OB・OGインタビュー(2018年度)
倉林 雅(Masaru Kurahayashi)さん
1986年埼玉県生まれ。2005年、情報科学部に入学。2011年、情報科学研究科(大学院)前期課程を修了し、ヤフー株式会社に入社。IDや認証のプラットフォーム部門に配属。2015年10月にID・認証技術領域の「黒帯」に認定。2017年よりSecurity-Boardのメンバーを務めている。
Yahoo! JAPANなどのサービスを利用するための「ID」の管理や、インターネットサービスをより安全により便利にするための技術に携わっている倉林さん。ヤフー社内で「黒帯」に選ばれ、最新技術の発信や後進の育成にも力を入れています。
インターネット上のサービスを利用する際には、IDとパスワードを入力してログインします。私はその入力画面の裏側にあるパスワードの管理や情報漏洩、不正利用を防ぐシステムの担当をしています。ヤフーにログインして月に1回以上サービスを利用しているIDの数は4392万にもなります(2018年3月時点)。日本最大級のユーザー数とデータ量を扱うため、ヤフーには国内のインターネット事業者では珍しく、ID専門の部門があり、セキュリティーやユーザー体験の向上に継続的に取り組んでいます。
昨年4月には、固定のパスワードに代わりSMSやメールに毎回異なる確認コードを送信し、それを入力することでログインする仕組みを導入しました。現在は、指紋や顔などの生体認証の導入に取り組んでいます。これが実現すれば、パスワードや確認コードの入力の操作が不要になります。また、ヤフーのIDで連携先のWebサイトにログインできる「ID連携」も担当しています。これは、より安全で便利になるように、ヤフーのログインをサービス間で連携する仕組みです。これらの導入がゴールというわけではなく、技術はどんどん進化するため新しいログインやID連携にも取り組んでいきます。
ヤフーには、各技術領域で突出した知識とスキルを持つ第一人者を「黒帯」と認定する制度があり、私は入社5年目で黒帯の認定を受けました。黒帯にはヤフーで使われている技術を社外に発信するという役割があり、IDや認証に関する相談やいろいろなコミュニティと情報交換をしながら技術発信の活動をしています。
また、1年ほど前から、CISO(最高情報セキュリティー責任者)直属のセキュリティーボードのメンバーとして、ヤフー全体のセキュリティー戦略・方針策定にも関わっています。まずはヤフーの利用者を守り、最終的にはヤフーの技術を使って日本のインターネットを守りたいと考えています。
IDもセキュリティーもヤフーに入って初めて触れた分野で、飛び込んでいくときにはものすごいエネルギーが必要でした。 その分やりがいは大きく、IDは社内外のサービスを横断する基盤でもあるため、視野もスキルも広がりました。IDとセキュリティーの2本軸の「Π型」エンジニアとして、両分野を極めていきたいです。
幼い頃からインターネットに興味があったわけではなく、高校生までは授業でパソコンに触れる程度でした。
進学先を考えていた頃にインターネットが普及し始め、どの業界にもニーズがありそうなIT技術に触れておきたいと考えました。法政を選んだのは、当時はまだ少なかった「情報科学」を掲げる学部があったからです。
プログラミングは、写経のように本のとおりに入力して、画面に文字を表示させるところからのスタートでした。情報科学部の授業はとても実践的で、ITやインターネットの基礎技術や課題の解決力を培うことができたと感じています。
学部では黄 潤和(ファン ルンヘ)先生の研究室でエアコンや冷蔵庫を管理するユビキタス(今でいうIoT)に、大学院では藤田悟先生の研究室でマルチエージェント(複数の自律プログラム)を利用した群集歩行者シミュレーションに取り組みました。
学部生のときは、準備不足のまま就職活動に臨みました。そのため納得のいく結果が出せず、もっと専門性を高めようと大学院に進学しました。大学院では、社会に出る準備として実践力をつけることを意識し、学生向けのプログラミングやビジネスコンテストに積極的に応募しました。その経験が自信につながり、ヤフーの面接でもしっかりとアピールができました。
大学の課題は、答えがあって、それをどう導くかを考えるものが多いですが、社会における課題は、答えのないものばかりです。そうした課題を経験できる機会として、ヤフーでは法政をはじめ、各大学と「H a c k U(ハックユー)」という開発コンテストを共催しています。 大学の勉強も大切ですが、ぜひ、自分の進路や興味に合うコンテストを見つけて挑戦してみてください。賞をもらえなくても、大きな自信につながるはずです。
IDやセキュリティーの分野は、まだまだ人材不足です。社内はもちろんコミュニティや大学などで次の世代を担う技術者の育成や採用にも携わり、切磋琢磨し合える若手を増やしていきたいと考えています。これからもIDやセキュリティーを通じて「世界を救うエンジニア」に向かって進み続けたいと思います。
(初出:広報誌『法政』2018年6・7月号)