現下のコロナ禍では、当初より雇用維持策(その典型は雇用調整助成金の特例措置)が大規模に発動されて来たが、次第にそれらが経済にとっての最適な労働移動を阻害しているのではないかとの懸念が高まりつつある。そこで、雇用維持策に代わって注目されているのが、職業訓練等の「教育」を通じた就労支援である。このように就業への橋渡しとなる「教育」が、セーフティネットとして期待される場面が多くなっている。しかしながら、そのような期待とは裏腹に、わが国において「教育」が直接的なセーフティネットとして機能するかどうかは、研究蓄積も少なく、甚だ未知数と言える。むしろ、かねてから指摘されて来たように、「教育」が格差を助長する可能性もある。「教育」がセーフティネットとして機能する条件はどのようなものなのだろうか。
わが国の教育システムが果たしている機能を巡っては、これまでも経済学による分析が幅広く行われて来た。しかしながら、十分に光が当てられていないテーマもいまだに多く残されている。そこで本研究は、セーフティネットという観点から、教育制度においてこれまで見過ごされがちだった領域に焦点を当て、実証的な分析をおこなうことを目的とする。具体的には、公共の職業訓練や短期大学が果たして来た役割等を取り上げて、諸外国との比較もおこないながら分析する。また一方で、格差を拡大(あるいは固定化)させる要因として、首都圏における中学受験についても取り上げ、中等教育レベルで生じている教育の現状についても明らかにする。
「工芸品」は、幕末から昭和にかけて、
The impact of uncertainty on firms’ investment has been discussed for quite a long time. However, most of the existing studies focus on firms’ investment in the domestic market, and there is still insufficient evidence on how uncertainty affects multinational firms’ behavior or foreign direct investment (FDI hereafter), let alone the within-firm adjustment mechanism after the uncertainty shock, mainly due to data constraint.
Under such circumstance, it is natural to ask the following research questions: how is FDI affected by the macroeconomic uncertainty in the destination market, and through what kind of channels do multinational enterprises make subsequent adjustments?
Accordingly, the main objective of this study is to make clear the mechanism of how Japanese multinational firms respond to heterogeneous types of uncertainty in the destination market. I will investigate how the interactions between parent firms and their oversea affiliates evolve in response to the uncertainty shock, and potential channels of adjustment will be differentiated
東アジアにおいてここ数十年興味深い貿易構造が形成されている。とりわけその中において域内貿易が貿易全体の半数以上を占めており、その域内貿易において中間財が主要な部分を占めている。一方、域外との貿易では最終財がより大きな存在となっている。本研究の目的は、このような貿易構造が東アジア各国間において経済相互依存や地域経済全体のダイナミズムとどのように関係しているかを国際マクロ経済的視点から分析することである。
本研究ではバブル崩壊以降の経済成長率の鈍化に伴う短期金利のゼロ下限への低下と政府債務残高の過剰な蓄積が日本経済に及ぼした影響を、マクロ経済分析の枠組みのもとで理論的かつ実証的に解明することを目的としている。より具体的には、金融政策ルールにおける構造変化や政府債務残高の過剰蓄積が財政政策の効果に与える影響に関する非線形性などに注目し、各種のマクロ経済政策が日本の財市場・金融市場・労働市場に及ぼす影響を定性分析と定量分析の両面から明らかにする。ここでは、もちろん海外経済の変動が日本経済に重大な影響を及ぼしている事実も考慮して国際金融市場及び輸出入も分析の対象である。また、データを用いた実証的な分析に加えて、日本経済を描写する理論モデルを構築してその構造パラメータを推計することで、経済構造を明らかにすると同時に望ましい経済政策の在り方を議論するといった規範的な分析を行うことが本研究の最大の目的である。
多角的貿易体制の重要性は、安全保障の問題や地球環境問題の対策の観点からも高まっている。また、自由貿易協定の増加に伴う貿易コストの低下は、国境を越えた経済活動の進展を促し、財・サービスの供給パターンの多様化をもたらしている。アジア地域におけるグローバルバリューチェーンの展開からの国際経済を通じた成長は、新しい国際問題に対処する必要性を明らかにしている。今日多くの国が地域経済協定を締結し、国際的な知的財産権の取引や提携(アライアンス)、直接投資や国際M&Aといった経済活動に影響をもたらしている。イノベーションの促進や経営資源の効率的な移転を通じ、企業の成長に直接的に影響を与えると考えられるため、国際取引による結びつきはアジアにおいては重要である。従って、多様な供給パターンの原因を把握し、適切な知的財産取引、金融、コーポレートガバナンスや市場構造に関する国内制度(知的財産権法、会社法、独占禁止法等)を構築する事は、円滑な市場取引の構築という効率性の達成のみならず、高付加価値産業の育成というアジア地域の経済発展に主要な役割を果たす。本研究では、市場環境が国内制度の変化に対応し変容するとの認識の下、多角的貿易制度の下で、国内制度と国際協力の相互依存状態での市場構造を分析する。国内制度の特殊性、普遍性を明らかにし、国際制度設計に対してのインプリケーションを導き出す。
