokyo部門の優秀賞・東京都知事賞を受賞。

価値観が異なっていても、映像など普遍的なもので人はつながれる

震災をきっかけに洞内広樹さんが製作した『東京彗星(すいせい)』が、アジア最大級の国際短編映画祭で優秀賞を受賞しました。「価値観の異なる人をつなげたい」という作品づくりのベースは、大学時代の留学経験で得たものだと言います。

映像制作のあらゆる制約が、難しさであり、やりがいでもある

大学時代は、国際文化学部の仲間と、日本で学ぶ留学生を交えたイベントを開催していた(左から2人目が洞内さん)

大学時代は、国際文化学部の仲間と、日本で学ぶ留学生を交えたイベントを開催していた(左から2人目が洞内さん)

ディレクターとして、テレビCMやオンラインムービーなどの映像コンテンツの企画・演出に携わっています。

テレビCMは15秒という短い時間で情報やイメージを伝えるために、どういうカットを撮影するのか、綿密に計画を立てておく必要があります。15秒であっても「流れ」を意識して、盛り上がりをつくり、余韻を持たせ、印象深い映像をつくろうと考えています。

入社して最初に担当したのは、大好きなゲーム会社のテレビCMでした。
もちろん、自分にはあまり知識のない分野、自分の好みとは異なるテイストの仕事もあります。そういう仕事も、向き合ってみると意外に面白い映像が浮かんできたり、好きなことからは入ってこないインプットがあったりして、自分の可能性を広げてくれます。
自分では使わない筋肉も鍛えられるのは、会社所属のディレクターのメリットだと思います。

作品づくりのベースとなった大学時代のボストン留学経験

『東京彗星』の授賞式では、小池百合子東京都知事からトロフィーを受け取った  ©ShortShorts Film Festival & Asia

『東京彗星』の授賞式では、小池百合子東京都知事からトロフィーを受け取った  ©ShortShorts Film Festival & Asia

もともと映画が好きで、小学6年生のときに見た『タイタニック』に刺激を受け、映画監督になると決意しました。法政大学第二中・高等学校を選んだのは、映画研究部があったからです。
中学2年の文化祭のクラス発表で、第一作を製作。高校生のときには、自主製作映画祭「インディーズムービー・フェスティバル」で入賞することができ、漠然と映画監督志望者が多い芸術系学部への進学を思い描いていました。

ところが、中学、高校で映画にしか取り組んでこなかった自分に面白い映画が撮れるのだろうか、という疑問が湧いてきたんです。そんなとき目に留まったのが、法政の国際文化学部の英語名にある「Intercultural Communication」。映画は、気持ちやメッセージを映像に「翻訳」して届けるもので、まさに「カルチャーを横断したコミュニケーション」を実現できると感じ、4年間これを勉強しようと思いました。

国際文化学部では留学が必須で、私も2年の秋にボストン大学へ5カ月留学。クラスにはアジアの人もいれば、イスラム圏の人もいて、20歳にして初めて「この星にはいろいろなバックボーンを持つ人がいる」ことを肌で感じました。価値観や考えが異なっていても、絵や映像など普遍的なものを通して人はつながれる。つながっていれば共存できる。ボストン留学で感じたことは、今も私の作品づくりのベースとなっています。

映像制作の仕事の中でCMのディレクターを選んだのは、就職当時、1秒当たりの予算がハリウッド映画並みと、費用面で映画よりも恵まれていたからです。まずは、CMというエンターテインメント作品を手がけ、映像制作の「筋肉」を鍛えようと思いました。

大地震で感じた恐怖と不安 自分の作品で世に一石を投じる

東日本大震災で、東京にいてもいつ災害で死ぬかわからないという恐怖と不安を覚えました。震災を過去の出来事として片付けずに、自分の身にも降りかかることとして向き合ってほしい、今日を大切に生きてほしい。それを伝えなければという「勝手な使命感」に駆られ、いつ死ぬかわからないなら映画を撮ろうと決意しました。幸い、短編映画の企画コンペティション「MOON CINEMA PROJECT」で私の企画がグランプリを獲得し、『東京彗星』の製作がスタートしました。社外活動とあって体力的には大変でしたが、ショートショートフィルムフェスティバル&アジア2018で評価を得ることができました。

またCMで鍛えた筋肉を使い、自分の持っている情熱、技術をつぎ込んで「自分の作品」に取り組んだことで、会社の仕事に対しても、自分の作品と同じくらい責任感や当事者意識を持たなけばと一層思うようになりました。将来的には『東京彗星』を長編化させたいです。ただし、二足のわらじを履くのではなく、まずは自分の仕事の幅を広げていくような方向で考えています。

今の学生は、自分にとっての「先生」

10年早く生まれていたら、CM全盛期で人気の高かったこの仕事には就けなかったかもしれないし、10年遅かったら、スマートフォンで撮った作品をYouTubeで公開する人が山ほどいる中で埋もれてしまったかもしれない・・・・・・。しかし、そんな過去や未来との比較に意味はなく、自分の生きている時代でベストを尽くすしかありません。

今の学生は、私より10歳若い。つまり、私より10年先の未来を生きている「先生」と言えます。若い「先生」に今の世界がどう見えているのか、何が足りないのか、教わりたいことがたくさんあります。もちろん、年上の「先生」の経験に学ぶこともあります。年齢もバックボーンの一つと思えば、世代を超えて共存できるはずです。これからも、みんなを元気付けられる作品をつくっていきます。

「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア2019」は5月29~ 6月16日開催

(初出:広報誌『法政』2019年4月号)