お知らせ

総長から皆さんへ 第5信(5月4日) 電子ブックを楽しむ

  • 2020年05月04日
  • 新入生
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人は生きていく過程でさまざまな出来事に出会います。しばらく前までは、「22歳で就職して25歳で結婚し30歳までに家を建ててそのころには子供が2人いて・・」などと語る男性も女性も珍しくありませんでしたが、ちかごろはそういう言葉も聞かれなくなりました。計画の立てられない時代になったのですね。私自身は十代のころから人生の計画を放棄していましたから何が起こっても驚かないですが、しかし「それにしても、こうなるとは」という出来事が、社会にも自分にも次々と起こります。

そういう時代を生きていくには、あしもとをしっかり見るのがもっとも大切なことです。知的で充実した楽しみは、あしもとにあるのです。私は散歩をしていて知らない道に出会うと、足が自然にそちらに向かってしまいます。「この道はどこへ続くのだろう?何がこの先にあるのだろう?」と、知りたくなってしまいます。好奇心と夢に満ちた懸命な一歩一歩があなたを導くのであって、頭で計画を練ってもそのとおりにはいきません。大学生のとき、目の前に次々と現れる構造主義言語学の本やフランス文学や日本近代文学を読み続けていましたが、ゼミで発表することになった石川淳の全集を古本屋で購入し、それが江戸文学へ私を導いてくれました。思ってもみない展開でした。

いまこのような状況下でも、思ってもみない展開はあり得ます。本の世界は現実よりはるかに広いので、何がひそんでいるか見当もつきません。そこで今回は、お金を使わず外に出なくても触れることのできる本の海を、ほんのちょっと覗いてみませんか? 法政大学図書館の電子ブックの世界です。法政大学では現在、図書館予算の36%が電子ジャーナル、電子ブックなどに使われています。図書館の蔵書は冊子のかたちで約175万冊、雑誌等で約2.2万冊です。雑誌は電子ジャーナルの方が多く、約3万件あります。そして電子ブックが2.8万タイトルに及んでいます。

まず大学のホームページから図書館に入ってください。そこに「2020年度学生向け特設ページ 家で使える図書館サービス」という欄があります。トップページの大きな写真が入れ替わる中に図書館の写真も出てくると思いますが、そこからも直接この欄に入ることができます。そこに入るとまず「Any Connect」という名前のソフトによる「VPN接続」が必要です、とあります。学内にいる時は不要ですが、学外からはこれが、図書館に入るための鍵になるのです。「接続方法はこちらから」というリンクがありますから、それを読んで接続してください。私はPCとIPADの両方にAny Connectを置き、図書館に入るときだけ接続しています。図書館の案内もあります。5分制限の試し読みキャンペーンもしています。しかし5分しか読めないわけではありません。「電子ブックコンテンツ一覧」に入ると、20タイトル表示で3ページ、合計41種のタイトルが並んでいます。そのひとつひとつのタイトルのなかに、膨大な数の本が入っているわけです。

私がとても重宝しているものに「ジャパンナレッジ」というデータベースがあります。何が重宝かというと、ひとつ言葉を入れると、世界大百科事典、日本大百科全書、日本国語大辞典その他、多くの辞典類を串刺しにして検索し、その結果がずらっと並ぶのです。家に百科事典や大きな辞書は要りません。それとは別にブリタニカ・オンラインも入っていますし、各種語学の辞書もそろっています。

電子雑誌や電子ブックはもともと海外の論文や本を読むために導入したものですから、英語の本が多いです。研究書だけでなく、英語、韓国語、中国語の多読多聴のための電子ブックもあります。そのなかで楽しそうなのが、Real reads collectionsです。シェイクスピアやディケンズ、シャーロック・ホームズ・シリーズやギリシャ神話などを英語でイラスト入り64頁に要約してあり、聴くこともできるのです。驚くのは「手塚治虫マンガ電子図書館」です。日本語を含む8か国語で手塚治虫が読めます。日本語の作品数は200作品に及びます。

中学生のときに「理科年表」を眺めていたことがあります。これは大正14年から続いている理科関係のデータ集で、今は写真入りでデジタルでも見られます。「ルーラル電子図書館」というタイトルで入っている農業関係の本や資料もあります。農山漁村文化協会提供のデータベースです。『日本の食生活全集』もあり、さらに動画が400本以上あります。たとえば森林土壌の動画では、土の下に昆虫や微生物がいて、落ち葉を養分にしていく過程などを見せてくれます。5分に満たない短い動画ですが、とてもわかりやすく面白いです。

そして、紀伊国屋書店が提供しているKinoDen、丸善が提供しているMaruzen eBook Libraryには、日本語の本がたくさん入っています。KinoDenからはbREADERCloudという本棚をダウンロードでき、選んだ本をそこに入れて読めます。私は『アルゴリズム図鑑』を楽しみました。

私は移動が多いために電子ブックで本を読むことが習慣になっています。自分のもっている本をBOOKSCANで電子化してクラウドに入れてあるものが約2300冊、電子ブックとして購入してkindleに入れてあるものが約150冊あります。全集は一目でわかるので本棚に並べてありますが、どこにあるかわからなくなる本は電子化して検索で探すのです。自分で所有しなくてもよい電子ブックもたくさんあります。誰にでもアクセスできる自由な電子本を、図書館のようにインターネット上に集め続けている青空文庫や、様々な図書館が提供している電子ブックです。外部の研究機関の中にも多くの電子媒体があり、フルテキストも、絵画資料、写真資料も、見ることができます。

いま、できないことは確かにたくさんありますが、できることの中に、次の一歩がひそんでいるかもしれません。ぜひ、楽しみつつ探してください。

2020年5月4日
法政大学総長  田中優子