入学のお祝いの言葉
法政大学現代福祉学部 学部長 水野雅男
みなさん、法政大学現代福祉学部への入学おめでとうございます。
ちょうど一年前はこのように新入生への挨拶も入学式も行えませんでした。みなさんが教室に集まり挨拶できることは感無量です。ご挨拶では、「直感を磨く」「問題を求める、問いを立てる」「幸せや豊かさ」の3つのキーワードを紹介します。
感染症の蔓延は、大学での学びだけでなく社会を大きく変えました。通勤を控え在宅勤務を推奨した結果、住まいを都心から郊外や地方へ移す動きが見られます。飲食業やサービス業を中心とした女性の非正規労働者100万人が職を失い、炊き出しの列に多くの女性が並んだと言われています。さらに、うつ病患者は20年間に約3倍に膨れ上がり全国に130万人、総人口の1%にのぼりますが、今般の家の中に引き籠もらせる政策が影響して今後さらに増えることが見込まれています。
これまでの価値基準や行動様式が大きく転換しつつあります。ますます多様化しているとも言えます。
今日の社会は、これまで経済成長を遂げてきた社会とは別次元であり、不安定、不確実、複雑、曖昧という4つの形容詞の頭文字を合わせてVUCAというそうです。先の見通せない社会情勢には、どのような考え方や行動様式が求められるでしょうか。その一つが「直感」だと、山口周氏は書籍「ニュータイプの時代」で述べています。
iPhoneを世の中に産み出したスティーブ・ジョブズは『直感はとってもパワフルだ。知力よりもパワフルだと思う』と述べています。
社会に変革が求められている今、直感を磨くことが重要だと言えます。
私は20年前から、アートと地域社会を掛け合わせることでまちを変えることに取り組み、また数多くの事例を観てきました。東京芸大大学美術館長の秋元雄史氏は、書籍「アート思考」の中でジェームス・タレルの言葉を紹介しています。『アーティストとは、答えを示すのではなく、問いを発する人である』彼は、これからの時代に求められるのは「正しい問いをたてることができる洞察力とユニークな視点」であると述べています。
みなさんは高校までは授業の内容を聞き取り、「正解を探す」ことに注力してきたことでしょう。今日からの大学では「問題を探す」姿勢が大切です。社会にはどういう問題があり、なぜそういう問題が発生するのかを探求する力と情熱と感性が求められます。
昨年度、学部内で優れた活動を行った学生10グループを表彰しました。大学のSDGs関連コンテストや基礎ゼミコンペ、懸賞論文などで優秀な成績を収めました。受賞後の彼らの言葉で印象に残ったのは『行動が制限されていることを嘆くのではなく、何ができるかを話し合い行動に移した』ということです。社会をつぶさに観察し、問題となっていることを取り上げ、論文や政策提言にまとめ、具体的な行動に移しています。まさに、正しい問いを立てる洞察力とユニークな視点を持って取り組んでいます。
本学部を目指してきたみなさんは、学部の教育理念をもうご存知でしょう。「ウェルビーイング “Well-being”の実現」です。みんなが健康で幸福な社会(ウェルビーイング・コミュニティ)の実現に貢献できる人材を輩出するための教育・実習プログラムが用意されています。これから卒業するまで、「幸せや豊かさとは何か」を探求し続けてください。講義を聴き取り、理解を深めることももちろん大切ですが、さらにそこから想像力を働かせて、なぜそうなのかと問題意識を持ち、キャンパスを飛び出して社会へ調べに行くことの方がより重要です。今日の社会ではなぜ幸せや豊かさを感じられないのか、その問題の根本を探る探究心をしっかりと持ってください。
日本の社会は、はたしてウェルビーイング・コミュニティ(ソサエティ)と言えるでしょうか?「幸せや豊かさ」をいろんな角度から計るための多様なモノサシを持つことが求められます。
スマートフォンをポケットにしまって、歩きながらあるいは車窓から街の様子を観る、電車に乗っている人の表情を観察する、何を話しているのかそば耳を立ててみる。社会を観察すること、観察したことや感じたことを、横に座っている同級生と話をしてみる、教員に語りかけることを通して洞察力や直感を身につけ、磨いていきましょう。
最後に、本学部内で完結させて自分自身が「ガラパゴス化」しないようにしてください。他学部の講義を受けたり、サークル活動などで他大学生らと積極的に交流したりすることで、外部との接点を持ち、自らがガラケーにならないように留意して学生生活を愉しんで下さい。
社会は誰かが変えるのではなく、みなさん自身が変革するのです。これからのウェルビーイング・コミュニティを教員と共に創り上げていきましょう。
以上、入学のお祝いの言葉とします。