日本文学科の内容

古代(前期)文学

日本に文字がなかった頃から律令国家が成立した奈良時代までを古代前期(上代)と呼びます。日本最古の歌集『万葉集』には王侯貴族の歌から農民や兵士の歌まで、古代人の生き生きとした声が響いています。恋の喜び、死の悲しみ、宴にどよめく笑いの歌など、「みやび」や「風流」とは異質な世界がそこにはあります。日本最古の書物『古事記』ができたのもこの時代です。世界がどのようにできたのか、そこにはどういう意味があるのかといった根源的な問題を『古事記』は王家の物語として語ります。文学の起源に立ち返ってその意味や面白さを考えます。

古代(後期)文学

古代後期とは平安時代をいいます。同じ律令制の下ですが、仮名文字が成立してからの文学は、それ以前と区別します。はじめは和歌を仮名で表記する工夫から『古今集』が生まれ、女性たちも自らの思いを書き表すことができるようになります。今から千年も前に、『枕草子』や『源氏物語』のような高度な作品が生れた国がどこにあるでしょう。贈答歌という男女対等の表現形式をもっていたこと、王朝の後宮に女性が才能を発揮しうる場があったことなどを踏まえ、仮名の草創期に心の襞々までを表現する文学を獲得していったことを問うのが、この期の研究テーマです。

中世文学

平安時代末期から安土桃山時代までを「中世」と呼びます。戦乱のつづいた時代を思い浮かべる人も多いでしょう。しかし、そうした時代だからこそ、社会の矛盾や人間の本質について思索した文芸が生み出されました。例えばその代表が『平家物語』で、源平争乱という時代のうねりを背景に、人々の苦悩と理想を描きます。同じ頃、鴨長明は「一丈四方」の移動式の庵に住み、スローライフをはじめます。『方丈記』はその実践記として、そして日本初の本格的住居論として誕生しました。こうした人々の心性に触れるのが、中世文学研究の魅力です。

近世文学

1600年前後から1867年までを近世(江戸時代)といいます。17世紀の始め、印刷技術の発達により書物が大量に出版され、庶民のリテラシーが飛躍的に向上します。同時に、貨幣経済の時代に入り、お金という新しい価値観に直面し、人々は欲望に目覚めます。西鶴は『本朝二十不孝』で親不孝の限りをつくす子供たちを書きました。近松は『女殺油地獄』で、遊びの金の返済のため、姉のように慕っていた女性を殺すという悲劇を書きました。芭蕉は「わび」により貧しさを積極的に評価するなど、善悪が不透明ななかで翻弄されている人々を、近世作者たちは見事にとらえています。

近・現代文学

日本の近代社会は明治維新後に生まれましたが、その本質は現代社会まで変わりません。欧米語では近代も現代もおなじ「モダン」で、そこで人類史上初めてすべての人間が自由を求める権利を手にしました。一方で貧困・差別・戦争など、それを阻む現実は変わらずあります。「近・現代」に書かれた文学は、人間が自由を求める魂の記録と言っていいでしょう。例えば明治期の夏目漱石や森鴎外にとって、自由とは欧米諸国と拮抗できる社会を実現することでした。言葉の力で現実が変えられていく、その驚きから近・現代文学研究がはじまります。

中国文学

中国大陸は雄大です。中国の歴史は4000年。けれど、中国文学の世界はもっと広く、もっと深い。だけどそれだけではありません。『荘子』には、かたつむりの左右の角の中にあった二つの国が、領土争いで戦争を始めたエピソードがあります。死屍累々、数万体!「長恨歌」で有名な白楽天は、この話をもとに、詠みました。「蝸牛角上何事をか争う、石火光中(火打ち石の火花の中)此の身を寄す」(「対酒」)と。このように極小、一瞬の人生だからこそ、生とは、死とは、人間とは、を真剣に考えたい。その時、中国文学は決して失望させないでしょう。

古典語・現代語研究

日本文学科では文学だけでなく、ことばを研究の対象にすることもできます。人間は生まれてわずか2年ほどでしゃべり出すようになりますが、なぜそれが可能なのか。日本語と他の言語で、根本的な仕組みは同じなのか。方言研究から何が明らかになるのか。地域により、若者ことばに違いはあるのか。キャッチコピーの表現を分析すると、どのような法則が見出せるのか。なぜ早口ことばは言いにくいのか。これらは、現代語研究の一例に過ぎず、問いの出し方は様々です。また、古典語の研究ならば、『万葉集』に見られるアレとワレ(我)のニュアンスの違いは何か。なぜ係り結びは消滅したのか。短歌の字余りは、どういう場合におこるのか。沖縄方言の古い姿は『おもろさうし』や「琉歌」からどこまで復元できるのか。このように大学での古典語の研究では、高校までの文法を単に暗記する勉強とは異なり、疑問に思ったことを自由にテーマにすることができます。

