研究活動

2019年

研究活動

(1)供給・使用表(SUT)作成シミュレーションモデルの開発

政府は、抜本的な統計改革及び一体的な統計システムの整備等を、政府一体となって強力に推進するため、統計改革推進会議を開催した。その「最終取りまとめ(平成29年5月19日統計改革推進会議決定)」においては、GDP統計の基盤となる産業連関表の供給・使用表(SUT)体系へ移行することが記された。この移行作業は単に産業連関表のみならず、ビジネスレジスター、経済センサス‐活動調査、経済センサスの中間年の産業統計調査(経済構造実態調査)、編集・補完手法、SUT推計の全てに関連するものであり、これらのプロセス全体を見渡した調整が必要になる。だが、現在のわが国における産業統計においては、基礎統計から加工統計(産業連関表)に至るまでのプロセスがそれぞれ分断されており、プロセス間の意思疎通が不足している。基礎統計から加工統計(産業連関表)に至るまでのプロセスを一続きのものとして全体を見渡すモデルとして記述することにより、透明性・説明力を高めるとともに、産業統計全体としての効率性を追求するための共通ツールとして産業連関表(供給・使用表)作成シミュレーションモデルを開発することにした。

(2)昭和10年・15年産業連関表の推計

中村隆英他(1953)『日本における産業連関表の試算と分析 : 1935年について』日本統計研究所の1935年産業連関表(以下、「中村他表」と呼ぶ)は、筆者が知る限り、わが国で最初に作成された産業連関表である。中村他(1953)の「はしがき」によれば、同表は東京大学有沢広巳教授の「ゼミナールの参加者中の有志は、教授の御すすめもあって、産業連関表(インプット・アウトプット表)の試算をこころみ」、1953年1月にゼミナールで報告されたものを「土台として改算と整理を行い、担当者のWorking Paperを編集した」。これが中村他(1953)であり、財団法人日本統計研究所より発行された。同研究所は1953年に法政大学に移転しているので、ちょうど移転した年に発行されたことになる。同研究所が創立されたのは1946年であるが、そのときの役員に有沢教授の名前があるので、日本統計研究所から刊行されたのは、その関係からであると考えられる。なお有沢教授は1956年に東京大学退官後、法政大学経営学部教授・総長を務めており、法政大学とは縁が深い。 わが国の公的な最初の産業連関表は1955年に公表された経済審議庁の1951年産業連関表である。続いて1957年に通商産業省が同じ1951年について産業連関表の推計・公表を行い、これが現在のわが国の産業連関表のベースとなった。これらの最初期の公的な産業連関表の2~4年前に推計された中村他表は、その後のわが国の産業連関表のあり方に何らかの影響を与えたと考えられる。そう考える一つの根拠は、推計に参加した「ゼミナールの参加者中の有志」の中に、後に統計審議会会長を務め、「統計行政の新中・長期構想」をまとめた中村隆英東京大学教授の名前があるからである。もう一つの根拠は、今日の産業連関表が、前回表を参考にして作成されるからである。前回表は前々回表、前々回表はさらにその前の表を参考にしている。辿っていけば究極的には中村他表に行き当たる。その意味で中村他表の作成プロセスを明らかにする、昭和10年産業連関表の推計を再現し、また産業構造が大きく変化した時期と言われる昭和15年について延長する作業を2018年に開始した。資料収集段階は昨年度に完了しており、現在は加工・推計作業段階に入っており、農業部門についての推計が完了している。

(3)地域勘定における一般政府勘定に関する研究

 証拠に基づく地域政策の展開には、明瞭で整合的な地域勘定が不可欠である。地域勘定には国民勘定にない困難がある。特に地域勘定における一般政府の取り扱いは、多くの国で長きにわたり議論されている。そこで日本の県民経済計算における中央政府の位置づけと、県居住者と中央の一般政府の間の取引の取り扱いの問題点を指摘し、より国民経済計算の原則に沿った記録方法を提案した。この方法による群馬県に関する試算結果は、現行方式によるものとは大きく異なる地域の一般政府の姿を映すことがわかった。

(4)明治期における東京市街地価の研究

東京府日本橋区・京橋区を対象に、土地の私的所有権が確立した明治初期における土地資産分配と税負担構造の特徴,および地租改正や松方デフレがそれらに及ぼした影響に関する研究およびそれに続く明治末期から大正期にかけての同地域を対象とした土地資産分配に関する研究を予定している。2019年度は、これらの研究の一環として日本橋区・京橋区を対象に町単位で地積・地価を再集計し,そこから各町の坪単価を算出することにより ),立地環境などからみる東京市街地の地価の特徴や町間の格差を明らかにした。

(5)国際ミクロ統計データベースを用いたミクロデータ分析

大学共同利用機関法人情報・システム研究機構は、(公財)統計情報研究開発センターと連携協力して、 オンサイト解析室でアジア各国の政府統計の匿名データをオンサイト利用できる「国際ミクロ統計データベース」の整備・構築を進めているが、菅幹雄は同データベースの整備・構築に参画してきた。そこで日本統計研究所では海外の研究者と共同で同データベースを活用してタイのデータ(THSES 2011)を用いたミクロデータ分析を行い、その成果を公表するため国際ワークショップを2019年3月に開催した。2020年度も引き続き研究を進めており、その成果はAdvanced Studies in Classification and Data Scienceに掲載される予定である。

(6)食品ロス削減による経済便益に関する調査・分析

菅幹雄は環境省 第Ⅳ期 環境経済の政策研究に採択された研究プロジェクト(研究課題名:「食品ロス削減による経済便益に関する調査・分析」、研究代表者:小島理沙 京都経済短期大学准教授)に参画し、日本統計研究所は研究代表者が所属する研究機関(京都経済短期大学)と再委託契約を結んだ。同研究プロジェクトの目的は、家庭系の食品ロス削減を目的とし、費用が少なく、調査対象者の負担の少ない調査方法を開発するとともに、それを利用して、消費者に対する効果的な普及啓発する方法を実証データに基づいて確立することである。研究プロジェクトでは、普及段階での実施費用を極力逓減し、できるだけ多くの市民に参加を促すためスマートフォンのアプリをベースにした食品ロスダイアリーを開発する。同時に、食ロス削減の経済的便益評価を行い、物量ベースで記録される消費者の行動記録から、経済的評価結果を求め、物量情報だけでなく、経済的評価情報をフィードバックすることで、個人の行動変容がより強化されるかどうかを検証する。日本統計研究所は、物量単位の食品ロスデータを金額換算する際の統計処理を担当した。

(7)わが国の人口統計における静態・動態概念に関する研究

初期の人口統計(駿河国人別調、甲斐国現在人別調、第1回国勢調査)を含むわが国の人口統計について、主として人口の静態面、動態面の把握という側面からその特徴を明らかにするとともに、調査の企画・実施者が人口統計における静態・動態概念についてその当時どのように認識しており、それにどういった要因が影響していたかを明らかにした。