研究×SDGs社会学部メディア社会学科 藤田 真文 教授

メディアの社会的責任を考えながら 現場を支える専門家の育成を目指す

  • 2017年 06月21日
研究×SDGs

学内外で精力的な活動を続け、メディア研究にまい進する藤田真文教授。
今は法政大学のブランディング推進チームの長として、学内外に「法政らしさ」を伝えるブランド戦略にも貢献しています。

テレビドラマに投影されたテーマから世相を探る

専門はマスコミュニケーション論で、テレビドラマの分析や考察を通じてマスメディアを研究しています。

テレビドラマには、時代ごとの社会情勢や風潮が盛り込まれています。多くの人から共感を得た人気ドラマを分析すれば、当時の世相や憧れのライフスタイルなどが浮き彫りになります。まさに社会の縮図ですね。

ドラマに影響を与える世情の一つが若者の恋愛観や結婚観で、昭和から平成にかけて、大きく変貌しました。年頃になれば家庭を築くことが当たり前とされた1980年代は、結婚というゴールに向かって右往左往する姿を描いたドラマが多く見られました。それに対して現代は、結婚適齢期という意識すら薄まっています。昨年放映されたドラマでは、結婚を仕事として雇用契約を結び、便宜上の夫婦生活を始めた二人が恋に落ちる様を、コミカルに描いた物語に注目が集まりました。「なぜ結婚するのか」が分からず、戸惑う不器用な姿が多くの若者の共感を呼んだのです。インターネットで積極的に情報を発信し、歌やダンスが話題になって波及効果を生んだことも、今の時代を表しているといえるでしょう。

テレビドラマ研究では学外にも活動を広げていて、現在は、文化庁が主催する芸術祭や民間放送連盟賞など、優れたテレビ番組を表彰する賞の審査員も務めています。ギャラクシー賞では運営にも協力しているため、年間100本以上のテレビ番組を視聴しています。大変ですが、多くのドラマに触れる機会に恵まれていることは、とても幸せだと思っています。

裏方に徹したドラマ制作をシミュレーション体験

ゼミ活動を通じて目指すことは、メディアの専門家の育成です。まずはドラマを構成する物語論や映像記号論などの基礎を学び、それらを駆使してテレビドラマにアプローチします。

実践的なトレーニングとして、2年次の春休みには、自分たちで企画したオリジナルドラマを制作します。今年も三つのチームが、それぞれ20分ほどのショートフィルムの制作に取り組んでいます。私はアドバイスをすることはあっても、制作過程には一切関与しません。6人ほどのチームで役割を分担し、企画、脚本、撮影、さらにキャスティングや撮影の許可を得る交渉も含めて、全て自分たちの力だけでドラマ作品を完成させる課題です。

それぞれの作品は、4月の終わり頃に、多摩キャンパスのEGGDOMEで上映会を開催して、披露します。その実施を告知し、観客を集めることも、学生たち自身が計画して行います。

現場で働くスタッフと同じ役割を実際に体験してみると、テレビドラマは、複合的な要素が絡み合って作られていることが分かります。映像作品として人に見せることを意識し、物語の中で何を伝えたいのかを考えることも重要です。ここで制作に取りかかる前に学んだ物語論や映像記号論によるテレビドラマの分析が生きてきます。

シミュレーション経験を重ねることで、やがては放送メディアの現場で働くプロフェッショナルとして巣立ってくれることを期待しています。

自由を生き抜く実践知を伝え社会的責任とは何かを考える

本学は、あらゆる学問の研究者がそろった裾野の広さ、学生たちの学びの意欲に応える教育環境、そして日本有数の歴史を誇る私立大学です。ではそれらに共通した「法政らしさ」を可視化する「ブランド」とは何か。私が座長を務めた「ブランディング戦略会議」では、大学関係者へのインタビューやワークショップを通じ意見交換を行いながら、2016年に「自由を生き抜く実践知」というタイトルを冠した法政大学憲章を掲げました。現在もブランディング推進チームで引き続き学内外へのブランド浸透に努めています。

同時期に、BPO(放送倫理・番組向上機構※)の放送倫理検証委員会の委員に選任され、放送番組の質向上を支える活動も始めました。BPOでは、視聴者から寄せられた意見に基づいて、第三者機関として公平な視点で調査し、放送倫理上問題はなかったか検証しています。

これらの活動を通じて、情報を発信するに当たっての社会的責任や影響力について、改めて考えさせられています。メディアに携わる者の一人として、これからも真剣に向き合い、メディアでの活躍を目指す学生たちの背中を押したい。それが、「実践知」へとつながっていくことを願っています。

傍流とされた放送メディアの力に着目、新しい学問の確立を目指して研究をスタート

社会学では、全ての事柄はその人の立場で理解することが基本姿勢で、主観的な信条や倫理観のフィルターを通さずに、あるがままを観察したり、体験してみたりすることが重要です。客観性を失わずに、事柄の意味や行動の真意を考えることで、ようやく理解に至ることもあるからです。それだけに、自分のライフスタイルとの違いや個人的な好き嫌いを感じても、とりあえずチャレンジしてみることが大事だと考えています。

研究を開始した当初は、マスメディアの研究と言えば、新聞学が中心で、テレビに代表される放送メディアに関する研究分析は、ほとんど行われていませんでした。放送メディアに目を向けた人もジャーナリズム研究が中心で、それこそが本流であるという権威付けがありました。そうした風潮に疑問を感じ、ジャーナリズム研究とは異なる切り口でメディアを分析し、新聞学に対する放送学を確立させたいと思ったのです。自分自身を振り返っても、学生時代からテレビを見ることが好きで、多感な時期には社会派ドラマや青春群像劇などの多様なテレビドラマに感銘を受け、生きる力を与えてもらいました。ドラマには、人の心を揺さぶり、多くの社会現象を生み出す力がある。その力のメカニズムを解明したいという思いが、私の研究の出発点です。

メディア研究の根本には「メディアは社会的責任を果たさなければいけない」という概念があります。市場に任せておけば、営利活動に傾き、真実よりも話題性を重視してしまうこともあります。社会的な責任を自覚して表現活動を行わないと、メディアは信用を失います。その社会的責任の検証のためにBPOなどの機構も作られています。

マスメディアの勢力は、この数十年で、新聞からテレビ、そしてインターネットへと大きな変貌を遂げています。特に、情報伝達のスピードや拡散性が特出しているインターネットが台頭してきた勢いは強く、今では若い人を中心に大きな影響力を持っています。しかし、同時にたくさんの課題を抱えていると思います。インターネットもまたメディアとして社会的責任を果たせるか、これまでのテレビ研究の蓄積を活かしながら考察していきたいですね。

社会学部メディア社会学科

藤田 真文 教授

中央大学法学部政治学科卒業後、慶應義塾大学大学院法学研究科博士後期課程修了。日本民間放送連盟研究所、常磐大学助教授などを経て、1999年4月から社会学部助教授。2000年4月に同教授となり、現在に至る。学内外でも活躍の場は広く、民間放送連盟賞などの番組審査委員の他、BPO(放送倫理・番組向上機構)放送倫理検証委員会の委員を務め、本学ブランディング推進チームの長としても活動中。
(※役職などは掲載当時)