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歴史に刻まれた人間模様から米国を対象化して考察(法学部政治学科 中野 勝郎 教授)

  • 2020年11月27日
お知らせ

法学部政治学科  
中野 勝郎 教授


日本での明治維新との類似性に興味を覚え、建国期を中心に米国の政治史を究める中野勝郎教授。「過去との対話」を通じて歴史をひもとき、人間を理解する手掛かりを見いだしています。

建国期の米国と幕末の日本との歴史的類似

米国の政治史、特に英国の統治から独立した建国期に焦点をあてて、研究しています。建国に尽力した政治家で、私が着目したのはアレグザンダー・ハミルトン。合衆国憲法の批准を唱え、初代財務長官を務めながらも、独立宣言を起草して脚光を浴びたトーマス・ジェファーソンの影に隠れてしまった人物です。政治家としての立ち位置や建国時の働きぶりが、明治維新での大久保利通と相通じるように思えて、探求心がくすぐられたのです。

米国は、多くの移民によって成立した多民族国家です。国民の多くが自分のルーツを米国に持たず、アイデンティティーを示すために「米国人とは何か」と自問し続けるという一種の強迫観念を抱えています。国家としての主義・思想への同調圧力も強く「米国の民主主義(デモクラシー)こそ正義」という思いから、共産主義や社会主義の思想を持つ人に対して反発し、他の国にも米国民主主義の影響力を働かせようとしてきました。

そうした米国の振る舞いに対して、多くの先進国では、自国の文化を守ろうと反米感情が生じるのですが、日本では違いました。敗戦の遺恨を引きずることもなく、米国発祥の文化も積極的に取り入れてしまう。世界的に見れば、極めて異例の存在です。

では日本人は米国のことを正しく理解しているのだろうかと考えると、疑問が生じます。日本国内には、沖縄の米軍基地を筆頭に、深刻な対米問題を抱えている事例があります。米国研究者にとっても、予想外の人物が米国大統領として選出されたことから、これまでデモクラシーの模範国として積み上げてきた認識を見直す必要に迫られています。

歴史を見る眼は、自然科学のように普遍的ではないので、常に自分の視点を疑いながら、客観性を意識して物事を見るように努めるしかありません。現実から目を背けることなく、いま起こっていることへの意味を考え続けていきたいと思っています。

異質なものとの交流が新しい知見につながる刺激に

政治学の研究には、大きく分けて二つのカテゴリーがあります。一つは、哲学や歴史、思想的な観点から政治を考察しようという「ポリティクス」。もう一つは、データや数字に基づいて科学的に分析しようとする「ポリティカル・サイエンス」です。法政には、私の研究スタイルであるポリティクスを尊重してくださる先生方が多く、その環境に感謝しています。

ただ、新しい知見を生むには、居心地のいい環境に甘んじるのではなく、異質なものに触れて刺激を受けることも必要です。東京という地の利を生かして、学外の相手とも意識的に交流するようにしています。

そうした学外交流が、思わぬ出会いを生むこともあります。国際交流基金が主催した日米学生交流プロジェクト「KAKEHASHI Project│The Bridge for Tomorrow│(通称、架け橋プロジェクト)」が始動し、2014年11月には法政大学を含む、計6大学150人の学生らが米国を訪れました。引率として付き添った私は、当時東京藝術大学から参加していた能楽師の大学院生と親しくなり、その縁で、趣味として能楽を学ぶようになりました。この時出会った大学院生が現在の私の師匠です。

法政大学には野上記念法政大学能楽研究所があり、能楽賞なども実施しています。いつか法政大学の能楽堂で能を舞う師匠の姿が見たい―。そんなことを夢見ています。

  • 写真1

  • 写真2

  • 写真1:架け橋プロジェクトではニューヨーク州ウェストポイントを訪問。先に本学を訪れた米国陸軍士官学校の学生との再会も果たした
  • 写真2:能の稽古は4年間続けている。写真は、発表会で猩々(しょうじょう)の舞を披露した際の1枚

過去からヒントを得た実践知が未来の備えになる

政治学は、実用的な生活スキルにはなりませんが、蓄積されてきた知見を基に「人間が持つ、さまざまな属性を理解すること」に役立ちます。

人を束ね、社会を動かすような力を得るにはどうしたらよいのか。人間はどのようなときに動き、どのようなことが足かせとなって、動きを止めるのか。史実を丁寧に読み解くと、人間が行動する動機を理解する手掛かりが得られます。利益や権力欲は人を動かす原動力になるけれど持続性に欠けます。社会の営みを継続させるには、達成することに意味があると思える「共通理念」が必要なのだと分かります。

人間とは何かを問う考察は、現実の人間関係においても生かされ、実践的な知恵になります。過去の探求から得た知見は、まだ見ぬ未来への備えにもなるのです。

史実から得た手掛かりをヒントに、考察と実践を地道に繰り返す。そうした試行錯誤の末に手にした、次の未来への備えとなる知見も「実践知」なのだと考えています。

  • 歴史から得た考察を現実に生かすため、対米問題に直面している人からの話を聴くフィールドワークも大切にしている。ゼミ合宿では沖縄を訪問

(初出:広報誌『法政』2020年11・12月号)

法政大学法学部政治学科  

中野 勝郎 教授(Nakano Katsuro)

1958年鹿児島県生まれ。立教大学法学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科政治学博士後期課程満期退学。博士(法学)。北海道大学法学部助教授、同教授などを経て、2000年法学部政治学科教授に着任。現在に至る。2020年から法学部学部長を務める。