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機械が発する音の研究を根幹に、モノづくりの新たな展開に挑戦 理工学部機械工学科 御法川 学 教授

  • 2018年05月14日
  • コラム・エッセイ
  • 教員
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法政で始めた機械音響の研究を25年以上にわたり続けている御法川学教授。社会のニーズに応えるモノづくりを目指し、今では航空分野や3Dプリンターの技術研究にもまい進しています。

身近な機械システムの性能向上と静音化を同時に追究

現在、主軸としている研究は、機械音響と小型航空機の試作開発です。特に機械音響に関しては、ファンが発する空力騒音を軽減することをテーマに、すでに25年以上取り組んで研究を続けています。

ファンの性能を落とさずに静音化するには、回転する羽根の構造やデザインを見直して、風切り音を軽減させるアプローチが必要です。ファンが稼働する環境や条件を再現しながら、わずかずつ調整しては細密に計測し、結果を分析するという検証作業を繰り返すことになります。根気のいる地味な作業の連続です。

機械音を静かにするといっても、単純に無音化すればいいわけではありません。例えば、走行音が静かな電気自動車は、歩行者に存在を気付かせるため、人工的にエンジン音を発生させています。安全性の観点からは、音をゼロにするのではなく、ユーザーが不快に感じない音量と音質にすることが重要です。人間の聴覚は、「ザー」と聞こえる低音よりも「ピー」と鳴る高音を嫌がる傾向が強いことが分かっているので、今では心理音響の分野にも踏み込んで研究を深めています。

便利な機械製品が続々と登場する一方で、騒音の被害は深刻化しています。例えば近隣に大型の量販店が建設されると、買い物は便利になりますが、駐車場を出入りする自動車や、エアコンディショナーの室外機などが新たな騒音を発生させ、トラブルを引き起こす要因になることもあります。

それだけに、生活に密着した機械製品の多くは、本来の性能に加えて、静音性が強く求められています。そのニーズに貢献し、役立つ製品を世の中に送り出すことには、大きなやりがいを感じています。音に関する要求には終わりはないと思うので、これからも研究にまい進したいですね。

枠にとらわれず、きっかけを逃さず新たなモノづくりに挑戦できる環境

工業用ロボットや工作機械の技術者だった父親の影響で、幼い頃からモノづくりに魅了されてきました。きっかけと機会があれば、モノづくりという大きな共通項の中でさまざまなことに挑戦し、新たな知識やスキルを得たいと考えています。

幸い、大学で研究に携わっていると、若い世代の学生たちから多様な企業の方々まで、多くの人と交流できる機会があります。そこから、新たな刺激が生まれ、モノづくりの新たなきっかけになることも多いのです。小型航空機の開発を手掛けたり、企業と協力して3Dプリンター(積層造型機)を利用した新たな製造技術の開発に成功したりするなど、人との交流から枠にとらわれず自分の幅を広げ、新たな研究の展開につなげることができました。

そうした多様性を容認し、伸び伸びと研究ができる法政の環境には感謝しています。実は、私は法政大学第一高校(当時)から大学院まで一貫して学んだ法政OBで、7年ほど企業の研究所で勤務した後、1999年から母校に戻って今に至っています。

当初は助手の立場でしたが、企業での経験を顧みると、学生のうちにモノづくりのプロセスを把握し、現場で生かせる実践力を培う教育が必要だと感じていました。そこで、実習に関するカリキュラム(教育課程)を任されたことを機に、理論と実践の両輪で教育・研究スタイルを築き上げてきました。

自由と進歩の精神で新たなチャレンジを応援し、社会の課題解決につながる「実践知」を創出しようとする法政マインドは、その頃からしっかりと根幹に流れていたように思います。

少し先の未来を見据えたところから社会のニーズに応えたい

法政が掲げた「自由を生き抜く実践知」という言葉には、哲学と実学、理想と現実の間の、絶妙なバランス感覚を感じています。遠い未来ばかりを追いかけていると、今の目の前にある社会の問題を見落としてしまいます。その一方、問題の渦中にはまり込んだ状態では、日常に忙殺されて視野が狭くなってしまいます。今ある問題を解決しようと思えば、客観的に判断できる半歩先にいるのがいい。その絶妙な位置を示しているように思います。

自分の研究でも、少し先の道を明るくすることで、次の一歩を踏み出しやすくする。そんな意識で社会の課題解決に、貢献したいと考えています。

Light Sport Aircraft(LSA)と呼ばれる新しいカテゴリーの小型航空機の試作機を設計、開発を手掛けている

Light Sport Aircraft(LSA)と呼ばれる新しいカテゴリーの小型航空機の試作機を設計、開発を手掛けている

御法川 学 教授 理工学部 機械工学科

1968年埼玉県生まれ。法政大学工学部機械工学科、同大学院工学研究科機械工学専攻博士前期課程単位修了。博士(工学)東京工業大学。1999年より工学部助手として本学に勤務。2004年より助教授、2008年准教授を経て、2010年より教授に就任。現在に至る。日本機械学会、日本騒音制御工学会、ターボ機械協会、日本ガスタービン学会、The Institute of Noise Control Engineering所属。