研究×SDGs文学部地理学科 山口 隆子​ 准教授

気候変動が人間や自然環境に及ぼす影響を探求

  • 2018年 08月08日
研究×SDGs

気候学、生気象学の見地から、環境問題に取り組んでいる山口隆子准教授。東京都職員として緑行政に携わった経験を生かし、自然と共に人々が快適に暮らしていく方法を探究しています。

ヒートアイランド現象を自然の力で緩和させたい

気候学、その中でも生気象学と呼ばれる分野を専攻し、気候変動が人間や自然環境に及ぼす影響を探究しています。

近年は、都市化が進んだ東京でヒートアイランド現象が問題視されています。コンクリートの建物やアスファルトの道路など、熱をため込みやすい人工的な構造物で覆われ、植生域が減っていることから、他の地域に比べて気温が上昇しやすいのです。そのため、熱中症などの深刻な健康被害が懸念されることから、自然の力を利用して緩和を図ろうと、都市緑化に関する研究を進めてきました。都市緑化によって気温を下げる効果はわずかですが、昆虫や鳥の生息地が確保されるので生物多様性を守れますし、人間生活の癒やしにも役立ちます。

自然と共存しながら快適に暮らすには、どうしたらよいのか。その答えを行政や企業に任せてしまうのではなく、一人一人が意識することが重要です。法政大学は「打ち水大作戦」(ヒートアイランド対策として、各地で同時に打ち水をすることで効果を検証する社会実験)の呼び掛けに応じて「打ち水日和@法政大学」というイベントを開催するなど、省エネや温暖化対策への取り組みに積極的です。こうした後押しに感謝しながら、環境意識の普及啓発も進めていきたいと考えています。

他者の評価は成長の糧 行動を起こすことで道が開ける

文学部地理学科の教員として着任する前は、長らく東京都庁に勤務し、公園の維持管理や屋上緑化の促進、自然環境の保全に尽力してきました。

学生時代に感じていた悩ましさの一つは、どれほど研究に没頭しても、都市緑化の実現は行政の判断に委ねられることでした。ならば、最前線の現場で実践経験を積み、研究の糧にしようと考えたのです。現場での実践は有意義なものでしたが、いずれは教育や研究の道に戻ることを思い描いていたので、今は「ようやく念願がかなった」という充実感でいっぱいです。

学びも研究も、前に進めるには行動が大事だと感じていたので、着任した当初から「発想を広げて研究テーマを見つけよう、研究した成果は外に向けて発表して評価を得よう」と学生たちを促してきました。当初は尻込みしていた学生たちも、粘り強く声を掛けていたら変わってきたのです。

フェーン現象(※)についてグループ研究を進めていた学生たちは、筑波大学の学生と合同ゼミを催し、意見交換をしたことがきっかけになり、日本地理学会で研究を発表するに至りました。

また、2017年の秋に開催された日本生気象学会大会では、チョウの分布が北上していることに関する新たな調査と考察をまとめた研究が認められ、若手・学生コンテストで優秀賞を受賞しました。

この受賞は、ゼミ全体でも大きな刺激になりました。「学生であっても、良い研究をすれば認められる」と発奮し、明らかに取り組む姿勢が変わっています。これからが楽しみです。

フィールドワークで現場力を培い、実践知を磨く

地理や気候分野の研究では、文献を読んで知識を得る以上に、フィールドワークがとても重要です。現地に赴いて観測し、そこで暮らす人の声に耳を傾けることで、初めて分かることが数多くあるからです。

折しも地理学科では、カリキュラムの中で「現地研究」を必修科目と定めています。2017年8月に実施したプログラムでは、伊豆諸島の神津島を訪れ、自然の奥深さを肌で感じながら、気象観測やハザードマップ作成を実践的に学びました。偶然にも法政OBだという神津島村役場の副村長さんにお世話になり、数多くの方々にご協力いただきながら現地研究をやり遂げたことで、学生たちは強い感銘を受けたようです。中には、その後も島での気象観測を継続させ、卒業論文にまとめている学生もいます。

地理や気候を扱う学問は、多彩な性格を有し、厳密な線引きがしづらい分野です。とりわけ、私が手掛けている生気象学は、自然地理学や気候学だけでなく、医学や建築など多くの分野にまたがっています。

学問は自由だと思うからこそ、学生には型にとらわれず、モノを見る目を養ってほしい。自分の感性と現場力を磨きながら、学びに取り組んでほしいと願っています。そうして得た経験の全てが、やがて「実践知」として結実するのだと信じています。

アンテナを張り巡らせ、あらゆることを自分の糧として取り込む

思い起こすと、人との出会いが、自分の進路に大きな影響を与えたように思います。高校には、前身は新聞記者で、結婚を機に退社して非常勤で小論文を教えてくださった先生がいました。大学入学直後、その先生が世界の農業気象学者の方々が集まる国際会議のコーディネーターをされることになり、ボランティアで運営準備の手伝いをしたんです。自分の進路を模索しているタイミングで、のちに気候変動に関する研究でノーベル平和賞を受賞されるような世界の第一線で活躍される方々を間近で見たり、話を聞くことができたりしたことは、強烈な刺激になりました。

自分でも好奇心は旺盛だと自覚しているので、知りたいことや興味が引かれることは数多くあります。気になると自分の目や耳で確かめたくなるので、学生時代から文献を読みあさったり、ツテをあたって他大学の教授を訪ねて、話を聞かせてもらったりしていました。その気質は今も変わらず、年間にして数百冊は本を読んでいます。多い時には400冊~500冊になるでしょうか。研究に関する専門書だけでなく、写真集を見てここの景色は素晴らしいからいつか行ってみたいとか、料理本やコミックス、小説などからもさまざまな刺激を得ています。それらが研究の種になったりするのです。

法政の学生たちは、すごく真面目ですね。気候学にしても、物理的な知識を学ぶものという先入観があったようです。けれど私は、気候の変動が自分たちの生活にどのような影響を及ぼすのかという観点から、あらゆることが研究に結びつくと教え始めたので、学生たちは当初戸惑っていたようでした。

真面目なのは悪いことではありませんが、自分で枠を決めてしまうと、積極性が失われてしまう側面もあります。私が「外に向けて発表して評価を得よう」と学生たちを後押しするのは、せっかく実力を持っていても尻込みしがちな学生たちに、成功のスパイラルを体験することで、自信を付けてほしいと思うからです。

研究や勉強は誰かと比較するものではありませんが、他者から評価を得る手段としては、コンテストや学会などへの参加は最適です。2017年には受賞という好結果を出せたので、こうした刺激をばねに、思い込みの殻を破って、自由に発想できるようになってくれたらいいですね。

※フェーン現象 湿った風が山肌に沿って上昇する際に冷えた空気が霧や雨雲を発生させて気温が下がり、次に山を越えて下降する際には乾燥して気温が上がる。このとき、山の風下側で気温が上昇する現象をフェーン現象という。フェーンという名は、アルプス山中で吹く局地風(ドイツ語で Föhn)に由来。

環境センターと共催した「打ち水日和」には学生や教員、近隣住民など多くの人が参加し、環境意識の啓発につなげた

文学部地理学科

山口 隆子 准教授

1972年東京都生まれ。お茶の水女子大学文教育学部地理学科卒業。博士(学術)。東京都建設局で、都立公園や霊園、動物園の維持管理を担当。東京都環境科学研究所の研究員、東京都環境局自然環境部課長代理としてヒートアイランド対策や自然環境の保全に従事。2017年より文学部地理学科准教授に着任。現在に至る。