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卒業生インタビュー:オツモ株式会社代表取締役社長COO 松沼 礼さん

  • 2022年12月01日
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プロフィール

松沼 礼(Matsunuma Rei)さん

1978年パリ生まれ。法政大学第一中学校・高等学校を経て、1997年法学部法律学科入学。2001年に卒業後、2004年株式会社ユニクロにグラフィックデザイナーとして入社。UTコラボレーション事業推進部、グローバルマーケティング部の部長を務める。2021年7月オツモ株式会社の取締役COO、2022年9月代表取締役社長COOに就任。

カルチャーとの接点を提供し、日々の生活を楽しく、豊かなものに

学生時代、アルバイト先の洋服店でアートをはじめとするカルチャーへの興味を深め、ユニクロではアート作品をモチーフにしたTシャツ「UT」を担当した松沼礼さん。経営者となった今、カルチャーから受けた恩恵を、カルチャーを通して次世代に渡していきたいと言います。

生活を豊かにする製品を日本から世界へ発信

世界的なデザイナーのNIGO®氏がデザイナーを務めるライフスタイルブランド「 HUMANMADE ヒューマンメイド 」を運営するオツモの代表取締役社長を務めています。実店舗もありますが、オンラインストアでの販売が中心で、60カ国以上の方にご利用いただいています。経営者の主な仕事は意思決定で、企画から製作、マーケティング、PR、販売まで、自ら足を運んで関係者と話をして、決定しています。

オツモは「ストリートから、地球生活を面白く。」をビジョンに掲げています。独自の感性から生まれるストリートカルチャーと、日本のものづくり、異文化を融合させる能力をミックスすれば、面白い化学反応が起こる。そうした製品を通じて、より楽しく豊かな生活を送ってもらいたいと考えています。そのために意思決定で重視しているのは「お客さまがワクワクするか」という顧客視点。ビジネスである以上、利益とのバランスも考えますが、成果は後から付いてくるような気がします。

オツモの社員集会の様子(左から2人目が松沼さん)

オツモの社員集会の様子(左から2人目が松沼さん)

海外旅行とアルバイトで視野を広げた学生時代

法政大学第一中学校・高等学校(当時)は、のんびりした校風が私にとても合っていました。人をワクワクさせたいという気持ちはこの頃から強く、生徒会長を務め、文化祭では毎年率先して企画を練っていました。

大学は法学部に進学しました。まだインターネットがなく、海外の情報を今のように簡単には入手できない時代。世界を見たい、知りたいの一心で、アルバイトでお金を貯めては、長期休みにバックパッカーとして東南アジアやヨーロッパ、北米を回りました。

米国ニューオーリンズでは、有名なカーニバルの最中でホテルが全て満室のため、河原で野宿をすることに。寒さに震えていたところ、通りかかった宣教師の一団にりんごと毛布をもらい、命拾いをしました。人や文化の多様性を肌で感じ、困難な状況にも動じないサバイバル精神が身に付いた気がします。

アルバイトをしていた原宿の洋服店は、関係者にアートや音楽に通じた人が多く、カルチャーへの興味が深まりました。そこで得られる刺激や充実感がとても大きく、その時点では就職活動をする意味が見いだせなくて、卒業後もそのアルバイトを続けました。

アーティストKAWS(カウズ)とコラボレー ションしたUTは大きな話題となり、ユニク ロのニューヨーク店では発売日に行列がで きた(2016年6月)

アーティストKAWS(カウズ)とコラボレー ションしたUTは大きな話題となり、ユニク ロのニューヨーク店では発売日に行列がで きた(2016年6月)

ユニクロの17年間で柳井社長に多くを学ぶ

それでも、2年もたつと将来への不安や焦りを感じるようになり、定職に就こうと考え、幸いにもユニクロに入社することができました。17年間、柳井正社長と一緒に仕事ができたのは、何ものにも代えがたい経験です。

私を大きく成長させてくれたのが、著名なアーティストの作品をモチーフにしたTシャツ「UT」です。特に若い世代がアートに触れるきっかけをつくろうというプロジェクトで、自分の興味や経験と重なる部分が多く、夢中になって取り組みました。

そして、思いを言葉にして伝え、周囲を引き寄せていく柳井社長は、私にとって究極のロールモデルとなりました。デジタルマーケティングや海外出店など経営寄りの仕事を手掛けるうちに、デザインに限らず、ビジネスも価値を生み出すクリエイティブな活動であり、その意味で経営者もクリエイターだと考えるようになったのです。

大学・アルバイト時代が私の人生の第1章とすれば、ユニクロ時代は第2章。いつかは自分も経営者というクリエイターになりたいという思いを実現させるため、オツモという新たな環境で第3章へ進む決心をしました。

ペイフォワードの精神で好循環を生み出したい

バックパッカー時代、食事をおごってくれた人、手を差し伸べてくれた人によく「 Pay it Forward ペイフォワード 」と言われました。恩をもらった人に返すのではなく、別の誰かに渡すという意味で、私も今や渡す側になりました。

カルチャーのある生活は心に余裕をもたらし、人生の奥行きを深める。そうしたユニクロ時代の体験をベースに、製品を通じて若い世代にカルチャーとの接点を提供し、その裾野を広げようとしています。20年後、彼らが渡す側になってくれれば何よりです。

皆さんもぜひ学生のうちに広い世界に出ていって、多くの人に話を聞き、さまざまな経験をしてください。足で稼ぐという時代ではないかもしれませんが、損得を考えずに行動できるのは若い人の特権だと思います。

そして、目標とするロールモデルを見つけることをお勧めします。著名人である必要はなく、身近な友人や先輩でもいいのです。仕事の進め方はこの人、人望を得る点ではあの人と複数のモデルを持つと、具体的に行動しやすくなるでしょう。

私の人生第3章の目標は、多くの人に「関わることができてよかった」と思ってもらうことです。そのためにも、「地球生活」を送る一人として、心の若さを持ち続け、仕事も人生も楽しみたいと思います。

 

(初出:広報誌『法政』2022年11・12月号)