こんにちは!経営学部広報委員会の西原遼聖(2年)です。今回は、2024年度から経営学部の准教授に着任された魚住智広(うおずみ ともひろ)先生にインタビューさせていただきました。魚住先生はスポーツ社会学がご専門で、スポーツ総合演習などを担当されています。たくさん興味深いお話をお伺いしましたので、ぜひご一読ください。
魚住智広と申します。4月から経営学科に着任しました。3月までは日本女子大学の人間社会学部現代社会学科にいました。北海道の札幌市出身で、札幌で2018年まで過ごしていました。高校3年まではサッカーに打ち込むような生活をしていましたが、高校3年の夏からはいわゆる受験勉強というか、寝る時間以外は勉強という生活をして、北海道大学の教育学部にどうにか入学しました。
教育学部は1学年50人ほどの小さな学部だったのですが、なぜかスポーツ社会学のゼミがあり、そこに入ることになりました。理由は、そのゼミにいた2人の先生が、当時20歳の私からすると、今までの人生で1番尊敬できる人たちだと思えたからです。「スポーツ社会学はすごく面白いし、こういう大人もいるんだな。研究者という道もあるんだな」と思って。もともとは高校の体育の先生になろうと思っていたのですが、ここで研究者になろうと決意して今に至ります。
日本女子大学では任期があるポストだったので、次の大学を探していました。法政大学には来たことがなく、知っている先生もいらっしゃらなかったのですが、当たって砕けろというか、チャレンジ精神込みで応募したという経緯です。学部1年生のスポーツ総合演習や、SSI(スポーツ・サイエンス・インスティテュート)の1年生が主に受講する必修の授業など、実技・講義ともに担当しています。スポーツ社会学が専門の先生があまりいらっしゃらなかったともお聞きしているので、研究面でも貢献できればと考えています。
小学生の頃からずっとサッカーをしていて、サッカーはすごく好きだったのですが、部活動については好きじゃない部分もたくさんありました。たとえば練習に来ていないOBがスタメンを決めたりだとか、先輩が顧問教員と喧嘩して出られるはずの大会に出られなかったりだとか。そういった部活動の理不尽さについては、後付けにはなりますが、当時から考えていたと思います。大学の体育会サッカー部にも入りましたが、そこが自分にとっては部活動の理不尽さや規範性をさらに強く感じる場でした。こうすべきだというルールがあり、でも、なぜそのルールがあるのかは誰も説明ができない。そういった規範的な組織で消耗するのは違うなと感じて、大学1年生の終わりでサッカー部をやめました。これが自分の研究につながっていきます。
その後、大学院に進むのですが、その時には部活動を調査していこうと頭の中で整理ができつつありました。私の調査方法は「フィールドワーク」といって、現場に入り込んでその人たちがどうやって生活しているのか、どうやってスポーツをしているのかというところにすごく関心があるので、どこかフィールドに入りたいと思っていました。
そんな時に、ある大会会場で目にしたのが、試合開始の時点でピッチに11人の選手がいないサッカー部でした。周りで見ている人もざわざわしていたのですが、そのまま試合が始まって、もちろん負けてしまって。そういった高校サッカー部を見て、「これは自分が経験してきた規範的な制度としての部活動とは違ったことをしているかもしれない」と気になって、その高校に調査をさせてもらえないかとお願いをして、結果的にその高校サッカー部のコーチになって3年間調査しました。その高校は少子化地域と呼べるところにあって、私が調査していた3年間で、1学年のクラス数が半分になるなど、急速に規模が縮小してしまった学校でした。そこで「生徒たちはどうやってチームを存続させているんだろう」「彼らはなぜスポーツをしているんだろう」ということを調べ始めていったという経緯です。
インタビュアー)組織論という分野との共通点のようなものもありますか。
私たちが都市に生きていて、その地点から彼らを見た時に、組織が「うまくいく・うまくいかない」とか「うまくマネジメントする・しない」という基準だけで観察してしまうのはすごく都市的で、暴力的な視点だなと感じています。実際、部活動をしている生徒たちはそういった視点で組織をとらえていない部分があって、そのギャップがすごく面白いなと感じています。
