研究活動

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ポストコロナのサステイナブルな社会実現に資する3D先端材料プロセス

 本学の使命は、激動する21世紀の多様な課題を解決し、「持続可能な地球社会の構築」に貢献することにあります。現実の危機となった地球温暖化を始めとするグローバルな地球環境に関する課題、半ば強制的に非日常をもたらした新型コロナウイルス対応を契機とした社会の変化に対応する新たな技術の開発を目指します。これまでの本研究センターのプロジェクトで醸成された多くのseedsを活用し、さらに発展させるとともに、新たな学際的な叡智を結集して、原子・分子サイズのミクロ領域から、ナノ・ミクロンオーダーのメソ領域、ミリメーター以上のマクロ領域の多様な3D材料設計とその実現により、持続可能な社会の構築に能動的、受動的な効果をもたらす先端材料プロセスを発展させて行きます。安全、安心に人類が生活できる社会環境を形成保持し、産業の発展と住み良い社会とが均衡のとれる持続可能社会の実現に向けて、エネルギー問題を解決し、限りある資源を有効利用することを目指します。

【研究プロジェクト一覧表】

1.「革新的3Dプロセスによる高機能機械要素の実現」(理工・御法川 学)
2.「材料特性を活かした機械要素の革新的3D造形法とその応用」(デ工・田中 豊) 
3.「3D先端材料プロセスを活用した多用途マイクロタービンの開発」(理工・辻田 星歩)
4.「3D積層造形法による金属系生体複合材の組織制御と高強度化」(理工・塚本 英明)

5.「低消費電力超高精度モータ駆動システム」(理工・安田 彰)
6.「環境適合型半導体量子ドットの高効率生成プロセスの開発」(理工・中村 俊博)
7.「超低消費電力神経補綴デバイスの開発」(理工・鳥飼 弘幸)
8.「微細加工ワイドギャップ半導体による高効率電力変換素子の研究」(イオンビーム・三島 友義)

9.「バイオプロセスを用いた金属資源化技術の開発」(生命・山本 兼由)
10.「薬剤応答再現性のある3D心臓組織の構築」(生命・金子 智行)
11.「細菌に感染するウイルスの生存戦略」(生命・佐藤 勉) 
12.「環境ストレス下での光合成装置の制御と安定化の研究」(生命・水澤 直樹)
13.「細菌べん毛モーター回転の安定化機構の研究」(生命・曽和 義幸)

14.「マイクロ・ナノ構造制御した環境浄化触媒および高効率エネルギー変換システムの創製」(生命・緒方 啓典)
15.「酸化物・硫化物高機能マイクロ・ナノ構造の3D制御」(生命・石垣 隆正)
16.「光応答性ソフトマテリアルの開発」(生命・杉山 賢次)
17.「3D形状合金へのセラミック粒子の積層実装」(生命・明石 孝也)
18.「ナノ層間を制御した層状複水酸化物による二酸化炭素の回収」(生命・渡邊 雄二郎) 

【研究プロジェクト詳細】
1.「革新的3Dプロセスによる高機能機械要素の実現」(理工・御法川 学)

 本研究で試作した造形範囲1m×1m×1m 程度のセメント系材料3Dプリンタを新たに試作して、ノズル送り速度と積層ピッチの最適値を材料が過不足なく供給される条件の下で定義した。ここでは、積層ピッチをノズル径よりも小さくするオーバーラップ積層を基本として、材料が潰れることによって積層面を平滑にして積層性を格段に向上させる方法に関して、その有効性を確認した。また、連結したヘルムホルツ共鳴器を製作して低周波数域の周波数特性を調整するのに効果的なセメント系材料の消音ブロックを提案した。

  • ME方式プリンタの積層原理

  • セメント材連結共鳴器

2.「材料特性を活かした機械要素の革新的3D造形法とその応用」(デ工・田中 豊)

 光硬化性樹脂(UV硬化インク)を用いるインクジェット方式の積層付加造形(3Dプリンティング)において、サポート材のいらない造形をめざし、パラレルメカニズムを用いた3D造形システムを試作し、インクの積層プロセスの検討を行っています。現在、サポート材無しで自立する、透明UV硬化樹脂材による直径0.5 mm,高さ5 mm の円柱と、白顔料を含むインクによる直径0.5 mm、高さ2.2 mmの円柱の造形に成功しています。今後はさらなる精度向上と複雑形状の造形を検討しています。さらに傾斜直動形パラレルメカニズムを用いてFDM方式の特長を活かし、自由曲面への付加造形を可能とする3D造形システムの開発を行っています。

