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卒業生インタビュー:WFP国連世界食糧計画スーダン事務所 ジェンダー・受益者保護官 並木 愛さん

  • 2023年01月19日
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プロフィール

並木 愛(Namiki Ai)さん

1989年千葉県生まれ。2008年法学部国際政治学科に入学。2011年から1年間ヴェネツィア大学に派遣留学。2013年卒業後、ロンドン大学政治経済学院に留学。2014年デロイトトーマツコンサルティング株式会社(当時)入社。外務省の平和構築人材育成事業の海外実務研修でWFP国連世界食糧計画(国連WFP)のジンバブエ事務所で勤務。外務省のJPO派遣制度で同ルワンダ事務所に勤務。その後、同スーダン事務所に勤務、2022年11月からは正規職員として働く。

多様な価値観に触れ、固定観念を崩すと見えていない選択肢に気付ける

学生時代に経験した被災地ボランティアとモロッコでのホームステイをきっかけに、人道支援に携わろうと決意し、大学院とコンサルティング会社勤務を経て国連WFPの職員となった並木愛さん。多様な価値観に触れて固定観念を崩していけば、選択肢は広がっていくと言います。

アフリカのスーダンで1000万人に食料を支援

WFP国連世界食糧計画(国連WFP)のスーダン事務所で、十分な食料を得られないスーダン人、国内避難民と隣接国からの難民の1000万人を対象に食料支援活動をしています。配給所で障害者や高齢者のための列があるかなどをモニタリングし、女性や子ども、障害者など「声の小さな人」へ確実に食料が届くようにするのが、ジェンダー・受益者保護官の役目です。

スーダンの面積は日本の約5倍もあり、普段は首都ハルツームの事務所で、20ある支部の担当者からのリクエストに対応したりサポートに当たったりしていますが、やはり大切なのは現場の声。隔月で1週間ほど各地の難民キャンプなどに出向き、直接声を聞いてニーズや状況を確認しています。

国連WFPの支援には「傷口にばんそうこうを貼って終わり」という声もありますが、食料配布以外の支援もしています。例えば小規模農家には穀物の保存設備や輸送手段がなく、収穫後に廃棄されるポストハーベスト・ロスが生じています。そこで国連WFPが農村で保存設備を整備したり、農家を民間の買い手や金融業者などとつないだりすることで、このロスを削減すると同時に、現地の自立を促しています。

明るく前向きなスーダンの人々に囲まれて(前列右から2人目が並木さん)

明るく前向きなスーダンの人々に囲まれて(前列右から2人目が並木さん)

自分のさまざまな面があらわになった大学時代

高校生のときに、イタリアで世界遺産の保護について学びたいと考え、派遣留学先にイタリアの大学がある法政大学に進学しました。

入学後はサイクリング同好会に入り、2週間のツーリングを重ねるうちに、思ったより野生的で、人と触れ合うのが好きな自分を発見。同時に、幼い頃からの異文化への好奇心が膨らんで、インドやタンザニアにも行きました。電気やガスがなくても幸せに暮らしている、そうした自分とは異なる文化や価値観を持つ人に出会うとワクワクし、自分の中の固定観念が徐々に崩れていったのです。

また学生時代には、進路に影響を及ぼす出来事が二つありました。一つは、東日本大震災のボランティア活動です。避難者のニーズ調査を担当し、500人の大半が自分に関することをリクエストする中で、自分のことではなく、受験生の娘のために「デスクライト」をリクエストした方がいたのです。これが、現地の声に耳を傾け、人々が尊厳を取り戻す手助けをしたいという私の原体験となりました。

ルワンダの小学校で。現場ではふがいなさを感じることも多いが、子どもたちの笑顔に元気をもらっている

ルワンダの小学校で。現場ではふがいなさを感じることも多いが、子どもたちの笑顔に元気をもらっている

もう一つはイタリア留学中に訪れたモロッコでのホームステイです。貧しい暮らしにもかかわらず、温かくもてなしていただき、世界遺産の建物や風景よりも、人々の生活や命を守る仕事がしたいと考えが変わりました。

卒業後すぐに人道支援の仕事に就くことも考えましたが、「現場で動くだけでなく、体系的な勉強も必要」というアドバイスを受けて、ロンドンの大学院に進学。帰国後は、問題解決のスキルを身に付けるために、コンサルティング会社に就職しました。

干ばつ、政情不安にウクライナ紛争が追い打ち

その後、国連ボランティアなどの任期付き派遣を経て、国連WFPの正規職員になりました。国連WFPは、国連の機関には珍しく、現場主導で動く巨大なベンチャー企業のような組織で、ボトムアップ、結果主義の風土が私にとても合っています。

国連WFPは2020年にノーベル平和賞を受賞しましたが、活動している120の国と地域の大半が資金難という大きな課題を抱えています。スーダンでも、気候変動による水害、政情不安や高いインフレ率などによって支援を必要とする人が増える一方で、ウクライナ紛争の影響で食料価格が高騰し、必要量の食料を入手できなくなりました。2022年の7月には難民55万人への食料配給を規定量の50%に削減することになり、本当に歯がゆい思いをしています。私たちも、少しでも量を増やそうと資金集めに奔走していますが、国連WFPの支援が追いつかないほど深刻な状況にあることを、ぜひ皆さんにも知っていただきたいです。

選択肢があるのは幸せ自分らしく生きてほしい

世界には、自分で意思決定のできない境遇にある人が大勢いますが、日本の大学で学んだ皆さんなら、多くの機会や選択肢を手にしているはずです。ただし、行動範囲が狭かったり、固定観念にとらわれていたりすると、その一部しか目に入りません。

ぜひ、卒業生や興味のある人などにどんどん話を聞いて、足を動かしとことん考えて、視野や考え方を広げてください。きっと、それまで見えていなかった選択肢や自分の気持ちに気付けることでしょう。また、周囲の期待や反応を気にしすぎず、自分の心に従うことも大切だと思います。一度きりの自分の人生なのですから。

これからも、「声の小さな人」、現地の声に耳を傾けて支援活動に励み、将来は所属する組織の形式や大小を問わず、自分が納得できる形で社会にインパクトを与えられたら何よりです。

 

(初出:広報誌『法政』2023年1・2月号)