また、彼らが戦っているのは部活動の内部の問題だけではありません。組織をうまく運用しようとすると、どうしてもモチベーションを上げるとか、うまくみんなで同じ方向を向くとか、リーダーシップとか、組織の内部ばかりが議論されがちですが、彼らのような組織だと外部の問題も密接に関わってきます。たとえばサッカー部は11人以上の控えの選手もいるのが当たり前で、それを前提に大会の制度などが成り立っています。しかし、その前提を彼らが当てはめられてしまうと、彼らは当たり前に部活動が持っているものを持っていないので、そもそも大会に出られなかったりします。このように内部の問題だけでなくて外部の問題とも、二重に戦わなければならない組織の在り方や実践について検討しています。
「スポーツ×経営」というと、どうしても華やかなイメージがあるかもしれません。プロスポーツクラブの運営とか、スポーツ産業を大きくするとか、多くの人はそういった話をメインに感じるかなと思うのですが、むしろ「スポーツ×経営」の大半は、組織を「どうにかやっていく」とか「やりくりする」とか、そういった部分にあると思います。経営学は素人に等しいですが、既存の視点を相対化するという点においては、「スポーツ×経営」の関わりの中でなにかできるかもしれないと思っているので、自分にとっては新しいチャレンジで、頑張ってみたいと考えています。
(前任校の)日本女子大学は2024年度からトランスジェンダーの学生を受け入れるという方針になっていました。ですが、方針は決まったものの内部の理解は進んでいないなと実感することもあり、このままだとトランスジェンダーの学生が入ってきても、安心して学生生活を送れるかという点がすごく不安でした。そのため2年間ほど、「セクシュアルマイノリティとスポーツ」という観点から資料を整理していました。
私はSSIの授業も持っているので、スポーツに打ち込んできた学生は、競技それだけにフォーカスするのではなく、スポーツがどういった仕組みで成り立ち、どういった世界として動いているのかを知ってほしいです。正しい知識を得ることはすごく重要です。たとえば「セクシュアルマイノリティは病気ではない」というのは正しい知識で、それはある種の規範的な知識ですが、そういった正しい知識を得ることはマイノリティの方々に寄り添うことにもつながります。スポーツに関わっている学生はもちろん、関わっていない学生とも、ぜひ一緒に考えていきたいです。
4月から「DEIセンター」ができたとも聞いています。なにか相談したい学生がいたら、ぜひ利用してください。また、不安なことがあればいつでも私の研究室に来てください。
私はまだ1年生としか接したことがないので、印象は偏っているかもしれませんが、学生たちは、すべて言わなくても、なにを言いたいか分かってくれるような印象があります。なので、私たち教員のほうからも対話をしようと思うし、「対話の姿勢を崩さないようにしよう」と思わせてもらっています。勉強や研究でなくてもよいので、興味があることを見つけて学生生活を楽しんでほしいです。
インタビュアー)1年生は緊張していると感じられますか。
緊張しているとは思います。なので、スポーツ総合演習の中で、みんなでコミュニケーションを取ることは(緊張をほぐすために)すごく良い機会かなと思います。また、スポーツが苦手な学生や、大学に入ってまでスポーツをやりたくない学生もスポーツ総合演習を受講するので、なぜ大学に入ってまでわざわざスポーツに触れなければならないのかを議論して、それを踏まえてスポーツを批判的に検討して、という過程から目を背けないようにしようと考えています。
勉強や研究に限らず、本でも小説でも漫画でも映画でも、自分が面白いと思うものを探してほしいです。「良い・悪い」、「すべき・すべきではない」と言うのはすごく簡単で、規範的で、誰にでもできますが、なにが面白いかを説明することはすごく難しくて、歴史を知らなきゃいけないし、自分自身の熱量もなきゃいけない。コンテンツはなんでも構わないので、それができるようになってほしいです。なぜ面白いのかを説明できるということは、面白いものを作ることができるということだと思うので、あとは、それを共にできる友人が経営学部にいたら、より素敵な学生生活になると思います。
インタビューは以上となります。お忙しい中、インタビューに快くお答えいただきありがとうございました。
私はスポーツがもともと苦手で、経営とのかかわりについてもしっかりと理解できない中で、わかりやすく丁寧にご回答いただき、大変参考になりました。経営学部生としては組織のマネジメントということを考えてしまいますが、少子化地域の部活動と、都市に生きる私たちでは、大きく考え方が違うことを改めて認識しました。
また、ジェンダーに関する研究は身近なものでしたし、スポーツの場に限らず考えて行かなければならないなと感じました。私も正しい知識を身につけて、周りの人が安心できるように努めて行きたいと思います。
取材・文責:西原遼聖(経営学部2年)