  • パラレルメカニズムを用いたFDM方式付加造形システムと造形結果の一例

3.「3D先端材料プロセスを活用した多用途マイクロタービンの開発」(理工・辻田 星歩)

 3D積層造形技術の普及が、環境負荷低減のために性能向上が急務とされている各種ターボ形流体機械の製造分野においても拡大しつつあります。軸流タービン翼の転向角の増加による高負荷化は、翼厚を増加させることにより空気冷却システムの適用を容易にするため、小型軽量化が要求されるマイクロガスタービンの熱効率の向上を可能にします。一方、3D積層造形技術は中実の翼内に複雑構造の冷却孔を構築することを可能にします。本研究では、高負荷軸流タービン翼の開発に必要な知見の収集を目的に、究極の転向角160°を有する超高負荷軸流タービン翼列内の、複雑な流動現象と損失生成のメカニズムを解明するための研究を行います。

4.「3D積層造形法による金属系生体複合材の組織制御と高強度化」(理工・塚本 英明)

 複雑形状を有する金属系生体複合材において、ミクロ組織を厳密に制御することは、材料・構造の強度適正化を行う上で必要不可欠である。また、形状の複雑さ故に、マクロ的に均一な熱・機械的処理のみでは、所望する性質を得ることは難しい。一方、3D積層造形法は、外観の造形技術としての適用のみならず、ミクロ組織制御を積極的に行う観点からも有効活用が期待される。本研究では、3Dプリンタによるジルコニアセラミックス/チタン系生体材料をはじめとする種々の複雑形状傾斜機能材料(FGMs)のマルチスケール構造制御を試みる。現在、人工歯科技工等でも用いられる遠心鋳造技術を応用したFGMsの作製法の構築を行ってきているが、これらの技術との融和も含めた技術開発を行う予定である。

  • 遠心力スラリー法で作製したカーボンナノチューブ(CNT)/アルミニウム(Al) FGMsの組成傾斜イメージ

  • 遠心力スラリー法で作製したジルコニア(ZrO2)/ステンレス(SUS304)FGMsの組成傾斜イメージと硬度分布

5.「低消費電力超高精度モータ駆動システム」(理工・安田 彰)

 モータの内部コイルを分割し個別に駆動するマルチコイルモータを提案し、広い速度・負荷条件で高効率かつ低消費電力なモータシステムの実現を目指します。このマルチコイルモータの低消費電力特性と高精度駆動特性を引き出すためには高精度高効率の駆動回路が不可欠となる。特に高精度化のため、出力波形のデジタルフィードバックを可能とする新駆動システムを提案し、その特性を明らかにします。モータの駆動信号であるトランジスタの出力波形はアナログ量であり、これを高精度にデジタル信号に変換する必要があります。一方、効率向上のため、これには低消費電力特性が求められる。これらを実現するため、図に示した出力誤差フィードバック型マルチコイルモータシステムの研究を行います。

  • 誤差フィードバック型マルチコイルモータシステム

6.「環境適合型半導体量子ドットの高効率生成プロセスの開発」(理工・中村 俊博)

 近年、半導体量子ドット発光材料を用いた超高精細ディスプレイが開発され注目されています。しかし一般に用いられる半導体量子ドットはカドミウムや鉛など有害な金属元素を含み、廃棄の際に環境への影響が懸念されています。そこで、本テーマでは、人体に無害で地殻中に資源豊富に存在するシリコン(Si)をベースとした環境適合型発光性Si量子ドット材料に関する研究を進めています。当グループではSiウエハーから作製した多孔質Siに対する独自の低エネルギートップダウン破砕手法による溶液分散可能なSi量子ドットコロイドの高効率生成プロセスの開発に成功し、現在、発光色制御性の向上や発光特性の改善に取り組んでいます。

7.「超低消費電力神経補綴デバイスの開発」(理工・鳥飼 弘幸)

 神経補綴デバイスとは、病気や事故で機能を失った神経系の一部を大規模集積回路などの人工物で補完するデバイスの総称であり、人工内耳や人工海馬などがその代表例としてあげられます。本研究では、超低消費電力な神経補綴デバイスを開発することにより、ポストコロナのサステイナブルな社会の実現に貢献します。具体的には、生物が持つ高度な機能を再現できる大規模集積回路の設計に取り組み、例えば、哺乳類の内耳が持つ複雑な非線形ダイナミクスを効率よく集積回路として実装するための手法を開発し、その人工内耳への応用をめざします。また、生物の神経細胞とそのネットワークの複雑ダイナミクスを効率よく集積回路として実装するための手法を開発し、その神経補綴への応用をめざします。

