研究活動

研究

研究活動

研究所は国際的・国内的政府統計活動と政府統計資料の研究に重点をおいてきた。この中で研究所は主として以下のテーマを中心においた研究に関与している。幾らかの解説をつけながら示していこう。

(1)ミクロデータの利活用の促進

ミクロ統計とは、調査個票が掲載している個人識別情報を排除した匿名化処理済みの個票セットである。このミクロ統計の利用は、詳細な関係の統計分析を可能にし、統計分析の上で不可欠になっている。国際的には、この利用が進み、そのための統計関係法規の改定や制度整備が進んでいる。日本では2009年4月の新統計法の全面施行を受けて、政府統計の提供元である独立行政法人統計センターが大学との連携協定を締結することで、学術・高度教育目的での政府ミクロデータの提供が行われることになった。協定を締結した施設では、匿名化された個票データからさらに標本を再抽出(抽出率80%)することでデータの秘匿性の担保を図るとともに、新たなタイプのデータの利用者から利用申請を受け付け、利用の妥当性当の審査を経て提供することになる。

このような中、本研究所は、私学で最初のサテライト機関として連携協定を2010年3月30日に締結し、同年6月1日より学術研究を行う研究者等を対象として公的統計の匿名データの提供を開始した。

2011年度からは、ミクロデータの利用促進を図るために、ミクロデータの解析教材を作成するなど、本研究所の政府統計匿名標本データのサテライト提供施設の活動を側面から推進する取り組みを行っている。
今後、学術目的での政府統計ミクロデータの提供に積極的に係わっていくことにしている。

(2)研究用事業所データベースの構築

2011年度に八王子市域をフィールドとする事業所データベ一スの構築に向けての準備作業に着手し、2012年に正式に研究所のプロジェクトとして立ち上げた。それが目指すのは、事業所を統計単位とし、 情報を年次更新する縦断型(longitudinal)のデータベースであり、地理的な位置情報を当初からコ ア変数として持つわが国では画期的なレコード形式を持つものである。 今後、各個体レコードに様々な変数を付加することによって、企業(事業所)の生存分析あるい は地域のポテンシャルの計測など、このデータベースは様々な潜在的利用可能性を持っものとして期待される。 また事業所データベースの構築ならびにそれに基づく研究成果を地域にも積極的に開示することで、産学、官学連携面での様々な地域連携を模索していく。

(3)人口センサスと統計生産の形態変化の可能性

およそ150年以上にわたって行われてきた統計調査、特に人口センサスが、統計環境の悪化や効率性の点で、幾つかの国でレジスター記録に基づく統計生産へ移行するきざしがある。この10年間そして今後、「人口センサス」研究は大きな注目になっている。ここでは国際的な比較研究が重要である。研究所は外国からの関係者を招いてワークショップを開き、また関連する資料紹介や論文発表を行ってきている。

(4)「統計の品質」論の紹介と発展

特に1990年代以降、1国あるいは地域国際機関さらには国際機関の統計部署が生産・公表する統計をめぐって、従来の「誤差=標本誤差と非標本誤差」論議を遥かに超えて、統計の品質として論じる動きが活発化した。これは、統計データの正確性以外に、適合性(Relevance:利用者のニーズに合致するか)、適時性(timeliness)や利用者サイドからのアクセス可能性(Accessibility)その他の多面的基準から、統計データ、データを生み出す統計方法・基準、更には、これらをもたらしている1国統計制度・政策を評価し、その結果を公表しようとする論議である。実際の公表もはじまっている。この品質評価論議は同時に統計生産過程での品質確保をめざしている。これは一般企業・組織における品質評価・管理の統計活動への適用であり、情報公開やcustomer重視などの今日的基準が織り込まれている動きと言える。この統計品質論は、従来の統計学や論議を塗り替える諸点を持つもとして、この論議が活発化する1990年代半ばから、統計研究所は注目し、紹介論評してきた。これは引き続き重視しているテーマである。

(5)国際ジェンダー統計論・運動の紹介と日本・ESCAP地域での発展。

1975年の国連世界女性会議以降、男女平等・男女共同参画をめざす国際的・国内的動向は、20世紀後半の国際動向の一特徴といえる。この中で、男女の状況について、性別に対比しながら客観的な把握をめざす統計の役割が重視された。この統計論議は、女性についての統計ではなく、男女に関しての統計であり、単なる性別統計ではなくて、性別を基礎にしながら、特に男女格差・差別が見られる問題分野(これをジェンダー問題と言い、具体的には1995年の国連北京女性会議での採択文書にうたわれている12重大分野などが例になる)をとりあげる統計データ・分析として「ジェンダー統計」と呼ばれるようになった。ジェンダー統計論議と各国や国際機関の統計への浸透・適用にはかなりの広がりもあるが、なお多くの検討事項を抱えている。日本統計研究所は、このジェンダー統計論議が活発化しはじめた初期の時点から、国際動向を紹介・論評し、さらに日本国内や地方の統計におけるジェンダー統計視角の拡大・深化を実際に支援する活動を行い、関連文書も発行してきた。研究所予算によるプロジェクトとして、また科学研究費助成金によるプロジェクトとして、研究は継続中である。

(6)地方統計の研究

統計研究所は地方統計の所蔵に努めてきた。地方統計に関する研究は一部行ってきた。しかし、これから人口減少となる日本では、すでに進行中の人口減少都道府県の数はさらに拡大する。地方は過疎化して一層衰退するのか。東京都自体も今後10年、20年で高齢化をふくむ諸問題を抱えることになる。一方で何らかの地域活性化策を打ち出すのか。地方社会の推移はこれまでになく重要になってくる。統計研究所はこれらを重視している。

(7)アジア地域の統計研究

アジア地域は、21世紀の世界の政治・経済・社会に大きな影響を与えるものになってきている。統計の諸問題に関して先進諸国での経験や改革は、日本にとって参考になることが多い。開発途上国の多いアジア・ESCAP地域についてみれば、統計活動と研究における日本での蓄積は、技術援助の形で供与されることが有効である。同時にそれら諸国の実情を日本と深いつながりを持つ国として理解することが必要である。統計情報・研究をめぐって人的交流をふくめた国際交流はますます重要になってきている。日本統計研究所は先進諸国の統計家・統計研究者との交流と並んで、アジア地区の統計の研究を一部的に手がけ、ESCAP統計部あるいは中国とは交流関係を持つ。アジア・ESCAP地域の統計研究も引き続き行っていく予定である。

その他

最近10数年間にとりあげたもので継続することが必要なテーマを以上に説明した。これらテーマとの関連での課題への取り組み、その他の新しいテーマも必要に応じてとりあげることになろう。特に大学教育の在り方が社会問題化している中では、統計・情報教育に関わっての研究と実践も必要なテーマとなってくるだろう。