文芸創作

文芸は言葉の芸術です。言葉は時代とともに時々刻々と変化して行くものですが、文芸創作はそうした変化とともに新しい作品を創造して行くことになります。言葉の芸術である文芸のジャンルには小説、詩歌、評論などがありますが、おもに小説の創作を学びます。詩歌、評論などを学びたい人は担当の教員と相談して決めることができます。
言葉は創造のための道具であり、この道具は過去の文芸の遺産を引き継いでいるものです。創作を学ぶということは、新しいものを創造するために過去の作品に学ぶということでもあります。と同時に現代社会において創作をするとはどのような意味を持つのか、知的財産権やプライバシー問題などとどうかかわるのかなどについても学習します。また作品をまとめあげるには編集という作業も重要になります。そうした創作を支える技術や哲学についても、実際の創作と同時に学んで行くことができます。

能楽研究

観阿弥・世阿弥父子によって大成された「能」は、演劇・音楽・舞踊などの要素が不可分に結合して成立している総合芸術です。詩と音楽と劇が融合した「能」は、物語や伝説や当時の事件に取材し、その描く世界は限りなく広がっています。私たちは「能」を窓に中世の息吹を感じることができます。700年に近い時代を越えて、現代の、そして世界の人々を魅了する「能」は、難解でも古くさいものでもありません。先入観を捨てて、素直に接することからはじめましょう。伝統ある法政大学能楽研究所の資料を存分に利用できるのも強みです。

日本学研究

法政大学日本文学科が、これから育てていこうとしている学問分野の一つです。日本の文学や文化は歴史的に見て世界とのかかわりが密接です。こうした視点で〈日本〉の特質を解明するのが日本学研究です。その際、文学だけではなく、音楽・美術などの芸術分野の知識を体系的に身につけておくことも大切です。

また、日本の伝統文化や文学は、いま世界でも脚光を浴びています。海外における日本文化の受容を学ぶことも、日本学研究の柱の一つです。例えば日本の文学は、海外でどのように評価されているのでしょうか。古典や現代文学の翻訳を通じて、これまでとは違った視座から日本文学を再考してみましょう。

卒業論文

(提出された卒業論文題目の一部です。)

  • 古代の恋愛生活と神話の関係について
  • 古事記の比較神話学的研究
  • 古代日本の兄妹関係について
  • 『古事記』に示された古代人の動物観
  • 人麻呂作吉備津采女挽歌の考察
  • 『万葉集』の七夕歌
  • 万葉集の花歌から見る植物にまつわる文化
  • 落窪物語に見る継子苛めの影響力
  • 『源氏物語』における音楽論
  • 六条御息所考
  • 中世軍記物語における批判の精神
  • 天狗の系譜 ─『今昔物語集』から『太平記』まで─
  • 陰陽師安部晴明 ─その伝説を構成するもの─
  • 民話の教育性
  • 禁書によって育まれた元禄文化
  • 芭蕉の住居論
  • 大岡落語と落語『鹿政談』の奉行像と構成
  • 夏目漱石三部作の意味
  • 夏目漱石の晩年の漢詩文
  • 宮沢賢治の擬音語擬態語研究
  • 太宰治の戦争観
  • 三島由紀夫と剣道
  • 児童文学と「恐怖」について
  • アンパンマンに見る世界観
  • 中国文学の笑いについて
  • 志としての老荘思想
  • 李賀詩論
  • 和歌における色彩語の研究
  • 『八代集』における和歌の字余りについて
  • 国会における言語表現
  • 名字における言語学的研究
  • 駄洒落の研究
  • テロップ表記について
  • ハとガの研究
  • 若者ことばの研究
  • 『イソップ寓話集』からレトリックの“説得性”について考える
  • 生成文法における受動文D構造S構造の研究
  • 能格動詞と非能格動詞について
  • スペイン語の変形文法理論による考察
  • 深層構造言語学への考察
  • 日本語WH疑問文の考察
  • 日本語ラップにおける言語学的研究
  • 時事問題と能
  • 世阿弥の稽古論とベートーヴェンの生涯