  • 超低消費電力人工神経細胞の動作の例

8.「微細加工ワイドギャップ半導体による高効率電力変換素子の研究」(イオンビーム・三島 友義)

 窒化ガリウム(GaN) を用いたパワーデバイスは、従来のシリコンや炭化ケイ素を超える高い電力変換効率を有することが実証され、低炭素社会に大きな貢献が期待されています。本研究は、GaNパワーデバイスで特に高性能化に有利な縦型構造を採用し、低い立上り電圧、低い順方向抵抗、および、高い逆方向破壊耐圧を併せ持つパワーダイオードの開発を実施します。ナノサイズレベルまで薄膜化した超高濃度ドープp型GaN層を同心円状に微細加工することなどで、上記の目標の実現に向け研究を行います。

  • GaN MPS(Merged PiN Schottky) ダイオードの断面構造図

  • 順方向通電時の発光の様子(多重リング状のPNダイオード部から紫外線発光を示している様子)

9.「バイオプロセスを用いた金属資源化技術の開発」(生命・山本 兼由)

 有価金属の資源は鉱物(第1世代)と廃棄物(第2世代)が利用されるが、希薄であるが有価金属を含有する産業廃液(第2.5世代)や土壌・海水・淡水(第3世代)から資源化する技術はない。これまでの研究から、貴金属をppmオーダーで含有するゲノム編集大腸菌を開発し、ppbオーダー含有培地で増殖させることに成功した。この技術に基づき、未利用のppbオーダー以下の第2.5・3世代資源からppmオーダーで含有する貴金属バイオ細胞鉱を創出させるシステム構築を目指している。

10.「薬剤応答再現性のある3D心臓組織の構築」(生命・金子 智行)

 心臓は血液を他の臓器に送り出す機能を有する重要な器官であるが、心筋細胞シート等の先進医療においても細胞の配置を制御することはできておらず、心臓と同等の機能を有する心臓組織を構築することは困難である。そこで、我々が開発したアガロースマイクロチャンバと1細胞配置技術を用いて、心臓と同等の機能を有する心臓3D構造を作製することにより、機能的にも優れた心臓組織を再構成することを試みている。この再構成した3D心臓組織を用いて、多電極アレイ(MEA)システム上で細胞外電位を計測することにより、薬剤等に対する応答反応を高時間分解能で測定し、心臓と同等の薬剤応答を記録することを目指している。

11.「細菌に感染するウイルスの生存戦略」(生命・佐藤 勉)

 ウイルスはDNAなどの遺伝情報を持つナノ粒子です。ウイルスの感染により、生物個体のみならずそのコミュニティーがダメージを受けます。ポストコロナにおいて、ウイルスの理解の重要性が認識されています。本研究ではウイルスの生存戦略の解明を目指しています。具体的には、1)細菌に感染するファージとよばれるウイルスの宿主細胞への感染メカニズム、2)ウイルスDNAを宿主ゲノムに挿入する溶原化プロセス、3)宿主に潜むウイルス間の相互作用の解析を行います。現在、土壌細菌の一種である枯草菌に感染するファージを環境中からスクリーニングし、研究材料として解析を行っています。

12.「環境ストレス下での光合成装置の制御と安定化の研究」(生命・水澤 直樹)

 光合成生物は、強光、高温、高塩、乾燥など種々の環境ストレスに日々曝されていますが、光合成反応を制御することで、それらの環境に適応すると考えられています。天然の光合成装置の産業応用に際して問題になるのは装置の安定性です。高温などの環境ストレス下で光合成装置の安定性が上がるのであれば、その細胞から単離した光合成装置を用いることにより産業的利用が可能になることが期待されます。本研究では、主に酸素発生型光合成生物のシアノバクテリアを用いて、環境ストレス下での光合成装置の構造と機能の変化を明らかにするとともに、安定性の高い光合成装置の開発を目指します。

  • シアノバクテリアの大量培養の様子とシアノバクテリアの光化学系Ⅱの構造

13.「細菌べん毛モーター回転の安定化機構の研究」(生命・曽和 義幸)

