研究×SDGs生命科学部環境応用化学科 明石 孝也教授
本研究について、理工学部電気電子工学科の岡本先生と生命科学部環境応用化学科の渡邊先生から研究者の生命科学部環境応用化学科明石先生へのインタビュー形式でご紹介いたします。
| 発明の名称 | 金属資源の乾式精錬方法及び乾式精錬装置 |
| 出願人 | 学校法人法政大学 |
| 発明者 | 明石 孝也 |
| 特許番号 | 特開2025-88550 (P2025-88550A) |
| 特許情報 | 特設情報プラットフォームURL:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/s0100 |
| 発明のポイント | 舞い上がった粉の中でパルス放電させることにより、低い電力量で ・都市鉱石からの重要鉱物の分離 ・各種鉱石の還元 ・各種粉体の急速急冷加熱処理 が可能 |
岡本先生: それではまず、今回の核心となる特許技術「パルス放電噴流床」について、改めてその仕組みを教えていただけますか?
明石先生: 一言で表現するなら、「粉(こな)が噴水のように舞っている中で、人工的な雷(かみなり)を発生させる装置」といったところでしょうか。
渡邊先生: 粉の中で雷、ですか!普通、放電実験というと真空中とか、綺麗なガスの部屋でやるイメージがありますが。
明石先生: ええ、そこがミソなんです。まずベースとなるのが「噴流床(ふんりゅうしょう)」という技術です。これは筒の下からガスを勢いよく吹き上げて、中の砂や原料の粉をグルグルと循環させる装置で、工業的には乾燥や焼成によく使われています。通常は、この筒の外側からバーナーでガンガン炙って加熱するんですが、それだと熱が粉に伝わるまでにロスが多いし、無駄に周りの空気も温めてしまう。
そこで私たちは、このグルグル回っている粉の中に直接電極を突っ込んで、バチバチッ!と「パルス放電」を行うことにしたんです。
岡本先生: なるほど。外から温めるんじゃなくて、中から直接エネルギーを与えると。
明石先生: その通りです。この技術には大きく3つのメリットがあります。一つ目は「加熱効率」。放電のエネルギーが直接粒子にヒットするので、無駄がありません。二つ目は「物理的な剥離効果」。放電の瞬間に生じる衝撃波(ショックウェーブ)が、基板にくっついている金属やチップだけを、パリッと綺麗に剥がしてくれるんです。
そして三つ目が、今回の最大の発見である「化学反応の促進」です。実は、単に熱を加えるよりもずっと低い温度で、金属の「還元(酸素を取る反応)」が進むことが分かりました。
渡邊先生: それはなぜですか?温度が低いのに反応が進むというのは不思議ですね。
明石先生: これは「非熱平衡プラズマ」の効果だと考えています。放電によって加速された電子が、金属酸化物の酸素原子に激しく衝突して、無理やり弾き飛ばしてしまうんです。 例えるなら、氷を溶かすときに、外からドライヤーで温めるのが従来の方法だとすれば、私たちの方法は「氷の内側の分子に直接衝撃を与えて、中から水に変えていく」ようなイメージですね。これによって、今まで1000℃以上必要だった処理が、もっと低いエネルギーで済むようになるんです。

【インタビュアー】理工学部電気電子工学科 岡本 吉史 教授
岡本先生: そもそも、なぜ粉の中で放電させようなんて思いついたんですか?
明石先生: きっかけは2016年頃までさかのぼります。当時、私は企業さんと一緒にLED照明のリサイクル事業に関わっていたんです。 古い照明がLEDに置き換わっていく中で、回収された廃LED照明から希少金属である「ガリウム」をどう回収するかが課題となりました。最初は、ハンマーで叩いたりすり潰したりする「物理破砕」で発光素子(LED)を分け、そこから化学的に「ガリウム」を回収したんですが、これが全くうまくいかなくて。
渡邊先生: ぐちゃぐちゃに混ざってしまったんですね。
明石先生: ええ。収率が数パーセントしかなくて、企業さんに出す報告書にも「経済性が悪化した」と書かざるを得ない散々な状況でした。 それで、報告書の締め切り直前に、半ば苦し紛れに今後の改良案として書いたのがこのアイデアだったんです。「共同研究者が行ったパルスパワー技術と、私が行っている噴流床を組み合わせれば、あるいは上手くいくかもしれない」と。
岡本先生: まさに失敗から生まれた苦肉の策だったわけですね(笑)。
明石先生: そうなんです。でも、書いたからにはやらなきゃいけないということで、実際に装置を組んで実験を行いました。 忘れもしない、あれは2月14日、バレンタインデーの日でした。
岡本先生: チョコレートではなく実験ですか(笑)。
明石先生: はい、学生のいない実験室で、私一人でスイッチを入れたんです。そうしたら、粉体の中でバチバチッと放電した瞬間、中身が綺麗に流動して、金属と樹脂が分かれていく様子が見え。「あ、これは本当にいけるぞ!」と確信した瞬間でしたね。あの日実験していなければ、この特許は生まれていなかったかもしれません。

