企業の温室効果ガス排出量を把握する試みについて調査する。こうした試みは炭素会計(Carbon Accounting)と呼称され、伝統的な会計や情報開示の知見を援用しながら、欧州、特に日英仏蘭で、研究と実践が積み重ねられている。
気候変動という世界的課題に対処するため、企業には脱炭素の取り組みが強く求められてきたが、2015年のTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)、2022年のISSB(国際サステナビリティ基準)など、この動きは世界的な開示規制という形で加速している。他方で日本は基本的に自主開示という形で対応している。各社は、GHGプロトコルという温室効果ガス把握のガイダンスに基づいて、スコープ1(直接排出)、スコープ2(間接排出)、スコープ3(バリューチェーン全体の排出)というフレームワークを用いて排出データの測定と管理を進めている。
本研究は、日欧(特に、政治的に主導した英仏、慎重ながらも精緻な制度化を進める独、独自路線を行く蘭)の炭素会計の制度や計算方法、開示例を比較し、課題と示唆を示すことを目的とする。具体的な論点は以下の4点である。
① 日欧のスコープ1・2・3の測定実態を比較する。特にスコープ3における測定の手法や課題の相違点に着目する。文献調査のほか、両地域で活動する測定コンサル企業や専門機関へのヒアリングを実施する。
② 座礁資産(低炭素社会への移行により価値が毀損する可能性のある資産。化石燃料系設備など)への対応戦略を日欧で比較する。
③ 炭素会計情報の保証手法を詳細に調査し、日本の監査・保証基準や報告慣行の違いを検討する。
④ 情報の利用者として、日欧の機関投資家の低炭素型投資の取組状況を調査する。株価や財務情報と組み合わせた実証分析を行い、炭素会計情報が投資意思決定に与える影響を評価する。
19世紀後半から20世紀前半にかけて、工芸品とテロワール産品が輸出品におけるジャンルとして成立した。その際、各地の産品がとらえなおされ、世界市場にむけて汎用性をもちながらも、「それにしかない個性(サンギュラリテ)」をもつものとして提示されていった。この過程は、工業化が進んでいた地域も、新たに進めようとする地域も、また植民地化されていく地域も巻き込んで、同時多発的に、かつ、互いが交流しあいながら進行した。19世紀後半は、国際貿易が拡大したことでグローバルな商品連鎖が成立し、一次産品(原料)と二次産品(製造品)の供給地域が特定されていく時期として位置づけられてきた。これに対して、「工芸品」というジャンルの形成は、多彩な地域の思惑が交錯して、グローバルとリージョナルとローカルなどの様々なレベルで、場の再編成と文脈づけが行われた。
輸出工芸品の場と文脈の成立には、工業と芸術とクラフト(技芸)をどう区分していくか、農業と工業など各産業間をどう橋渡しするのか、ローカルな伝統的な技術を新市場に適応させどのように編集していくのかという、経済にとどまらない、思想、技術、文化全般にわたる問題が絡む。本研究では、経済学・美術史・思想史・文化史・文化人類学との学際的な分析を行い、広い視点から輸出工芸品を読み解く。それを通じて、このプロジェクトでは、1850~1930年代までの工芸品をめぐる場と文脈の形成をとらえ、経済・文化・思想を横断してとらえる「工芸品史」を提案し、モノ(製品・商品)視点の世界経済史という新たな視角を提示する。
本研究は,反政府武装組織に対する諸政策が,組織の活動(攻撃頻度・攻撃形態・地理的分布・生存確率)に及ぼす影響を定量的に明らかにすることを目的とする。反政府武装組織の指導者に対する標的攻撃,「テロ指定リスト」による組織の違法化など,様々な対反乱政策について,過去10年間にわたって多くの研究結果が蓄積されてきた。一方で,既存研究における影響評価の分析は,それぞれ対象範囲・時期が異なるのに加え,特定の政策のみに焦点が当てられ,同時並行的に実施される他の対反乱政策の影響は十分に考慮されていない。本研究では,対反乱政策を政治的,法的,軍事的アプローチに分類した上で個々の政策についてデータ化し,各国・国際機関が実施する諸政策を網羅的に把握することで,従来よりも厳密な政策効果の検証を試みる。分析を通して,将来的な対反乱政策の選択・実行に対して有益な科学的エビデンスを提供することを目的とする。
職業訓練を通じた就労支援等,就業への橋渡しとなる教育施策が,雇用のセーフティネットの一つとして期待される場面が多くなっている.しかしながら,そのような期待とは裏腹に,職業につながる教育を巡っては,十分に研究がされていない側面もいまだに多く残されている.そこで本研究は,セーフティネットという観点から,教育制度においてこれまで見過ごされがちだった領域に焦点を当て,実証的な分析をおこなうことを目的とする.具体的には,公共の職業訓練や短期大学が果たして来た役割等を取り上げて,諸外国との比較もおこないながら分析する.また一方で,格差を拡大(あるいは固定化)させる要因として,中等教育レベルや高等教育レベルで生じている変化等についても言及する.