 高効率エネルギー変換能をもつ生物ナノマシンの設計原理を理解することで、持続可能な地球環境の実現に貢献することを目指します。研究対象である細菌べん毛モーターは、多数のタンパク質分子が自己集合して構築される直径50ナノメートルのナノマシンです。このモーターは、高速回転機構、高効率エネルギー変換機構、高速スイッチ機構をもちます。私たちのグループは、新規の回転計測手法を開発してモーターの力学特性を明らかにし、その回転機構の解明を目指します。さらに、モーター構成タンパク質を操作することで、自然界では利用されていないイオンに共役機能を持たせるなどモーターへの新機能付加について探索します。

  • ビーズアッセイによる細菌べん毛モーターの回転計測

14.「マイクロ・ナノ構造制御した環境浄化触媒および高効率エネルギー変換システムの創製」(生命・緒方 啓典)

 本研究では、様々な形態をもつナノカーボン材料をテンプレートとして有機-無機半導体ナノ粒子との複合体をボトムアップ的手法により合成し、エネルギ ー変換材料、環境浄化材料、光触媒材料への応用を目指します。近赤外波長領域から紫外光領域にかけて強い光吸収をもつカーボンナノチューブとウェットプロセスにより作成された構造制御された有機-無機半導体ナノ粒子の複合体を作成し、光触媒材料、エネルギー変換素子への応用に向けた研究を行います。

15.「酸化物・硫化物高機能マイクロ・ナノ構造の3D制御」(生命・石垣 隆正)

 溶液中のプレカーサーをボトムアップするプロセスを高度制御して、3D構造制御した金属酸化物および硫化物のマイクロ~メソ~マクロサイズの粒子及び多孔体を作製し、エネルギー関連材料、環境材料への応用をめざします。ナノサイズ酸化物粒子は、環境低負荷なメカノケミカルプロセスを高度制御して複合化し、光機能の向上を図ります。ナノサイズの硫化物量子ドットとメソ孔を有する酸化物多孔質膜を組み合わせて新規太陽電池へ応用します。また、ミクロンサイズの酸化物微粒子の自己集積ボトムアップと配向粒子成長により疑似単結晶薄膜や高反応性の結晶面を露出した構造体の作製を行い、環境ガスセンサーの高度化に資する研究を行います。

16.「光応答性ソフトマテリアルの開発」(生命・杉山 賢次)

 自己組織化可能な両親媒性ブロックコポリマーに光反応性基を組み込むことで、ナノスケールの構造体を構築する反応型ソフトマテリアルを開発する。さらに、ナノ構造体の選択的分解反応によって形成されるナノサイズの鋳型を用いることで、機能性ナノ粒子の調製を行う。これらのナノ粒子はサイズが均一であることから、導電体と絶縁体がナノレベルで3D積層化された次世代の電子材料開発において、欠陥のない緻密な相構造の構築が期待される。

17.「3D形状合金へのセラミック粒子の積層実装」(生命・明石 孝也)

 セラミック粒子の積層実装の手法として、「ゾル滴下電気泳動堆積法」の新技術を開発し、特許出願しました。本技術は、水との反応で固まる金属アルコキシドを含み、セラミック粒子を分散させた有機溶媒(ゾル)を、電圧を印加したアルコール中に滴下するものです。アルコール中で電圧によってセラミック粒子が合金表面に堆積する過程で、アルコールに含む水と金属アルコキシドとの反応によって粒子堆積層が固まります。これを低温で焼成することによって、粒子堆積層が得られます。実際に、本技術を用いて、摩擦を低減させるために実用されている軸受鋼球に、セラミック粒子層を積層実装させ、軸受用鋼球のステンレス基板に対する摺動性を向上させることに成功しました。
 軸受鋼球表面に形成させたセラミック粒子層(左図:外観、右図:断面電子顕微鏡像)。セラミック粒子層は、酸化セリウム粒子を分散させたイットリア部分安定化ジルコニアで構成されている。
 なお、本研究は2021年度JKA補助事業2021M-214の助成を受けて行われました。

  • 左図:外観 右図:断面電子顕微鏡像

18.「ナノ層間を制御した層状複水酸化物による二酸化炭素の回収」(生命・渡邊 雄二郎)

 粘土鉱物の一種である層状複水酸化物は層間を利用した様々な有害物質の吸着能を有します。特に温室効果ガスである二酸化炭素(炭酸イオン)の選択性が高いことが知られています。これまでに、この特性を生かした二酸化炭素の回収方法に関する研究が多くの研究者によって報告されています。本研究は、層状複水酸化物のナノ構造や層間の陰イオン種を制御し、二酸化炭素の回収に適した層状複水酸化物を合成することを目的とします。

  • 高結晶性塩素型Mg-Al系層状複水酸化物のSEM像とFT-IRスペクトル