本研究では、公共財が自発的に供給される経済において、経済主体間の交渉が果たす役割について考察する。 そのため、非協力ゲーム理論、協力ゲーム理論、戦略的協力ゲーム理論等、ゲーム理論の手法を幅広く応用して、 理論的な分析モデルを構築するとともに、国際環境問題の解決等の応用問題において、交渉が果たす役割を明ら かにする。古くから、公共財供給においては、資源配分のパレート非効率性が問題となることが知られているた め、本研究では、この問題が、自発的な交渉によって、どの程度解消可能であるのか、を検証し、よりパレート 優位な資源配分の実現を目指した交渉メカニズムを設計することも視野に入れる。
本研究の目的は, 財政政策および金融政策が日本経済にどのような影響を与えるかをヘテロ経済モデルを用いて定量的に分析することである。本研究では, こうした学術的な流れに沿った上で, 金融政策および財政政策が日本のマクロ経済に与える影響を, 所得分布および資産分布の側面に注意しながら, 定量的に評価していく. 具体的には以下の4つ点: ラッファー曲線, 課税所得弾力性 (Elasticity of Taxable Income, ETI), ファイナンシャルアクセラレータ, 物価水準の財政理論 (Fiscal Theory of the Price Level, FTPL) に着目し, それぞれ研究成果をまとめて査読付き学術誌に掲載することを目的とする。
本研究では,人々が家族内で生前贈与や遺産等の世代間資産移転を行う動機(遺産動機)と,贈与・相続税制が資産移転や消費・貯蓄行動及び労働供給に与える影響を明らかにすることに取り組む。近年,高齢者に遍在する資産の移転を促すために,相続税の基礎控除額の引き下げや,祖父母や両親から子や孫への教育資金の贈与に対する非課税措置等がとられている。これらの政策には消費を刺激する効果もあるかもしれないが,より裕福な世帯で資産移転が起こることによる教育格差の拡大や,一世代を飛び越した(祖父母から孫への)贈与を認めることによる租税回避の増加等の問題点も指摘されている。このような問題意識に基づき,世代間資産移転に対する政策の効果を,効率性と公平性(格差)の観点から世帯や個人レベルの個票データを用いて明らかにすることが本研究の目的である。
90年代以降、技術革新やグローバル化などで日本企業は事業再編を迫られてきた。2000年以降、日立製作所は川村改革、ソニーは平井改革を断行し、経営改革をやり遂げた。また、海外から資本と経営者を受け入れた日産のゴーン改革と鴻海傘下でのシャープの再建なども挙げられる。他方、パナソニック、東芝など多くの企業が未だに再建途上である。抜本的な事業再編の必要性を正しく認識していれば、リストラに伴う大赤字の覚悟は経営者予想などに反映されるはずである。本研究の目的は、行動コーポレートファイナンスの視点から、抜本的な事業再編の必要性よりも、過去の成功にこだわって衰退事業の復活を信じる甘い見通し、すなわち、経営者行動バイアスと日本経済の長期停滞との関連を検証し、経営者行動バイアスの是正を考慮した事業再編を促す企業統治をどのように構築できるかについて分析を試みる。
サイエンス・イノベーションかつプロセス・イノベーションという,当該技術が既存産業にもたらす効果や経済成長への効果に関する考察を進めることで,研究開発投資がもたらす社会的果実についての総合的評価や,第四次産業革命,industry4.0,グリーンエネルギー革命など現代における新たな潮流に対する経済効果について地理や空間の視点より包括的な評価を行う。
少子高齢化の進展に伴う社会保障費の膨張や恒常化する財政赤字により日本の公的債務残高(対GDP)は急増し、社会保障費の削減や増税を含め様々な改革が提案されているものの、財政・社会保障改革や世代間格差の是正は容易に進捗しない。この理由の一つとして、多数派の高齢者層などに配慮した政策を政治が優先的に選択するという「シルバー民主主義仮説」も深く関係する可能性が指摘されているが、様々な視点から、民主主義の根幹である選挙制度や財政統制のあり方を含め、人口動態変化に適合した財政・社会保障の仕組みを検討する必要がある。また、東アジアを含む諸外国においても急激な人口動態変化が予測される国々もあり、それが各国の経済財政や政治に大きな影響を及ぼす可能性も否定できない。そこで、本研究プロジェクトでは、人口動態変化と財政・社会保障の制度設計というテーマで、「シルバー民主主義仮説」の検証や、選挙制度や財政統制の改革の方向性を含め、実証経済学や理論経済学の両面から研究を行う。その際、日本のみでなく、諸外国の課題や動向も念頭に置き、研究を進める。
「失われた20年」といわれた日本経済の低迷の主要因は、日本企業の競争力の低下である。直接投資による海外進出の成功により、さらに競争力を高めていく企業がある一方、M&Aに失敗して買収した企業を売却したり、現地生産から撤退したりして、逆に競争力を落としてしまう企業もある。利益を上げて企業の競争力を高める直接投資と、失敗して撤退し企業の競争力を損なう直接投資の差はどこにあるのであろうか。本研究の核心をなす学術的な問いは、国際競争力を高めるための企業の投資戦略はどのようなものかを解明することである。
本研究では、近年の貿易論で注目されている「企業の異質性」が海外進出パターンに与える影響・効果の分析に、企業の投資戦略タイプという視点を導入する。各企業は、主力とする製品の特徴や市場環境などにより、異なる投資戦略をとっており、それに適合した直接投資を行うことで、より高収益をもたらし競争力を高めることが期待される。本研究では、戦略不全に陥っている受身型企業を分析対象に含めて、その投資戦略の特徴と直接投資パターンを調べ、企業の競争力にどのようにつながっていくかを分析する。
農業環境政策は日本でも整備されつつあるが、農業生産において環境配慮が主流化したという状況には程遠い。本研究では、農業分野の環境保全の体制を農業環境ガバナンスという概念でとらえ、その日本と欧州との比較を通して、農業部門の環境保全において、環境NGOを含めた協働的なガバナンスを日本で実現するための実践的手法や政策・制度は何か、という問いに答えることを課題とする。