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スポーツマネジメントを究めてスポーツの発展に寄与する(スポーツ健康学部スポーツ健康学科 吉田 政幸 准教授)

  • 2021年06月28日
お知らせ

スポーツ健康学部スポーツ健康学科
吉田 政幸 准教授


米国でスポーツマネジメントを学び、現地の学会からリサーチフェロー賞を受賞するなど国際的な評価も得ている吉田政幸准教授。スポーツ観戦がもたらす幸せについて、研究を広げています。

会場でのスポーツ観戦がウェルビーイングを高める

スポーツマネジメントを専門として、スポーツマーケティングやスポーツ消費者行動論についての研究を続けています。現在のテーマは「スポーツ観戦と持続的ウェルビーイング(Well-being)」。その関係性について探究しています。

ウェルビーイングとは、身体的、精神的、社会的に良好な状態を指す概念です。健康であり、気持ちが満たされ、人間関係も良好という具合に、三つの要素の調和が取れている状態です。

スポーツには人を魅了する力があり、多くのファンがいます。それならば、スポーツ観戦でウェルビーイングに貢献できるのではないか。その因果関係を確かめたいと思っています。

日本で人気が高く、観客動員数も多いプロ野球とプロサッカー(Jリーグ)を中心に調査・検証を進めてみると、スポーツ観戦でウェルビーイングを得るには、「現地に行くこと」が重要だと分かりました。

観戦のために球場やスタジアムまで足を運ぶには、時間と労力、エネルギーを費やします。ゲームの臨場感に高揚して声を出したり手をたたいたりと、活動量も多くなります。そうした身体的な刺激が活力を生むのです。さらに、会場には多くの人がいるので、ファン同士の一体感や絆を感じて、社会的なウェルビーイングが向上します。これらの相乗効果が、幸福感を高めると考えています。

コロナ禍の現在は、密閉・密集・密接を回避するため、会場は無観客となり、ネットワークを介したライブストリーミングで試合を見ながら応援するという新しい観戦スタイルが注目されています。しかし、それが定着してしまうことに危惧も感じています。どこにいてもスポーツを見ることができる利便性はありますが、身体的ウェルビーイングの向上という観点では不十分だからです。リモート観戦によって精神的な満足は得られても、スタジアム観戦で得られるような身体的、社会的な満足感には及びません。そうした意味でも、新型コロナの終息を迎え、会場に出掛けてスポーツ観戦を制限なく楽しめる日々が戻ってくることを願っています。

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  • スポーツビジネス海外演習では、本場のプロスポーツビジネスを米国で学ぶため、学生と共にメットライフスタジアムを視察
  • スポーツビジネス海外演習では、自由の女神像を前にして、「自由を生き抜く実践知」の意味を考えて、意見交換している

スポーツとビジネスの調和の取れた均衡を図る

1984年のロサンゼルスオリンピックは「商業五輪」の原点と呼ばれ、スポーツ界にとって大きな転換点となりました。赤字続きだった五輪の運営危機を脱却するため、スポーツがビジネスとして経営される時代に入り、スポーツマネジメントへの関心が集中したのです。専門家の育成と学問体系の整備が急務となり、1985年に北米スポーツマネジメント学会が発足。北米を中心にスポーツマネジメントの研究が盛んになりました。

幕開けの時期を「スポーツマネジメント1・0」とすると、現在は2回目の転機を迎えているといえます。

最初の転機である「スポーツマネジメント2・0」は、スポーツのプロ化が進み、運営資金を獲得するためにスポーツマネジメントにマーケティングの手法が取り入れられるようになった1990年代。日本でもJリーグが創設され、プロスポーツとしてのサッカーに注目が集まりました。

そして、現在は「スポーツマネジメント3・0」、社会変革の時期です。利益を求めるビジネスの論理と、フェアプレーの精神や競技者の人間的成長を重視するスポーツ文化の論理は、相反する面があり、ときに歪みを生じさせます。ビジネスの視点がなければスポーツは発展しませんが、ビジネスに傾き過ぎると、ルールや運営方法が不当に変更され、人々が反発します。そのバランスを見極め、両者を調和することが課題になると考えています。

異質な世界に踏み出して自分を成長させてほしい

研究者として国際基準に達していたいという思いで研究にまい進した甲斐あって、2019年に北米スポーツマネジメント学会のリサーチフェローを受賞することができました。そうして蓄積してきたスポーツの知識、技能、能力。それを「実践知」として、惜しみなく学生に伝えてゆくことで、教育者としても力を尽くしていきたいと考えています。

振り返ってみると、留学生活を経験したことが、私自身の成長にとても役立ったように感じています。世界は広く、多様な価値観や国民性に触れる機会で溢れています。不便や困難を乗り越えることで自身の可能性が高まることもあります。学生には、情勢が落ち着いて自由に海外に行けるようになったら、一度は異質な世界に踏み込んで視野を広げてほしいと願っています。

  • 2019年に開催された、北米スポーツマネジメント学会のリサーチフェロー賞受賞式(前列左から3人目)。受賞を機にジャーナルの編集委員にも選出された

    (初出:広報誌『法政』2021年6・7月号)

法政大学スポーツ健康学部スポーツ健康学科

吉田 政幸 准教授(Yoshida Masayuki)

1979年新潟県生まれ。筑波大学体育専門学群、同大学院修士課程修了。米国フロリダ州立大学スポーツマネジメント学科博士課程修了。博士(スポーツマネジメント)。びわこ成蹊スポーツ大学で専任講師、准教授を経て、2017年から法政大学スポーツ健康学部准教授に着任。Journal of Sport Management編集委員、日本スポーツマネジメント学会理事、ミズノスポーツ振興財団スポーツ学等研究助成・選考委員長などを務めている。