【インタビュアー】生命科学部環境応用化学科 渡邊 雄二郎教授
岡本先生: この研究開発は、どのようなチーム体制で進められたんですか?
明石先生: 基本的には私と、私の研究室の学生たちとの二人三脚です。特に、実際に手を動かしてくれた学生たちの頑張りは大きかったですね。 「粉の中で放電させる」というのは口で言うのは簡単ですが、実際には電極がすぐに摩耗したり、粉が詰まったりとトラブルの連続でしたから。
渡邊先生: 学生さんたちが根気強くデータを取ってくれたんですね。
明石先生: ええ。特に、本技術による酸化物の還元メカニズムを解明したときは、学生達が何十回も実験を繰り返してデータを集めてくれました。また、学外との連携も重要でした。研究のきっかけを作ってくれた学内の産学連携コーディネーターや、リサイクル実証で協力してくれた企業さんなど、皆さんが「現場のニーズ」を持ってきてくれたことが、研究の方向性を決定づけました。企業さんから企業さんへと使用済みのLED照明をトラック1台分も手配してくれたおかげで、リアルな実験ができたんです。

【インタビュイー】生命科学部環境応用化学科 明石 孝也教授
岡本先生: この技術、リサイクル以外にも応用が利きそうですが、具体的にはどのような分野への展開を考えていますか?
明石先生: 波及効果は非常に大きいと考えています。特にインパクトがあるのは「鉄鋼」と「セメント」業界、そして「都市鉱山」です。まずは「都市鉱山」の話ですが、次世代のパワー半導体に使われる「酸化ガリウム」や、LED素子などに使われている「金」の回収が現実的です。LED素子の中にキラキラした配線が見えるのですが、これは「金(ゴールド)」でした。
岡本先生・渡邊先生: 金ですか! それはすごい。
明石先生: ガリウムも大事だけど、金が取れるならビジネスになりますからね(笑)。
岡本先生: 現金な話ですが、大事なことですね(笑)。
明石先生: そしてもっと規模が大きいのが「鉄鋼」です。今、製鉄所からは日本の産業部門で最も多くのCO2が出ています。これは鉄鉱石から酸素を取るために石炭(コークス)を使っているからですが、私たちの技術なら、コークスを使わずに電気だけで鉄を還元できる可能性があります。さらに、オランダなどの先行事例をヒントに、「鉄をエネルギー貯蔵媒体にする」という構想も進めています。
渡邊先生: 鉄を電池のように使うということですか?
明石先生: そうです。再エネで余った電気を使って鉄粉を作り(充電)、必要な時にその鉄粉を燃やして発電する(放電)。燃えてできた酸化鉄は、また私たちのパルス放電噴流床で鉄に戻せばいい。この「日本版アイロンパワー(J-Iron Power)」のサイクルを作れれば、日本のエネルギー問題にも貢献できるはずです。 また、セメント製造でも、石灰石を焼く工程でCO2排出を大幅に減らせるデータが出ております。

岡本先生: 本研究を進めるうえで、一番苦労されたのはどのあたりですか?
明石先生: やはり、「学術的な証明」ですね。 この技術を最初に学会に投稿したとき、散々な言われようでした(笑)。論文を投稿しても、「誤りが多く、実験結果と議論が不十分である」「放電がどのように反応に影響しているかの説明が必要である」と、査読者2名からリジェクト(掲載拒否)を食らいました。「こんな粉まみれの汚い環境で、プラズマ特有の反応なんて起きるわけがない」「単に電気の熱で焼いているのと同じだろう」と思われたのでしょう。
渡邊先生: それは心が折れそうですね…。
明石先生: 悔しかったですね。でも、実際に低い温度で還元できているという事実はある。そこで意地になって、実験データをさらに追加するとともに、古典的なタウンゼント放電理論を引っ張り出してきて、粉体内のわずかな隙間で電子が加速され、雪崩のように反応が起きているとするメカニズムを提唱したんです。 「見たか!」という気持ちで再投稿して、ようやく論文として認められました。この理論武装の期間が一番苦しかったですが、同時に研究者としては一番燃えた時期でもありましたね。
岡本先生: 最後に、今後の展望や課題について教えてください。
明石先生: 最大の課題は「スケールアップ」です。 実験室の小さなビーカーサイズなら上手くいくんですが、これを工場レベルの大きな装置にすると、効率が悪くなるでしょう。
渡邊先生: 大きくなると何が変わるんでしょう?
明石先生: 粉の流れ方ですね。装置が大きくなると、粉全体がグルグルと循環せずに、特定の場所だけで粉が循環してしまったりするんです。今は、渡邊先生が研究されている粉の排出技術なども参考にしながら、効率よく粉を循環させる設計を模索しています。
明石先生: 展望としては、やはりこの技術で日本の「カーボンニュートラル」に貢献したいです。鉄やセメントといった重厚長大産業は、CO2排出量が多いと同時に、日本経済の屋台骨でもあります。環境規制でこれらが立ち行かなくなる前に、新しい技術で「環境に優しい産業」へと生まれ変わらせるお手伝いができれば、技術者としてこれ以上の喜びはありません。
岡本先生: 現場の苦労と、大きな夢が詰まった素晴らしいお話でした。本日はありがとうございました。

開発に使用する部品および原材料サンプル