The impact of uncertainty on firms’ investment has been discussed for quite a long time. However, most of the existing studies focus on firms’ investment in the domestic market, and there is still insufficient evidence on how uncertainty affects multinational firms’ behavior or foreign direct investment (FDI hereafter), let alone the within-firm adjustment mechanism after the uncertainty shock, mainly due to data constraint.
Under such circumstance, it is natural to ask the following research questions: how is FDI affected by the macroeconomic uncertainty in the destination market, and through what kind of channels do multinational enterprises make subsequent adjustments?
Accordingly, the main objective of this study is to make clear the mechanism of how Japanese multinational firms respond to heterogeneous types of uncertainty in the destination market. I will investigate how the interactions between parent firms and their oversea affiliates evolve in response to the uncertainty shock, and potential channels of adjustment will be differentiated
多角的貿易体制の重要性は、安全保障の問題や地球環境問題の対策の観点からも高まっている。また、自由貿易協定の増加に伴う貿易コストの低下は、国境を越えた経済活動の進展を促し、財・サービスの供給パターンの多様化をもたらしている。アジア地域におけるグローバルバリューチェーンの展開からの国際経済を通じた成長は、新しい国際問題に対処する必要性を明らかにしている。今日多くの国が地域経済協定を締結し、国際的な知的財産権の取引や提携(アライアンス)、直接投資や国際M&Aといった経済活動に影響をもたらしている。イノベーションの促進や経営資源の効率的な移転を通じ、企業の成長に直接的に影響を与えると考えられるため、国際取引による結びつきはアジアにおいては重要である。従って、多様な供給パターンの原因を把握し、適切な知的財産取引、金融、コーポレートガバナンスや市場構造に関する国内制度(知的財産権法、会社法、独占禁止法等)を構築する事は、円滑な市場取引の構築という効率性の達成のみならず、高付加価値産業の育成というアジア地域の経済発展に主要な役割を果たす。本研究では、市場環境が国内制度の変化に対応し変容するとの認識の下、多角的貿易制度の下で、国内制度と国際協力の相互依存状態での市場構造を分析する。国内制度の特殊性、普遍性を明らかにし、国際制度設計に対してのインプリケーションを導き出す。
本研究では、公共財が自発的に供給される経済において、経済主体間の交渉が果たす役割について考察する。 そのため、非協力ゲーム理論、協力ゲーム理論、戦略的協力ゲーム理論等、ゲーム理論の手法を幅広く応用して、 理論的な分析モデルを構築するとともに、国際環境問題の解決等の応用問題において、交渉が果たす役割を明ら かにする。古くから、公共財供給においては、資源配分のパレート非効率性が問題となることが知られているた め、本研究では、この問題が、自発的な交渉によって、どの程度解消可能であるのか、を検証し、よりパレート 優位な資源配分の実現を目指した交渉メカニズムを設計することも視野に入れる。
本研究の目的は, 財政政策および金融政策が日本経済にどのような影響を与えるかをヘテロ経済モデルを用いて定量的に分析することである。本研究では, こうした学術的な流れに沿った上で, 金融政策および財政政策が日本のマクロ経済に与える影響を, 所得分布および資産分布の側面に注意しながら, 定量的に評価していく. 具体的には以下の4つ点: ラッファー曲線, 課税所得弾力性 (Elasticity of Taxable Income, ETI), ファイナンシャルアクセラレータ, 物価水準の財政理論 (Fiscal Theory of the Price Level, FTPL) に着目し, それぞれ研究成果をまとめて査読付き学術誌に掲載することを目的とする。
