経営学部について

経営学と経済学の違い

経営学部について

経営学部で経済学を学ぶこと

法政大学経営学部をはじめ、多くの大学の経営学部や、商学部、法学部など、経済学部以外の社会科学系学部において経済学の授業が提供されています。

私自身は経済学部の出身ですが、これまで一度も「経済学部」で授業を受け持ったことはありません。(ちなみに、私が授業を持ったことがある学部は、他の大学の法学部、商学部、そして法政大学の経営学部です)

試しに「経営学」と「経済学」を辞書を引いてみると、

  • 経営学:企業活動の原理や構造、またその合理的な管理方法などを研究する学問。
  • 経済学:人間社会の経済現象,特に,財貨・サービスの生産・交換・消費の法則を研究する学問。
  • 出所:大辞林(三省堂)

と出てきます。これでは少し抽象的でわかりにくいかもしれません。そこで次に、経済学、経営学の専門家がどのように語っているのかを見てみましょう。

大木 良子准教授

経営学は、「社会、経済、人の心に多大な影響を与えうる、経営という行為とそれを行う個人と組織が、どう変遷し、どう存在し、どう動くかの『普遍的な法則性』を解明するべく、社会科学の一つの分野、『科学』としての議論を重ねている。(琴坂、2018)」

経済学は、「社会がその希少な資源をいかに管理するのかを研究する学問である。(中略)経済学者は、人々がどのように意思決定するのかを研究する。どれだけ働き、何を買い、どれだけ貯蓄し、その貯蓄をどのように投資するのか、といったことを研究するのである。経済学者はまた、人々が互いにどのようにして品物の販売価格や、販売数量を決めるのかを調べるのである。(後略)(マンキュー、2017)」

以上のとおり、経済学は人間社会のすべての経済現象に関心があるため、その分析対象には、経営学の関心対象である「経営」も含まれます。(ちなみに、私の専門分野は経済学の応用分野の1つである、産業組織論ですが、そこでの主な分析対象は企業です。) 経済学は、企業がどのように意思決定をするのか、そしてその決定が経済全体にどのような影響を与えるのかに強い関心があります。そしてそれは、経営学も同じであることが上述の定義から分かります。経営学では、たとえばマーケティングや会計、財務、経営戦略など、ビジネスを構成する主要なトピックに焦点を当てながら、やはり、企業の行動や意思決定のメカニズムを説き明かそうとしています。

そして、経済学は、すべての研究対象に対して、経済学特有のモノの見方を用いて分析します。以下では、伊藤(2012)に基づいて、その最も重要な特徴、「合理的な人間を考える」という点を説明します。経済学では、「人間の行動の背後には何らかの『意図』があると仮定します。いいかえれば、明確な目的を持って、その目的をできる限り達成する選択をしようとする個人を考えるということです。そのような選択は、『合理的(rational)』意思決定と呼ばれます。(中略)『なぜそのような選択をするのかを論理的に説明できる』決定、というくらいの意味です(伊藤、2012)」 人間は、いろいろな制約の下でできる限り合理的であろうとしている、そう経済学は見ています。このようなモノの見方は、経営学だけでなく、その他の社会科学とも異なる、経済学特有のモノの見方、問題への取り組み方(アプローチ)です。

経営学部を選択した方の多くは、間違いなく「経営」に強い関心をお持ちだと思います。経営学部で経済学を学ぶことは、その関心対象にアプローチする方法を1つ増やすことになります。経済学のモノの見方を用いて「経営」を分析した結果は、経営学のモノの見方を用いたときの結果と異なることも、重なることもあるでしょう。1つの分析対象に対して、複数のモノの見方を用いることができれば、より重層的に分析することができるはずです。関心のある相手のことをよく知る方法を1つ増やすこと、これが経営学部で経済学を学ぶ意味だと思います。


参考文献
  • 伊藤秀史 (2012)「ひたすら読むエコノミクス」 有斐閣
  • 琴坂将広 (2018)「経営戦略原論」東洋経済新報社
  • グレゴリー・マンキュー(2013)「マンキュー経済学Ⅰ ミクロ編(第3版)」 (足立、石川、小川、地主、中馬、柳川訳)東洋経済新報社