“彼氏いる?” “彼女いる?” “どんな人が好き?” ―
日常のなかで何気なく交わされるこうした会話に、戸惑いを感じたことはあるでしょうか。
異性を好きになること、誰かを好きになることは、当たり前のことのように語られます。そして多くの場合、“好き” という言葉には、恋愛的な魅力も、性的な魅力もすべて含まれているように扱われます。しかし、その “好き” は、誰もが同じように感じるものでしょうか。
どのような人に対し、性的惹かれをどのように抱くか、抱かないかを性的指向(Sexual Orientation)、どのような人に対し、恋愛的惹かれをどのように抱くか、抱かないかを恋愛的指向(Romantic Orientation)と呼ばれることがあります(※1)。性的に惹かれる相手、あるいは恋愛的に惹かれる相手は、異性、同性、相手の性別や性のあり方が惹かれる時の条件にならない、誰にも惹かれない、時々惹かれる、よくわからないと感じる、など、“惹かれ” を抱く/抱かない、惹かれる相手の性別や性のあり、その強弱は人によってさまざまです。
そもそも、“惹かれ” とはどのようなことでしょうか? “性的惹かれ” は誰かに性的な魅力を感じる、または性的な関わりを持ちたいと感じること、“恋愛的惹かれ” は、誰かに恋愛的な魅力を感じる、または恋愛的な関係を持ちたいと感じることという風にも考えられています(※2)。例えば異性に対して恋愛的な惹かれを抱く一方、性的な惹かれは同性にのみ抱く、誰にも性的惹かれを抱かないが、誰かと親密な関係を築きたい、友情と恋愛感情を区別しない、など、“誰に惹かれるか/惹かれないか” だけでなく、 “どのように惹かれるか” もまた、人によりさまざまです。いずれも、誰かとの交際経験や性行為の有無によって決まるものでもありません。
自分と人との関係性のあり方も、一つではありません。恋人やパートナーをもたない生き方、戸籍上同性同士、異性同士、さまざまなトランスジェンダーやノンバイナリーの人を含む親密な関係、一対一の関係もあれば、すべての人の同意のもと複数の人と親密な関係を築くあり方、“恋愛” や “性愛” と異なるかたちで誰かと深く、大切な関係を築くあり方も存在します。
私たちの社会では、「女性と男性が恋愛し、結婚し、家族をつくる」といった一つのモデルが前提とされがちで、それに当てはまらないあり方が見えづらくなることがありますが、どのような関係性を望むか、その関係性や生き方は人それぞれに異なり、多様に存在し、どれも大切なあり方です。
人との関係性を考えるとき、同じくらい大切なのが、お互いの意思を尊重することです。どのような関係であっても、お互いの気持ちや境界(バウンダリー)を大切にすることは、安心できる関係性の基盤になります。新学期シーズンで、色々な人と新しく交流する機会が増える方もいるかと思います。誰かの “好き” を決めつけず、自分の気持ちについても深く知り、考えてみることは、多様な人がともに学び、安心して過ごす場においても大切な視点ではないでしょうか。
【引用】
※1 三宅大二郎・平森大規 (2023年)「日本のアロマンティック/アセクシュアル・スペクトラムにおける恋愛的指向の多面性」『ジェンダー・セクシュアリティ』vol.18 P1~P25
※2 三宅大二郎・今徳はる香・神林麻衣・中村健 (著) (2024年)『いちばんやさしいアロマンティックやアセクシュアルのこと』明石書店 P22~P35
【参考】
1. にじいろ学校(2020年8月27日) にじいろ日誌「何をもって自分の性的指向、恋愛指向を判断するのか」https://nijikou.hatenablog.jp/entry/2020/08/27/193600 (2026/3/26 最終閲覧)
2. 三宅大二郎・平森大規 (2021年)『日本におけるアロマンティック/アセクシュアル・ スペクトラムの人口学的多様性 ――「Aro/Ace調査2020」の分析結果から』『人口問題研究』77-2 P206~P232
3. As Loop編 (2025年12月)「アロマンティック/アセクシュアル・スペクトラム調査2024 調査結果報告書」https://asloop.jimdofree.com/aro-ace調査/調査結果/2024/ (2026/3/31 最終閲覧)
4. アンジェラ・チェン著/羽生有希訳 (2023年)『 ACE アセクシュアルから見たセックスと社会のこと』 左右社
5.「現代思想 特集 <恋愛の現在 –変わりゆく親密さのかたち>」(第49巻 第10号)青土社
DEIセンター コーディネーター