研究所概要

日本統計研究所

研究所について

 本研究所は、第二次世界大戦中に日本銀行内に開設された国家資力研究所をその前身組織とする。戦後、大内兵衛元本学総長を委員長として統計委員会によって、統計法の制定をはじめとするわが国政府統計の再建がはかられた。その際に委員会によるわが国の政府統計の再建を研究面で支えたのが、日銀から独立した後独立の研究機関として多数の気鋭の研究員を擁していた財団法人日本統計研究所であった。その後研究所は、大内総長時代に新たに本学内に研究拠点を移し調査研究活動を展開していたが、研究所内部での労使紛争、さらには60年代以降の大学紛争などもあり、研究所としての活動の中断を余儀なくされた。1975年に政府統計研究を中心とする統計の専門研究機関としてその活動を本格的に再開した。その後1981年に本学の附置研究所となり現在に至っている。
 本研究所は、活動再開後、統計制度研究を中心的な柱として多年にわたり内外の政府統計の最新動向に関する多角的研究に取り組んできた。その活動成果がわが国の統計の発展に顕著な貢献を行ったとして2006年度には統計界の最大の栄誉とされる大内賞を研究組織として初めて受賞した。現在でも本研究所は、わが国の統計分野における官学連携の学側の拠点施設として貢献することを研究所の理念として掲げて研究に取り組んできている。
 本研究所がこれまで取り組んできた統計制度研究の成果は、現実のわが国における統計の具体的な制度設計にも生かされている。本研究所所員である中村洋一は政府の統計委員会における委員、菅幹雄は臨時委員をつとめ、両者ともに統計委員会の下に設置された「国民経済計算体系的整備部会」のメンバーとしてわが国の主要なマクロ統計である国民経済計算のあり方をめぐる議論に参加し発言を行った。また、わが国では産業連関表の供給・使用表(Supply Use Table; SUT)同部会の下に設置された「SUTタスクフォース」のメンバーとして、SUTのあり方をめぐる議論に参加し提言を行った。
 最近では本研究所所員である菅幹雄、中村洋一が総務省に設置された「生産物分類策定研究会」に参加し、生産物分類策定の議論をリードした。生産物分類は国民経済計算において重要な位置を占める供給・使用表の作成の鍵となるものである。2年間にわたる同研究会の活動の成果は、総務省政策統括官(統計基準担当)「サービス分野の生産物分類」として2019年4月に設定・公表された。なお、同研究会における議論の鍵となったのは、EU及び米国の生産物分類の動向であったが、本研究所が2017年度にEUおよび米国の専門家を招聘して第15回国際ワークショップを開催したことにより、最新の動向について詳しい情報を得られたことが、わが国における生産物分類策定作業が大きく進む契機となった。さらに、本研究所が刊行した『研究所報』には、研究会に参加したメンバーによる論文を収録している。
 上記の事実が物語っているように、本研究所の最大の特徴は、研究成果を単に学術研究のレベルにとどめるのではなく、それを政府統計機関等における実際の統計行政、制度の再設計として具体化させる点にある。研究所の研究プロジェクト、さらには研究所員を代表者とする科学研究補助金等の外部資金による研究プロジェクトは、いずれもこのような実質的な意味での社会貢献を行うことをその目的として掲げ、研究を組織し実施しているものである。本研究所が2011年以降、継続的に実施している国際ワークショップも、通常のシンポジウムとは異なり、海外の統計実務の専門家を招聘し、内外の統計制度構築に関わる当事者相互間の実質的な情報交換の場として開催しているものである。通常の研究に加え、公的研究資金による海外調査の成果さらにはこのようなワークショップ形式での当事者間の直接的情報交換の場の提供などにより、本研究所の活動は、内外の政府統計機関からも「理想的な官学連携である」と高く評価されている。
 本研究所は、本学の教員、学生、学外の利用者に対する統計データの利用便宜ならびに利用に際しての適切な助言の提供だけでなく、所員を中心に、学外の客員研究員、統計関連学会の研究者、政府や日銀、地方自治体等で統計関連の各種業務に従事している方々さらには海外の国家統計機関や国際機関の統計関係者などとも多角的な研究上の連携を図りつつ研究活動を組織し、展開している。その目的とするところは、いうまでもなく学術研究、さらには社会生活の情報基盤としてのわが国統計の品質の改善による学問あるいは行政サービスの向上に貢献することにある。このような研究面での活動を通じて本研究所が掲げる「統計分野における官学連携の学側の拠点」という研究活動の基本理念を実現するとともに、高等研究教育機関としての本学の社会的、学問的評価の向上に寄与したい。