教職課程センターの紹介

センター長メッセージ

教職課程センターの紹介

 現在,文部科学省の教員政策は,教師の養成・採用・研修のプロセスを一体的に改革,充実させることを通じて,生涯「学び続ける教師」を育成することを目標としています。
 「養成」段階は,主として大学の教職課程が担います。近年では「教職課程コアカリキュラム」の導入や各大学の教職課程に対する再課程認定など,比較的大きな改革も試みられました。さらに今後は,教職課程の自己点検・評価の体制の構築も義務づけられています。
 「採用」段階は,公立学校に関しては都道府県(政令指定都市の)教育委員会の管轄です。各教育委員会は,採用試験の方法等に工夫を凝らすとともに,養成段階を担う大学との連携も模索しはじめています。また,特別免許状の有効な活用なども議論されています。
 そして,「研修」段階は,国の指定による法定研修(初任者研修,中堅教諭等資質向上研修)を含め,都道府県や市町村の教育委員会が実施に当たります。近年では,各教育委員会は「教員育成指標」を作成し,教師のキャリアステージごとに,身につけるべき資質・能力やめざすべき教師像を明らかにするといった改革を実施してきました。

 大学の教職課程の教育は,言うまでもなく,以上のような養成・採用・研修の一体的プロセスのうち,もっとも基礎的で土台となる教師の「養成」という役割,教師になるための専門的力量の形成と人間性の涵養を手助けすることを使命としています。
もちろん,「教師は現場で育つ」という言葉があるように,教師になるための力量の形成は,大学の教職課程の教育だけで完結するわけではありません。教師は,教師として採用され,その後も不断の研修を積み重ねていくなかで,教師としての力量形成を果たし,職能開発をしていきます。
 だからこそ,生涯にわたって「学び続ける教師」が求められるのです。そうした意味では,大学における教員養成に求められるのは,生涯,教師として学び続けていくための基礎となる知識や技能,思考力や判断力,主体的な学びの姿勢や技法を獲得することであるとも言えるでしょう。

 教職課程センターの役割は,学生のみなさんが,こうした教職課程の教育を受け,所期の目的を達成するためのサポートをすることにあります。具体的には,教職課程の科目の履修,教育実習,介護等体験を通じて,教員免許を取得することを支援します。また,教員採用試験の受験を希望する学生に対しては,そのための情報提供や試験対策のサポート,個別相談の体制なども整えています。
 しかし,こうした実務的な業務だけが,教職課程センターの役割ではありません。なぜなら,それらの業務をこなしているだけでは,先に述べたような,教師になるための基礎的な力量の形成に資することは難しいからです。
 いま日本の教育や学校がどんな課題に直面し,教職や職業としての教師がどんな状況に置かれているのかを知ることなしには,生涯「学び続ける教師」となるための土台を培うことはできません。そのため,教職という視点に軸を据えながらも,現在の教育が抱えている課題等に研究的に迫ることも,教職課程センターのもう一つの重要な役割になります。大学という研究機能を有した場が教員養成に携わることの意味も,ここにあります。

 教師の採用にかかわっては,現在,「教師不足」の問題が,にわかにクローズアップされてきました。教員採用試験の受験倍率が低下してきているうえに,臨時的任用の教師も十分に確保できないがゆえに,年度当初における担任等の配置に穴が空いてしまうような自治体が出てきています。
 その原因は,団塊の世代の教師たちの大量退職に求めるだけでは不十分です。養成の段階にある学生たちにとっても,教職(教師という仕事)の魅力が減退してきているのではないでしょうか。そして,その背景をさらに突き詰めれば,ここ数年,「働き方改革」が待ったなしの課題であるとされてきたような,現職の教師たちの長時間過密労働の実態があります。

 一例を挙げたみただけですが,教師の養成・採用・研修プロセスの問題は,相互に密接不可分です。そして,残念なことに,現時点ではそれらは一体的な充実が図られているというよりは,負のスパイラルが回りはじめた気配さえあります。
 もちろん,日本の子どもと教育の未来を想起すれば,これでよいはずはありません。養成・採用・研修に当たるそれぞれの現場が,現在の教職をめぐる困難と課題の解決に努力していくことが求められます。
 そうした観点から,法政大学教職課程センターも,先にあげた二つの役割,教職課程の教育における学生の支援と,教職を軸に据えた現在の教育問題や課題の探究に,全力を尽くしていきたいと考えています。

教職課程センター長  児美川 孝一郎