本研究では,人々が家族内で生前贈与や遺産等の世代間資産移転を行う動機(遺産動機)と,贈与・相続税制が資産移転や消費・貯蓄行動及び労働供給に与える影響を明らかにすることに取り組む。近年,高齢者に遍在する資産の移転を促すために,相続税の基礎控除額の引き下げや,祖父母や両親から子や孫への教育資金の贈与に対する非課税措置等がとられている。これらの政策には消費を刺激する効果もあるかもしれないが,より裕福な世帯で資産移転が起こることによる教育格差の拡大や,一世代を飛び越した(祖父母から孫への)贈与を認めることによる租税回避の増加等の問題点も指摘されている。このような問題意識に基づき,世代間資産移転に対する政策の効果を,効率性と公平性(格差)の観点から世帯や個人レベルの個票データを用いて明らかにすることが本研究の目的である。
90年代以降、技術革新やグローバル化などで日本企業は事業再編を迫られてきた。2000年以降、日立製作所は川村改革、ソニーは平井改革を断行し、経営改革をやり遂げた。また、海外から資本と経営者を受け入れた日産のゴーン改革と鴻海傘下でのシャープの再建なども挙げられる。他方、パナソニック、東芝など多くの企業が未だに再建途上である。抜本的な事業再編の必要性を正しく認識していれば、リストラに伴う大赤字の覚悟は経営者予想などに反映されるはずである。本研究の目的は、行動コーポレートファイナンスの視点から、抜本的な事業再編の必要性よりも、過去の成功にこだわって衰退事業の復活を信じる甘い見通し、すなわち、経営者行動バイアスと日本経済の長期停滞との関連を検証し、経営者行動バイアスの是正を考慮した事業再編を促す企業統治をどのように構築できるかについて分析を試みる。
サイエンス・イノベーションかつプロセス・イノベーションという,当該技術が既存産業にもたらす効果や経済成長への効果に関する考察を進めることで,研究開発投資がもたらす社会的果実についての総合的評価や,第四次産業革命,industry4.0,グリーンエネルギー革命など現代における新たな潮流に対する経済効果について地理や空間の視点より包括的な評価を行う。
少子高齢化の進展に伴う社会保障費の膨張や恒常化する財政赤字により日本の公的債務残高(対GDP)は急増し、社会保障費の削減や増税を含め様々な改革が提案されているものの、財政・社会保障改革や世代間格差の是正は容易に進捗しない。この理由の一つとして、多数派の高齢者層などに配慮した政策を政治が優先的に選択するという「シルバー民主主義仮説」も深く関係する可能性が指摘されているが、様々な視点から、民主主義の根幹である選挙制度や財政統制のあり方を含め、人口動態変化に適合した財政・社会保障の仕組みを検討する必要がある。また、東アジアを含む諸外国においても急激な人口動態変化が予測される国々もあり、それが各国の経済財政や政治に大きな影響を及ぼす可能性も否定できない。そこで、本研究プロジェクトでは、人口動態変化と財政・社会保障の制度設計というテーマで、「シルバー民主主義仮説」の検証や、選挙制度や財政統制の改革の方向性を含め、実証経済学や理論経済学の両面から研究を行う。その際、日本のみでなく、諸外国の課題や動向も念頭に置き、研究を進める。
「日本経済の低迷の主要因は、日本企業の競争力の低下である。直接投資による海外進出の成功で競争力を高めていく企業がある一方、失敗して逆に競争力を落としてしまう企業もある。本研究の学術的な問いは、国際競争力を高めるための企業の投資戦略はどのようなものかを解明することである。本研究では、近年の貿易論で注目されている「企業の異質性」が海外進出パターンに与える影響・効果の分析に、企業の投資戦略タイプという視点を導入する。特に、戦略不全企業を適切な投資戦略によって戦略不全状態から脱却させることが、日本の国際競争力を高める上での重要なポイントとする。戦略不全企業は「ゾンビ企業」になっている可能性が高いため、組織内部・マネジメントの視点も入れ、「ゾンビ企業の復活」の研究も参考にする。適切な投資戦略に基づく直接投資が国際競争力を改善させる効果を測定し、企業が戦略不全状態を改善し競争力を回復するような海外進出パターンを解明する。
東アジアにおいてここ数十年興味深い貿易構造が形成されている。とりわけその中において域内貿易が貿易全体の半数以上を占めており、その域内貿易において中間財が主要な部分を占めている。一方、域外との貿易では最終財がより大きな存在となっている。本研究の目的は、このような貿易構造が東アジア各国間において経済相互依存や地域経済全体のダイナミズムとどのように関係しているかを国際マクロ経済的視点から分析することである。