研究×SDGs経済学部経済学科 菅 幹雄 教授

経済センサスから国勢調査まで柔軟な発想で経済統計を究める

  • 2020年 12月22日
研究×SDGs

統計学の中でも経済統計のエキスパートとして多方面での統計調査に携わる菅幹雄教授。分野を問わない柔軟な発想で統計を作るためのアドバイスや提案にも尽力しています。

統計調査の中に隠れた数字には表れない人の機微

統計学の一分野である経済統計学を主に専門としています。調査結果を分析する他、どのような調査を行うのか、調査設計を策定したり調査項目を検討するなどの作業にも携わっています。

手掛けている調査統計は多岐にわたります。2020年に実施された国勢調査や経済センサス※など、国政で必要とされる調査にも関わりました。世帯を対象とした国勢調査と、事業所・企業の経済活動を調べる経済センサスでは、データの利用目的が違うこともあり、調査手法や注意すべき点は大きく異なります。どちらにも携わっているのは珍しい例かもしれません。

統計調査の主な目的は、現状を知り傾向を推測することです。国勢調査が5年ごとに繰り返されるのも、過去の調査結果と比較することで、構造変化の傾向を推し量れるからです。また、時代の変化を鑑みて、調査項目を改定していく必要があります。そうした中に、統計調査の面白さがあります。

統計調査は地味な作業で、集計結果も無味乾燥な表に見えるかもしれませんが、調査背景や手法を理解すると、さまざまな妙味が隠れています。

例えば、ある国での国勢調査でのこと。調査票に記された家族構成は老夫婦に子どもが一人。ただ、子どもの年齢が2歳であることを不審に思って調べてみると、その「子」はペットの犬でした。老夫婦の心情は想像できますが、調査側からすると苦笑いするしかない結果です。

他にも調査を実施する側が悩ましく頭を抱えるのは、調査対象の名簿づくりです。行政が管理している情報と実情は必ずしも一致せず、登記上は存在しても営業実態のない休眠企業もあれば、各種届出がされないまま住所を変更した住民がいることもあります。正確を期すためには、調査開始前に一軒一軒訪ねて居住者を確認したり、宛先にきちんと届くかハガキを送ってみるなど、知恵を絞って確かめるのです。最も重要ながら、デリケートな領域に踏み込むことになるので、最も難航する作業でもあります。

こうした「調べてみて初めて分かること」が山ほどあり、統計データの中には、数値化できない人間の機微がいくつも含まれていると感じるのです。

※経済センサス:事業所・企業を対象とする全数調査(センサス)。「経済センサス‐基礎調査」と「経済センサス‐活動調査」の二つから成り立ち、国勢統計(国勢調査)、国民経済計算に準ずる重要な統計と位置付けられている。

日本の経済統計の発展を支えてきた歴史

もともとは、統計学の手法を用いて経済学の実証分析を行う「計量経済学」に携わっていましたが、統計の作り方に興味を覚え、経済統計に携わるようになりました。

研究拠点として法政大学を選んだ理由の一つは、付属施設として「日本統計研究所」があったからです。

日本統計研究所は、第二次世界大戦中に日本銀行内に開設された「国家資力研究所」を前身組織としています。戦後、財団法人として独立して改組され、名称も「日本統計研究所」と改めました。当時、所長を務めたのが本学元総長である大内兵衞氏です。その縁で、研究所と大学の関係は密接になり、1953(昭和28)年に大学構内に移転され、1981(昭和56)年には付置研究所となりました。

日本の統計制度は、戦後に米国のサポートを受けて大きく発展し、国内総生産(GDP)や経済成長率を算出できるようになりました。しかし、長らく継承し続けている調査手法が、情報化が進んだ現代にはそぐわなくなっている点も指摘されています。

日本統計研究所では、講演会を開催したり、海外から現場をよく知る担当者を招いて最新の調査手法を学ぶ国際ワークショップを開催するなど、経済統計分野の発展を後押しする研究活動を続けています。

日本統計研究所が主催するワークショップ

日本統計研究所が主催するワークショップでは、外国(主に米国)から講師を招き、現場に即した統計手法などについて学んでいる(写真は2018年撮影)

ワークショップの様子

ワークショップには、研究者や統計調査に関わる企業など、学外からも多くの人が参加。経済統計分野の発展に寄与している(写真は2018年撮影)

自分を客観的に見つめることで実践知を引き寄せる

統計学の手法は、平均寿命、景気動向、スポーツの勝率、内閣支持率など、日常のあらゆる場面で活用されています。統計の基礎知識を学び、客観的な根拠として示すことで、説得力が大いに増すからです。現代の情報化社会では重要性の高いスキルなので、簡単な基礎知識は身に付けておくことをお勧めします。

個人的には、学生のうちに、秀でた能力のある人たちと出会う経験をしてほしいと思います。「すごい、とてもかなわない」と感嘆するような人との出会いは、自らが持つ力を客観視するきっかけになり、自分に何ができるかを考える強烈な刺激になるからです。真剣に自分を見つめ直し、思考を働かせることから、社会にもまれても生き抜ける「実践知」が生まれるのではないかと期待しています。

ゼミで卒業生を送り出す親睦会での写真

学生とも気さくに交流。写真は、ゼミで卒業生を送り出す親睦会での一枚(写真は2019年撮影)

経済学部経済学科

菅 幹雄 教授(Suga Mikio)

1968年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業、同大学院商学研究科博士前期課程修了、博士後期課程単位取得満期退学。2001年博士(商学)。東海大学教養学部講師、東京国際大学経済学部助教授、同教授などを経て、2011年より本職。現在に至る。日本統計学会、環太平洋産業連関分析学会所属。2017年より、日本統計研究所所長を務める。